NHK天地人(47)最終回
走馬燈を見る。
こうして今夜無事最終回を迎えました。NHK大河ドラマはこれまでのところ、主人公の死をもって終了します。一人の人間の誕生から死まで、つまり私からすると「他人の人生」を一年間かけてじっくり味わうことになります。
「天地人」では、御館乱(おたてのらん)が一つの分かれ目でした。この戦いをへて直江兼続は越後・上杉景勝を謙信公の後継者としてもり立て、兼続自身も、お船の婿となり直江家の名代を嗣ぎ、主君景勝から家老に取り立てられました。
もう一つの分かれ目は石田三成との友情と、その結果として天下分け目の「関ヶ原の戦」でした。上杉景勝は徳川家康に敗北し、名門上杉はここに会津120万石から一挙に出羽米沢30万石に減封されました。直江兼続は表だった敗北の責任を求められもせず、執政のまま上杉家の再起に力を尽くしました。おそらく、この敗北は兼続に深い自責をもたらしたと思います。直江家は兼続の死後、所領屋敷を上杉に返し家名は断絶しました。これは兼続やお船の意志でもあったはずです。
走馬燈を見るように一年間を振り返ると、兼続は上杉謙信と出会って以来、信長、秀吉、家康、徳川秀忠と直に渡り合う人生を過ごしました。その間常に無口な主君景勝の代弁者として、執政の役目を果たしました。関ヶ原が1600年で、亡くなったのが二代将軍秀忠の治世下1620年でした。60年の生涯だったわけですが、私が一番感心しているのは、関ヶ原以降の20年間、直江兼続は懸命になって上杉家の再起に力を尽くしたことです。米沢に学問所禅林寺(禅林文庫)を作ったのですから、執政として民政の文化面にも強く関わった兼続の威徳が偲ばれます。
さて最終回の見どころ。
臨終に近い75歳の徳川家康に、伊達政宗とともに招かれた兼続の、セリフの少ない場面が心に残りました。最後は駿府城の一室で、家康と兼続だけの対面になりました。家康は兼続を前にして、息子の秀忠の冷たい眼差しについて愚痴をこぼしました。「秀忠の目は、愛も信義もなかった父上の人生は一体何だったのです、と言っている」と。
兼続は家康に「その秀忠様に後をたくされた。だから、聡明な秀忠様ですから、お心の内は理解しているはずです」と答えました。
関ヶ原の戦いをへて20年近く経ち、兼続の晩年には徳川という私人がすでに公人となっていました。日本を統一し安定した政権を打ち立て、二代将軍に治世が引き継がれたことで、徳川は「公」となったわけです。その中で、兼続は家康から「義と愛」という精神を秀忠に伝えることを頼まれ、引き受けることになりました。この場面の事実はどうであれ、晩年の兼続が秀忠から厚遇を受けたことからも、最後を飾る名場面と思いました。
思いで深い役者達。
☆お船:常盤貴子さん
姉さん女房の役を上手にこなされました。画面に派手さはなかったのですが、兼続とは独立して様々な役割を果たしたと思います。兼続の不在中は自家を守り、主君景勝の奥方菊姫が京に上ったときは同行しずっと世話をしました。今夜は、江戸屋敷に一人住まう玉丸(景勝の後継者)の養育に力を尽くします。裏方の役割を常盤さんがこなしていく姿はいつも心の片隅に残っていました。
☆上杉景勝:北村一輝さん
最初からお気に入りでした(笑)。関ヶ原のころまでは本当に無口な役回りでしたが、その無口な姿がまるで北村さんの天性の役割と思えるほどでした。老境の姿が良かったです。
☆直江兼続:妻夫木聡さん
後述する小栗さんと同じく最初は気に入らなかったのです(笑)。理由は単純で今風のかっこよい若者を体現している雰囲気だったので、軽いというか「つまらぬ」と言う気持が先行してしまいました。ロートルから見る若者への嫉妬と思われそうですが、それとはまた違います。(私は日頃、若者達を頼もしく思っています)
要するに馬鹿馬鹿しく思えてしまうわけです。女性にもてる若い男性像は、同性からみると「口も聞きたくない、目も当てられぬ馬鹿馬鹿しい色男」となってしまうものです。
ところが。案に相違して天地人を毎回見ていました。それはつまり、すこしずつ「うん?」「なかなか」「よいなぁ」という気分が積み重なってきたわけです。
小栗三成と同じく、妻夫木さんは太閤晩年のころから口髭を蓄え出しました。そこからのっぺりした色男という印象が私の中で大転換をきたしたのです。よく考えてみると、セリフ廻しに渋みが加わってきました。特に終盤の家康との対峙場面はどの場合も、セリフが重厚でした。
というわけで、妻夫木さんは私の中で「これからますます輝く役者」となりました。おそらく後年の大河ドラマに出られたときは最初から期待をこめて、見つめることでしょう。
☆石田三成:小栗旬さん
感想はほぼ妻夫木聡さんと同じです。ただ役回りの上もあって、敗軍の将、斬首という運命がより私の気持ちを惹きつけたピークがあったと思います。懐かしく思い出されます。家康に「人はお前に付いていかない」と面罵された時の三成の気持ちが、小栗さんの表情によく表れておりました。
☆伊達政宗:松田龍平さん
後述する城田さんと同じく、顔立ちが日本人的でないのが違和感としてありました。役回り上、景勝や兼続への態度も横柄でした。しかし徐々に兼続に言葉少なく態度で好意をあらわしていく姿をうまく演じておられました。
家康が兼続を問責している場面で、つつーっと現れて家康の肩を揉み(政宗は家康の娘婿)、兼続にむかって「じゃまくさい男や、はよ出て行け!」という馬鹿にしたセリフをはきます。いかにも兼続を子供扱いした迫真の演技でした。ところが家康から「お前は、兼続を買っているようだな」と言われます。(兼続の窮地を救うために、家康の前から去らせたわけです)
要するに、政宗は兼続を評価しているわけですが、その態度が複雑で、そのややこしい所を笑顔もなく演じる松田さんが好ましく思えました。
☆真田幸村:城田優さん
現代日本人はモンゴロイド的な風貌を無くしていっている雰囲気を城田さんに味わいました。最初はまるで慣れない欧米の巨漢が、浴衣を着て現れたような、苦笑を漏らす情景でした(笑)。しかし、最後の大坂夏の陣の前に、兼続と語らった情景ですべてが解消されました。特に男優は芝居の中の人生時間で、ある程度歳を経ないと駄目なんだ、とも思った次第です。
☆初音:長澤まさみさん
いや実は、この女優さんは数年前の「功名が辻」でのクノイチ役以来、お気に入りなのです。今夜は随分加齢のご様子でしたが、亡き真田幸村の姉として、亡き三成の恋人として、そして兼続に一時的に惹かれた女として、よい味をだしておりました。
☆他にも一杯
上田衆の綿々、兼続のお父さん、弟、淀殿、……。ものすごく思いで深いです。これが大河ドラマの醍醐味なんでしょうね。家康や秀吉でさえ、今夜はすべて許せましたし、気に入った名場面を幾シーンも思い出せました。
というわけで。
今年の天地人は途中何度か「うん?」ともおもいましたが、つまりは、「若さ」「義と愛の一本調子」「屈託の少なさ」「明るさ」「多少の剽軽さ」で一年間を乗り切った作品だったと思いました。
最大の収穫は、直江兼続という男のことを知ったこと、上杉謙信公亡き後の上杉家の、歴史上での生き残りの苦労を充分知ったことでしょう。
そして最終回では、やはり意外なものいいですが、「私も兼続のように義と愛で余生をすごうそう」と思った次第です。お笑いになるかも知れませんが、そういう強い影響をもたらした大河ドラマと思いました。やはり死する時は兼続のように、「よう、頑張った」と仏顔をしたいもんです!
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