承前1:二階建て図書館列車考(8)改造車篇:あたご号2号【HO-サロ124】
承前2:小説葛野記:2009/04/28(火)責務の狭間、二社共存
概要
Nゲージ用自動運転制御装置(TOMIX 5563 TCS Automatic Operation Unit N)をHOゲージ用レール(KATO HOユニトラック)に組み込み、単線でのHOスケール・二階建て図書館列車の自動往復運転を実現した。
はじめに
一般に、地域観光施設や生涯学習施設のコンセプト(概念)の説明には、模型(ジオラマ)をもってあてることが多いです。これはジオラマが概念(想念・イメージ)と現実との間に橋渡しをする媒介となり、概念と現実間のメディア変換機能をもっているからです。
この考えに基づいて、すでに「二階建てトロッコ鉄道図書館列車・あたご2号(HO)」を作成しました。この図書館列車の機能を明確にするために、モデルとした鉄道車両はHO(日本では16番)と言われる線路幅16.5mm、縮尺1/80のものを使いました。これは日本で普及しているNゲージ(線路幅9mm、縮尺1/150)模型よりも若干大きいものです。原型とした列車はJRサロ124と呼ばれる二階建て客車です。この詳細は冒頭の承前1に記しました。
この大きめの図書館列車モデルを説明や展示のために運転するには、一般的な円周(エンドレス・レイアウト)配置ですとスペースがかさみ、移動や持ち運びが不便になります。これを解消するには幅40センチ、長さ180センチ程度の長方形レイアウトが最適です。しかしエンドレス方式とは異なり、両終端間を往復させるには人手によるスイッチの切り替えが数十秒毎に必要となり、はなはだ効率が悪くなります。そこで、自動往復機能の有効性が生まれます。
しかし調査したところ日本の鉄道模型世界での「自動(往復)運転」は、とくにHOゲージの場合は特殊な技術を必要とし、一般に普及しておりません。DCC(Digital Command Contorol)という方式によればこれらが可能となるわけですが、日本では高額な設備投資や技術的な難しさもまだ残っているようです。そこで日本で一番普及しているNゲージ鉄道模型で使われているTOMIXの「5563 TCS 自動運転システム」を、今回モデルとしたHO方式の線路で使えるかどうかを実験しました。このTOMIXの5563はあらかじめ10種類の自動運転モード機能を持っていますが、今回使ったのはモード1に該当する「自動往復」です。
↓写真:二階建てトロッコ図書館列車あたご2号(HO)と、編成

↑この列車編成は承前1で説明したサロ124(TOMIX製)改造の二階建てトロッコ図書館列車「あたご2号(HO)」と、それを牽引するディーゼル機関車DE10(KATO製)です。中間の黒い小さな貨客車は車掌車です。レールは幅16.5mmのHOゲージ・レール(KATO のHOユニトラック)です。
↓写真:HO用レールに取り付けた自製・列車通過センサー

↑写真上部は改造されていないTOMIXのサロ124(HO)です。写真下部のレールや自製のセンサー感知部との比較ができます。
レールの裏底面に設置した未改造のTOMIXセンサーから2本の線を引き出し、一本はレール(写真下部)に、一本は自製の「感知部」にハンダ付けしました。自製の感知部は真鍮板のような弾力のある金属なら他のものでも使えます。写真ではNゲージ車両用の集電板を使いました。この集電板とレールとの間を、金属製車輪が通過することで短絡し、センサーが信号を制御部に送る仕組みです。
この感知部とセンサーとを組み込んだ直線レールを、レールレイアウトの左右にセットしたことで、自動往復が可能となりました。
←列車・往
@===[センサー:3番結線]========[センサー:2番結線]===@ KATO製のHOユニトラック
列車・復→
以下に各部の説明をします。各写真をクリックすると拡大写真と詳細説明が現れます。
電源と自動運転制御装置
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この実験では、HOタイプ車両を動かすための電源や制御装置は、レールに組み込まれたポイント駆動装置以外のすべてをTOMIX製Nゲージ用のものを使いました。レールからみると相互に他社で、かつ規格(NとHO)が異なるわけですが、鉄道模型は世界的に直流12Vを線路に通電することが基本になっています。HOゲージはNゲージに比べて電気容量の問題は若干残るわけですが、電源に使ったTOMIXのN-1000-CLは比較的容量(1.2A)が大きく、HO用に流用しても問題はありません。
◎
TOMIXの自動運転制御装置は、4個のセンサーを処理できますが、本実験では左右の完全停止のセンサー2本を省略し、左右の加速減速センサーを2個接続しました。左右二個というのは、列車の進行方向(直流の極性にあわせて)によって、列車が通過したことを信号として受けた制御装置が、加速するのか減速するのかを内部で判定しているわけです。そして減速の終わりは停止です。これらのタイミングは、装置のツマミによって調整できます。
列車通過センサーの加工
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使ったセンサーはTOMIX製です。市場には3種類(ワンタッチ装着センサー、スラブレール用センサー、Nゲージレール組み込みセンサー)ありますが、前二者はすべて写真詳細説明に記した方法で、HOゲージレールにも取り付けることが出来ます。センサーの内部はブラックボックスなので詳細は分かりませんが、もともと自動信号機などで使われるのが一般的です。要点は、レールと感知部が金属車輪によって短絡されたかどうかを判定する機能を持つと言うことです。
◎
ただし、一度短絡すると列車が通過して次にセンサーを通過するまで3秒間は反応しない様に作られています。ですからセンサー間が隣接していたり、列車編成が極端に長くなり、同一センサー上通過に3秒以上かかると、機能不全になります。(電源のリセットで復帰)
他社(KATO)のポイント装置をTOMIXで制御する
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今回は使いませんでしたが、自動運転システムにはポイントを2個まで制御出来るモードが含まれています。別途のNゲージ用ファイントラック仕様(TOMIX)では、ダブルスリップポイントという複雑な複線両渡り用ポイントで試行した結果、カタログ通りの効果を確認できました。
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幅40センチで長さ180センチ程度の往復モデルでも、やがて駅舎と図書館を設営し、支線などを使いますので、とりあえず今回はHO用のKATO製電動ポイントを、TOMIXのNゲージ用電源やポイントスイッチで制御出来るかどうかを確認しました。相互に結線をつなぎ替えるだけで、実験結果は良好でした。
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ただしポイント電動駆動装置は、世界にはモーターを使うモデルもあり、今回のTOMIXとKATOの場合は両者共にソレノイド方式(コイルの中に稼働心棒がセットしてある)で、コンデンサーに蓄えた電流を一挙に放出しポイントを作動させるので、比較的互換性が高いものと推量しています。実際に長期間運用することで妥当性が明確になると考えています。
スラブレール用センサーについて
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センサーが3種類あっても方式に違いはありません。列車がどこを通過したかを判定するために、レールと感知部の短絡を診る方式です。他にロボットで使われるセンサーはもっと多様ですから、将来は鉄道模型にも取り込まれる可能性があると思います。
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さて、本実験の趣旨はHOゲージレールでの自動往復運転にあるわけですが、ここで副産物としてセンサーについて記しておきます。
TOMIXのスラブレール用センサーは用途がNゲージ用スラブレール(新設新幹線などで使われる、犬釘接合で枕木のないコンクリート道床レール)専用となっていますが、工夫次第ではNゲージレールに直接組み込むことも可能です。別途「専用センサー付きレール」もありますが、既設のレール・レイアウトに組み込むとき無理も生じます。その際、写真で説明したような方法があることも応用の一つと考えます。
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またTOMIXはセンサーその他の配線方法にTCS(Terminal Connection System)と名付けています。この詳細も今のところブラックボックスですが、最低限写真の様に結線を数珠つなぎにできる機能があることを理解出来ました。これは、実はジオラマ(レール・レイアウト)で経路の途中にポイントを挿入して切り替えることで、2つ以上のセンサーに同一機能を割り振ることもできます。つまり、減速開始センサーを数カ所に数珠つなぎで埋め込んでポイントで切り替える工夫です。なぜそのような工夫が必要かというと、自動運転制御装置には、センサーを受け入れるソケットに制限があり、たとえば4つの受け口をモードによって機能変更しているからです。
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もちろんDCCシステムのように車体搭載デコーダー(車体自己確認装置)で機番を割り振る方式も現在あるわけですが、センサーにPC世界のSCSIのような機番がもてるようになれば、この現行通常方式でもセンサーの使い勝手が上がると思いました。一個の受け口で各センサーを識別できるようになります。
以上は、正確な仕様書なしで、現実のコントローラを診ただけの推量に過ぎません。ただし副産物として記録しておきます。
狭い空間を往復運転する「あたご2号」
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写真ではまだレイアウト基盤(幅40センチ、ながさ180センチ程度)を用意していませんが、KATOのHOユニトラックは道床方式なので、このように自由に仮設営ができて簡便です。類書を見ますと、HOゲージでもフレキシブルレール(自由変形)を用いて、60センチX90センチの小さなレイアウトで半径25センチのエンドレスHOゲージを設営出来るようですが、一般にフレキシブルレールは完全固定を前提としています。
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他にドイツのフライシュマン(Fleischmann)製のレールでは道床付きレールでも半径35センチ程度の円周を構成できますが、HOゲージは車両の可動半径に制限が強く基本的にNゲージのような小空間での円周エンドレス運転をできるようにはなっていません。
よって、小さな隙間でも、間にドアなどの遮蔽物があっても、概念上エンドレス運転を可能とする自動往復装置は今後もその役割を果たすと考えます。その意味でも、今回の実験成功は、鉄道モデルによる「未来の図書館」を表現するのに役立つと確認しました。
まとめ
鉄道図書館列車の構想を、その概念全体を明瞭にするために一旦鉄道模型ジオラマにメディア変換するには、物理的に比較的大型の模型車両が必要です。これまでは、地域全体を表現するためにNゲージタイプのジオラマ「嵯峨野鉄道図書館列車ジオラマ」を構成してきましたが、最近、図書館列車そのものを明瞭に表現するためにより大きいHOゲージのサロ124を改造し、「あたご2号(HO)」を開発しました。
しかしHOゲージになると、移動設営のための諸設備がNゲージに比べて大規模になります。これを解消するため長方形の基盤上での直線運転に取り組み、今回実験ではその自動往復運転を可能にしました。
こういう方式はDCCというデジタル方式によれば容易に実現できることは周知ですが、装置や設備投資、扱いの簡便さからみて、Nゲージ用に普及している装置を、HOゲージレールに組み込むことで、簡便な自動往復を実現することが出来ました。
今後は同装置によって、レール・ポイントの自動切り替えモードを応用し、より具体的な図書館列車の運用を実験してみたいです。