はじめに
最近いろんな機縁があって、ついつい何十年かぶりにSONYのSMC-70マシンに、ゲームのフロッピーディスクを入れてオンした。
動いた!
この大学に着任して、初めてまともにゲーム・システムを稼働させたことになろうか。
この15年間で、電源を入れたのは数度あるが、いつもそれで止めた。何故か分からない。動かないかもしれないのが、怖かったのだろう。
幻の古代王朝・京都篇
| 今日試したのは、1983年に発売された『幻の古代王朝』京都篇である。アドヴェンチャー・ゲームに分類されているが、私はRPGと思っている。ただ、当時のRPGとは異なっていたのも事実である。
私は、当時1982年、たった一年間で4つのゲームをSONYに納めた。京都篇、吉野篇、飛鳥篇、それに「法隆寺の謎」だった。それで、自宅を売らず、一家離散を防げた。まことに、芸は身を助ける(劇笑)。
法隆寺の謎は、Cで記述し、前三者はすべてSONY-BASICだった。
実に、不思議なほど短期間で開発できたのは、SONY-BASICが他に類を見ない開発言語として設定されていたことによる。~が、この話は後日に、別記事で。
当時の担当課長は、品川という方だった。補佐に桜井という若い人もいた。今にして思えば、マシンの提供、開発援助、全てに於いて深い感謝の念をここに記しておきたい。
私も、当時のSONYの品川課長も、……。暗中模索だった。そしてご存じFM-TOWNS開発者のふうてん爺さんも、まことに「パソコン黎明期」に生きていたんだ。
それでは、当時のルナ企画(Luna)開発主任・ゲームプログラマー、浅茅原竹毘古として、パソコン黎明期の記録を残す事にする。
今回は、その(1)京都篇の解説です。
京都篇タイトル
| パッケージの内容紹介をみてみると、「古代より日本に伝わる三種の神器には大きな謎が秘められていた。今に伝わる「鏡、剣、勾玉」は室町時代に作られた複製である。本物は南北朝時代の争乱の折、ひそかに京都、吉野、飛鳥のある場所にはこばれ、現在も秘蔵されている。この謎をとけるのは誰か~」
「豊富なグラフィックで描き出す京都の全て。チャレンジャーの条件に応じて変わる難易度。三部作の大河異色アドベンチャーゲーム第一弾、京都篇」
なんというか、あははは。人間は、あんまり変わらないところがあるようだな。今から、25年前の私が、そこにいた。
地図表示
| さっき少し遊んでみた。あるボタンを押すとLuna-Main-Computerのヒミコに接続し、そこでまとめてサービスを受けられるようになっていた(笑:もう、忘れている)。データベース検索(歴史事典)、状態確認、そしてこの地図表示である。この地図は論理地図だから、どこに御所があり、どこに魔物がいるかまで分かるようになっている。ただし、これらのサービスを何度も受けると、法外な使用料をとられて、あっけなくゲームオーバーになる。
状態表示画面
| たしかに、RPGと考えるとコンディションは少ない。しかし、開発者は、そういう小手先の操作よりも、歴史の流れを利用者が把握することを願ったふしがある。
もともと、当時のBASICで現今のイベント・ドリブン方式を埋め込んだのだから、オプションを増やすことは可能だった。だが、思い返してみると、一言「納期、時間切れでしんどかった」のだろう、な。当時のSONYは気前よく50%前金だったので、納期は厳守だった。
SMC-70(SONY)
| 名機だった。一、二年後の富士通FM-TOWNSが名機だったことと二極化していた。SONYはこの時代、実に地味で堅固なCP/Mマシンを出したわけである。当然売れなかった(笑)。しかし、このSMC-70の詳細は後日、別途記事を書く。
トリニトロン・カラーモニター
| モニターが記念碑だった。私は銀座のSONYビルでこのモニターの色、輝度を見て、SONYに手紙を出した。「貴社マシンで、ゲームを作らせてください」と。マシン一式が届いた時、私は狂喜乱舞した。なにしろ、3.5インチFDを付けたSMC70一式は現在の自動車程度の価格がしたのだ。
追想
未知のSONY本社パソコン部門に、原稿用紙で10枚ほどの熱烈なオファーをした記憶がある。
当時、RPGにしてもアドベンチャーにしても、いずれも美姫と騎士が多く、なんとなくバタくさいのしかなかったから、純和風を作りたかった、のだろう。
銀座のSONYビルでみたSMC-70は、まるで宝石に見えた。そしてOSが、当時の日本のパソコンでは絶無に近いCP/Mだった。その上で走るBASICは雑誌で見かけて、これこそ「私が使いこなしたい新しい言語」とおもった。なにしろ、LISPもおどろく定義文埋め込みが可能だったのだ。それを使って再帰的にいくつかのルーチンを使って、ゲームを早々と完成させた、~。
付録1
以下にパッケージに付された解説書を掲載する。内容は今になって読んでみると、SONYの関係者が随分工夫して書いていたことに気がついた。私は一作目パッケージを受け取ったときは、二作目(吉野篇)の開発に懸命だったので、この20数年間、まともに内容を読んでいなかった。
京都篇解説書0:遊び方→モノクロの金閣寺絵はゲーム中にカラーで表示される。
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京都篇・解説書1:あらすじ。ゲームのはじまり、はじまり。
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京都篇・解説書2:なんと「身上調書」をとられてしまうのだ。旅を無事に終えるための親切なアドバイス。
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京都篇・解説書3:最後に→無事「勾玉」を手にすると、あるキーワードが表示される。これが次作『吉野篇』につながる。しかし現在の私はこのキーワードを覚えていない。ソースプログラムを見れば分かるはずだ(笑)。
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付録2
この作品が出たときに、当時ASCII社で雑誌「Login」を編集していた塩崎さんという方が、はるばる東京から、京都宇治の木幡に尋ねてきてくれた。その記事が雑誌に数頁にわたって掲載された。編集者は有能な方で、いま読み返してみると、「これや、このゲームを買わないと~」という気持ちにさせる。以前記念に掲載したので、ぜひご覧ください。
雑誌 Login 1983.10月号 『幻の古代王朝』
追伸
今回の京都篇は、雑誌ログインの記事もあるので内容紹介はこれくらいにした。次回(いつになるやら)の吉野篇は情報がないので、ソースプログラムを解読しながら、できるだけ画面写真を多くして、解説記録する。SONY-BASICのソースレベルでみないと、現在の私は当時の私のロジックを追いかけるのが難しい。つまり、プログラム原本を見ながらゲームしないと、結末にたどりつけないということだ。