小説木幡記:2007/07/07(土)虚飾の帝都に遊ぶ
東京ミッドタウン
旅籠定め
最初、えどるん君はリッツ・カールトン東京に余の旅籠(はたご)を定めようとしたらしいが、余の満足するまともな部屋ならば一室あたり7~8万円かかると知って、急遽余のノリ気を止めた。結局、いまや古色蒼然としてきた隣の六本木ヒルズ近くに変えてしまい、そこは九州のどこかの県人会関係ホテルで、ぐっと賢い経費ですんだ。ういた余剰金は、おそらくCPUコアが四つもつくという、幻の「Core 2 Extreme QX6700」になるだろう、脳。
六本木のワインバー
待ち合わせ場所は六本木のミスター・スタンプス・ワイン・ガーデン(MuBlog)だった。すでにふうてん所長とJo社長とは到着して談笑していた。伴のえどるん君は、Jo社長には初めての接見だった。軽い緊張が見られた。
余もひさしぶりだったせいか、宿からレストランまでの徒歩約5分の間、なにか違和感があった。特上の席に勧められ、着座し窓の外を見たとき初めて原因がわかった。このレストランは、旧防衛庁敷地跡の真横にあって、そこは三年前に訪れた時は地図にも、現実にも、なにもなかったはずだ。それが、威圧するようなビルが近所に建っている。そのせいだった。
このあたりは防衛庁の旧施設、戦前は帝国陸軍歩兵一連隊がおった処。というか、226事件の火元と言ってよいだろう。
ひさしぶりの風雪梅安一家が顔をあわせ、密議謀議をしている間、余は遠い昔のこのあたりの霊気を肌に感じていた。ふうてん所長とJo社長は年代もののワインを次々と開けて飲み干していた。余とエドルンはひたすらナイフを使っていた。メインはシャモにした。所長とえどるん君は子羊にした。社長はステーキにした。エドルン君はしきりにうなずき、メモなしで総ての謀議を脳に刻印していった。特技である。
世界企業を傘下にするのか?
抱腹絶倒、空前絶後の謀議だった。226事件もかすんでしまうような、資本主義世界に雷電の轟きが走るような、謀議参加者は一夜にして某世界企業を傘下に置くような、すばらしいアイデアが続出した。
ああ、思い出すだに恐ろしい一夜であった。
余が、この清貧をこととする老翁が、Tokyo Midtown Residences をワンフロア借り切るような、訪ねてくる者らをリッツカールトンに下宿させるような、すさまじい成果をもたらす謀議であった。アラブのオイルダラーも遠くかすみ、六本木(ヒ)のように古色蒼然としてくる話じゃないか。
社長も所長も大いに気を吐き、ボトル数本も空けた上、清貧の余と、えどるん君を歓待してくれた。太っ腹なり。
リッツ・カールトンの45階
さて、その後、余はうらぶれた六本木(ヒ)裏の宿に帰ろうとした。すでに深夜9時を指していたし、えどるん君も深夜帰宅は都合悪かろうと、そそくさと東京ミッドタウンを離れようとした。すると、所長が袖をひっぱった。そのままリッツカールトンの迷路のような廊下を、インフォメーションのお姉さんに先導させて、高層エレベータの前まで引っ張っていった。
「ふうてんさん、どこ行くの、もう遅いよ」
「せっかくだから夜景でも。Joさんもおることだし」
そう。噂に聞いておった。六本木(ヒ)の方ではエレベータに乗るにも1800円も取られるとのこと。しかし、所長と社長が引き留めるのだから、しかたないような、安心なような~。
たしかにここはチケットを必要としないまま、超高速で地上から200m離れた45階まで飛び上がった。
ソドム狂乱ではなかった
さて。そこからが、札束の乱舞する虚飾の世界だった(笑)、と思ったら。
なんのことはない。
テーブルチャージが一人2500円。珈琲が5500円。コーラが700円、ビールが1500円。うむ。思ったほど乱舞しない。要するにメモリ500MBで席に座れて、中古のグラフィックスボード一枚で珈琲が飲めて、ケースファン一個でコーラが飲めて、なんと、ビールはSATA2ケーブルが二本分ではないか。
ああ、東京も気楽な町よのう。祇園の御茶屋にはなかなか背比べできないねぇ。まだまあだ。
あまりのはした金に、席を立つとき、皆にどう言おうかと迷ったら、すかさず所長が気を利かせて社長と折半した。生憎余は小銭をもたない主義なので、助かった。こういうお代の始末は、お好み焼き屋で割り勘するような気恥ずかしさがある。えどるん君は財布をさわっていたが、余が目配せした。
「こんな席では、レイディはやたらに財布をさわるものじゃない。見苦しいことだよ、えどるん君」
「はい、マスター、わかりました」
帝都夜景
45階から東京を見ると、しかしまだ超高層には思えなかった。仁徳天皇陵を高層ビルから見たときも、目の高さに山がみえた程度のものだったが、ここもそうだった。しかし、夜景は美しいものだと思ったよ。ビルや自動車のライトが人工的で、よい。
東京タワーの全景
パーク・レジデンスとイーストとの間に立つと、東南約1.5キロの遠方に東京タワーが見えた。離れたところから東京タワーの全体が見られるのは珍しいと、Jo新社長もふうてん所長も申された。写真にとってはみたが、ぼやけてしまった。
よき、帝都の一夜であった。
参考
ザ・リッツ・カールトン東京 お部屋代は7~8万円のようです。夜景を見るには少し割高ですね。
東京ミッドタウンレジデンス 賃貸料は40万円~150万円程度のようです。広さの割にはちょっと高額ですね。
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