カテゴリー「読書の素」の70件の記事

2007年2月 4日 (日)

オーパーツ大全 : 失われた文明の遺産/クラウス・ドナ、ラインハルト・ハベック共著

オーパーツ大全 : 失われた文明の遺産 / クラウス・ドナ、ラインハルト・ハベック共著 ; プシナ岩島史枝訳

オーパーツ大全 : 失われた文明の遺産/クラウス・ドナ、ラインハルト・ハベック共著
  <オーパーツ タイゼン : ウシナワレタ ブンメイ ノ イサン>.
   (BA7333035X)
  東京 : 学習研究社、2005.7
  472p ; 20cm
  ISBN: 4054024017
  別タイトル: Lexicon of"out of place artifacts"
  著者標目: Dona、Klaus ; Habeck、Reinhard ; Puschina Iwashima、Fumie
  分類: NDC8 : 209.3 ; NDC9 : 209.32
  件名: 世界史 -- 古代 ; 遺跡・遺物
所蔵図書館 23[By Webcat 20070204]

(1)帯情報
超古代文明の遺産か、それとも、異星人の忘れ物か!?
アカデミズムが恐れる、あってはならない遺物が、ここにある。

 恐竜と同時代の人間の足跡
 2000年前の天文コンピュータ
 三葉虫を踏み潰すサンダル跡
 ヒトの発生過程を描いた古代円盤
 三角翼ジェット機をかたどった古代の黄金ペンダント
 世界地図が浮かびあがる岩
 紫外線で発光する謎のピラミッド・アイ
 1億4000万年前の貝といっしょに化石化した純鉄ハンマー
 古代エジプトの電球壁画
 イリジウム金属球が埋め込まれた土偶
 2000年前の電池
 現代技術でも再現不可能な水晶ドクロ

(2)目次情報
はじめに
  ラインハルト・ハベック
  クラウス・ドナ
第1章 アカデミズムが恐れる遺物「オーパーツ」を求めて
  1 「未解明の謎展」: われわれは過去の真実を知っているか 
  2 埃に埋もれる歴史: 場違いの加工品
  3 無視された証拠物件: 「未解明の謎展」への招待
第2章 世界初公開 南米の知られざるオーパーツ
  4 エルドラドの追跡: ボゴダの黄金美術館
  5 捜せば見つかる: やっと手応えがあった
  6 未公開の遺物を発見: エクアドルの調査
  7 洞窟で発見された驚異の遺物: クレスピ神父の金属図書館
  8 伝説時代の思い出: カブレラ・コレクション
  9 ナスカの地上絵: 地上絵を描いたのはだれか
 10 ファイルX: 集まりだした遺物
第3章 進化論と地球史を根底から覆すオーパーツ
 11 地球史の謎: 繰り返される大量絶滅
 12 足跡化石をめぐる論争: 人類はいつから存在していたのか
 13 太古の加工品: ありうべからざるもの
 14 恐竜と人類の共存はあったか: 遺物が語る真実
 15 巨人は実在した: 神話から実在へ
 16 人類発生にまつわる疑問: ミッシング・リンクは見つかるか
第4章 失われた超古代文明のオーパーツ
 17 人類文明の起源: 失われた文明の存在を求めて
 18 アトランティス論争: 消えない夢、解明されない謎
 19 ムー大陸と与那国島海底遺跡: 大洪水で海底に沈んだ文明
 20 ラ・マナの秘密: エクアドルの古代文明
 21 バローズ洞窟と解読不能の文字: 謎に満ちた世界各地の古代文字
 22 ノモリ: スカイ・ストーンを守る者
 23 星の子供たち: 地球外生命体の痕跡
第5章 失われた科学テクノロジーのオーパーツ
 24 すべては存在した: 古代エジプト・中国の最先端技術
 25 ファラオの光: 古代エジプトの電気
 26 スタタウサの驚くべき遺物: ムイスカ族の繊細な道具
 27 発生学円盤: 描かれた絵に隠された情報
 28 水晶ドクロの魔力: 太古の驚異的な加工技術
 29 インティ・ナンと「時の識者」: 世界各地に残る巨石遺構
 30 文明が滅亡するとき……
あとがき

(3)関係サイト
  http://unsolved-mysteries.info/
 ↑「未解明の謎」Unsolved Mysteries 日本語、ドイツ語、英語、フランス語の四カ国語で掲載されている。ただしより広範な情報は、日本語には少なく、他の三カ国語で詳しい。(ウィーンでの展覧会内容など) このサイトには、図書で説明されたオーパーツのうち代表的な遺物の写真が掲載されているので、読書人必見の物と言えよう。

(4)Mu感想
 過去の幾つかの読書経験からすると、大部で安定した内容だった。オーパーツという主に、通説からすると時代的にあり得ない遺物、たとえば1億年前の人間の足跡化石や、現代でも造りがたい水晶ドクロなどを、世界から集め、博物館・展覧会を企画し実行した経緯とその内容が、ある程度以上に客観的に描かれている。つまり著者らは、「こうだ!」とは言い切っていない所が多い。
 最初は世界の博物館や美術館、研究者に秘匿された遺物の貸出を求めるのだが、殆ど断られる。大英博物館は数点許可したらしいが、保険の額や、展示品に関する解釈の相違から断った、というような一節があり、興味深かった。それは、ドナやハベックがオーパーツとして解説ラベルを付けようとしても、大英博物館の学芸員が現地でチェックし「それは、単なる装飾品として、説明していただかないと契約違反です」と、なるそうな。
 それで南米を中心として現地に直接訪れ、主に個人秘蔵の物から集め始めると、紆余曲折を経て多数のコレクターに許可され、ついには「未解明の謎-不可解な世界展」を2001年ウィーンで開催できた。
 クラウス・ドナは日本人女性と結婚しており、国際的なカルチャー・マネージャーとして、世界そして日本でも美術展を多数手がけてきた。

 詳細な感想については、Muカテゴリー「読書の余香」で別途掲載する。(MuBlog: 感想文

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2006年12月29日 (金)

お正月の読書の素

 今朝は雪がふる予定で、身動きできないはずだったが、木幡は晴れていた。これまで撮った写真やビデオでも整理しようとおもったが、一杯ありすぎて挫折。いくつか小綺麗な写真を数種類コラージュにもしてみたが、人人が写っていたので判断にまよい、頓挫。不用心に撮るから見知らぬ人が大写しで後に写っている、モザイクかけたりぼかすのも面倒だし、かといってトリミングすると変な構図になる。また、葛野近辺や、葛野来訪者達は、結構小綺麗に沢山写っているが、若い人が多いからなにかと迷惑をかけるのも申し訳ない。それでも、組写真に入れないと意図が不明になる。そんなこんなで迷っていると、しんどくなってきたので、一旦写真やビデオ整理は止めて他のことを考えてみた。
 今日も実は葛野にでかけて大仕事をしなければならないのだが、「なんで年末に出掛けて~」と、腹立たしくもなる。しかし、やっておかないと正月明けは大変なことになる。書類の山、かき分けていくつかある約束事を果たしておかないと。そうだ。松の内に、なにか余は委員会仕事で発表する役割を振られている、……。

 というわけで。
1.プルート/浦沢直樹の4を眺める。
  →ここまで来たか、という感慨にふける、予定。
2.犬坊里美の冒険/島田荘司(カッパノベルズ)
  →これは、専門家スジによると、出色の新シリーズらしい。楽しみ。
3.地果て海尽きるまで(上下):小説チンギス汗/森村誠一(ハルキ文庫)
  →これ、映画になるはず。もともと「モンゴルの残光/豊田」以来、この世界は好み。
4.風の影(上下)/カルロス・ルイス・サフォン(集英社文庫)
  →わからない。ともかく話題のミステリのようだ。海外ものは大抵満足する。
5.マヂック・オペラ/山田正紀(早川)→まだ積んであった。
  →読み出すと迷路にはまるので、なかなか決心がつかなかった。昭和の鎮魂、SFのような満州物のような、いわく言い難い作品のはず。前作は感動したし。
6.イリアム/ダン・シモンズ(早川)→さらに積んであった。
 →これは長い、重い。しかしシモンズさんの作品ははずれがなかった。安心して埋没。

 なんとなく余の読書傾向は非常な「楽しみ」追求型で、求道的ではない。しかし今時求道読書なんてあるのだろうか。と、こんな風に「さて、何を読んだらよい?」と、わすれてしまうので備忘録。そうだ。一月半ばにGシリーズの最後が出るはず。ああ、忙しい。
 数えてみるとまともに読書出来るのは1日、2日、3日、この三日間だけだな。しかしこの三が日が絵にも描けないおもしろさ~。
「Muさん、難解な古典読解はどうなっているんでしょう」と、空耳。
 まあ、お正月くらいは、気楽に読書がよろしいようで。

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2006年3月30日 (木)

謎の大王継体天皇/水谷千秋

謎の大王継体天皇/水谷千秋

謎の大王 継体天皇/水谷千秋
  水谷千秋著
  (文春新書 ; 192)
  東京 : 文芸春秋、2001.9
   228p ; 18cm
  ISBN 416660192X
  主要参考文献:p228
著者標目:水谷、千秋(1962-) [ミズタニ、チアキ]
分類: NDC8:210.32、NDC9:210.32
件名: BSH:継体天皇 、BSH:日本 -- 歴史 -- 大和時代

帯情報
・カバー裏

「武烈天皇が跡継ぎを残さずに死んだあと、畿内を遠く離れた近江・越前を拠点とし、「応神天皇五世の孫」と称する人物が即位した。継体天皇である。この天皇にまつわるさまざまな謎--血統、即位の事情、蘇我・物部・葛城などの大氏族との関係、治世中に起きた「筑紫君磐井の乱」との関わり、「百済本記」に記録された奇怪な崩御のありさまなどを徹底的に追究し、さらに中世の皇位継承にその存在があたえた影響までをも考察した、歴史ファン必読の傑作。」

・帯
★継体はそれまでの大王家の血はひいているのか
★即位後、大和にはいるまで何故二十年もの歳月を要したのか
★蘇我氏台頭のきっかけは継体擁立だったのか
★筑紫君磐井は本当に自分から反乱を起こしたのか
★継体と太子、皇子が同時に死んだというのは事実か
★継体死後、二つの王朝が並立、抗争したのか

目次
謎の大王 継体天皇・目次
はじめに
第一章 継体新王朝説
  継体天皇の故郷・近江
  越前三国から樟葉宮へ
  真の継体陵・今城塚古墳
  王朝交替説
  河内王朝
  継体=息長氏出身説
  近年の研究動向
  継体天皇と現代

第二章 継体出現前史―雄略天皇、飯豊女王の時代
  稲荷山鉄剣銘発見の衝撃
  雄略天皇
  葛城氏との対決
  吉備氏との対決
  雄略の人間像
  清寧天皇
  王位継承者の途絶
  推古崩後の状況
  孝徳即位時の状況
  王族の脆弱性
  巫女王・飯豊皇女
  飯豊皇女の擁立
  飯豊皇女から顕宗天皇、仁賢天皇へ

第三章 継体天皇と王位継承
  「上宮記一云」という史料
  継体天皇の系譜
  牟義都国造と余奴臣
  息長氏と三尾氏
  「上宮記一云」と「継体紀」
  『日本書紀』の語る継体の即位
  倭彦王の物語
  「仁徳系王統の断絶」は史実か?
  『古事記』の語る継体即位
  河内馬飼首荒籠
  継体は地方豪族か
  「二つの大王家」論
  倭王武の上表文
  「応神五世孫」の系譜

第四章 継体天皇の即位と大和定着
  『記・紀』の継体后妃記事
  長浜古墳群と息長古墳群
  手白髪皇女
  畿内出身の后妃
  安閑天皇の后妃
  宣化天皇の后妃
  后妃からみた継体の支持勢力
  『記・紀』にみる傍系王族の実態
  傍系王族の地方土着化
  仁徳系王統衰退の要因
  六世紀以降の王族
  王族の自立化
  継体の諸宮
  磐余玉穂宮遷都
  大和進出が遅れた理由
  反継体勢力はだれか
  「非葛城連合」
  葛城氏と蘇我氏
  蘇我氏と継体天皇
  蘇我氏台頭の背景

第五章 磐井の乱:地方豪族との対決
  磐井の乱
  『古事記』の所伝
  「筑後国風上記」の石人石馬記事
  「筑後国風上記」の磐井の乱伝承
  『日本書紀』の所伝
  磐井と新羅の内通は史実か?
  征討軍の派遣
  「安閑紀」の屯倉設置記事
  那津宮家の設置
  九州支配の強化
  考古学からのアプローチ
  「有明首長連合」の成立
  磐井の乱の本質
  継体の大和定着と磐井の乱

第六章 辛亥の変:ニ朝並立はあったのか
  二朝並立論とは?
  継体の崩年
  安閑の即位年
  継体から安閑への譲位
  「二種類の百済王暦」論
  「辛亥の変」の一解釈
  欽明、宣化と安閑
  安閑の支持勢力
  安閑への譲位の失敗
  「辛亥の変」の意義
  有力豪族による合議制
  『日本書紀』にみえる合議制
  合議制の主導権の所在
  次期天皇の選定、即位要請
  中央豪族による政権掌握
  国際情勢と継体朝

終章 中世以降の継体天皇観
  「万世一系」と継体天皇
  後鳥羽天皇の即位
  『愚管抄』の継体天皇観
  後嵯峨天皇の即位
  後光厳天皇の即位
  継体とその後の王位継承
  天皇と武家
  継体と中世以降の天皇
  「上宮記一云」の継体出自系譜
  継体天皇の人物像

あとがき
主要参考文献
写真提供/福井市役所

Mu注記
 継体天皇は近江国高島郡三尾(みお:滋賀県高島市)で育ったという。母親・振媛(ふるひめ)がこの三尾氏の出身らしい。父親の彦主人(ひこうし)の別荘地だった。父親はたしかに応神天皇の四世の孫のようだ。越前で育ったという説は、半ば棄てられている。これはめずらしかった。ただし母親の祖母が越前三国である、その縁は残っている。

 このあたりのことを水谷が解釈する基本文献は、帝記[Mu注:欽明天皇時代の大王系図か?]をもととした古事記や、釈日本紀[原注:「鎌倉時代末期に占部兼方によって書かれた『日本書紀』の注釈書」]に一部引用の「上宮記一伝(じょうぐうき・いちにいう)」が使われている。古事記の扱いは、日本書紀よりも潤色が少ないと言う点で、水谷は骨組みを理解するのに多用している。

 私は、こういう学術図書にしては一気呵成に読んだ。オリジナルは水谷の『継体天皇と古代の王権』(和泉書院)と記されていた。新書は一般にわかりやすく平明に書かれているが、本・文春新書は内容が薄いわけではない。いままで分からなかった事が明晰な筆致、論理の運びで丁寧に記されていた。

 読者は、読めば分かるのだが(笑)、私が一番感動したのは、樟葉、筒城、弟国宮と遷り、樟葉宮での即位から数えて二十年も後に「大和入り」、すなわち磐余玉穂宮に入った経緯だった。素人として幾分ミステリの雰囲気で読んだのでネタバレは避けるが、一つは、三つの宮が決して単なる気ままな置き去りの引っ越し先ではなくて、大和入りしたあとも、琵琶湖、淀川、木津川、宇治川を見据えた継体天皇の経済基盤であったこと。
 さらに、継体天皇の近い先祖である息長氏は近江坂田郡(長浜から米原近辺)が本貫地であるだけでなく、南山城にも息長氏の勢力圏があったという指摘には、「そうなのか」と感動した。

 そして、勿論二十年の間、大和の中枢豪族、大伴氏や物部氏は継体天皇を擁立していたが、たしかに反継体天皇連合もあったという明確な事実指摘もあった。これは、ヒントとしていうならば、仁徳天皇系に関わる氏族の一団だった。

 感動はいくつもあったが、もう一つ。
 継体天皇崩御に関して、『日本書紀』引用の「百済本記」に天皇、太子、皇子が三人同時に死亡したという記述があり、このことの解釈がいろいろあったようだが、水谷はわかりやすく説いていた。答えは(笑)。天皇は継体天皇でしょう、~、云々。これも「ああ、そうなのか」と、私は単純に感激した。

 さらに、後世、特に中世、この継体天皇の即位をもとにして、歴代政権がそれをどのように慣例・拡大解釈扱いしてきたかについては、私には初めてのことだったので、歴史の流れについて新たな目を開かれた。

 と言うわけで、これを何度か読めば、継体天皇に関する問題点や、その解の一つ一つが、多くの古代史愛好家にはストンと胸に落ちるであろう。勿論、常に他の可能性も丁寧に引いてあるので、これこそが正当な学術書の姿だと思った。優良書である。

継体天皇関係地図
 出生・生育地滋賀県高島市安曇川町三尾里か?
 即位・樟葉宮:大阪府枚方市楠葉の交野天神境内か?
 筒城宮:[MuBlog参照:筒城宮
 弟国宮:[MuBlog参照:乙訓寺付近]
 磐余玉穂宮奈良県桜井市池之内付近?

参考
  『謎の大王 継体天皇』[pata]
  今城塚
  継体天皇
  今城塚古墳[MuBlog

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2006年2月 7日 (火)

啓示空間 (Revelation Space)/アレステア・レナルズ

啓示空間/アレステア・レナルズ 著、中原直哉 訳

啓示空間/アレステア・レナルズ
  早川書房:東京、2005/10
  1039p;16cm
  (ハヤカワ文庫;SF1533) 
  ISBN 4-15-011533-8
  定価 1400円
  NDC(9): 933.7

帯情報

その内部には「啓示空間」があり、驚異の科学技術が隠されているといわれる謎の空間シュラウドからただ一人生還したダン・シルベステは、リサーガム星で異星種族の遺跡を発掘中、その滅亡の原因を解く鍵として、中性子星ハデスを差し示す手がかりを得るが……99万年前の異星種族絶滅の謎、巨大ラム・シップ内の暗闘、中性子星に隠された秘密などを背景に、人類の存亡をかけた戦いをグランドスケールで描く迫真の宇宙SF!

Mu注記

 まず重い。一千頁を越える文庫というと、魍魎の筺/京極夏彦、クラスである。Muは寝読しかしないのだが、夜半10時を過ぎると突然顔面に落ちてきたことがたびたびあった。遅読なので、おおよそ実質一週間程度かかったようだ。普通の人でも、丸一日は必要だろう。

 で、秀作である。このての重くてハードでしっかりしたSFは久しぶりだった。なんというか、驚愕し続けたので、無事読み終えたときは、ほっとした。一見して冒険もののように思えるが、謎がちりばめられていて、ミステリと考えてもおかしくない。途中でいろいろな伏線があって、あとで気がつく。

 啓示空間という翻訳タイトルは、あたっているともいえるし、もっと宇宙全体に思いをめぐらす象徴ともいえる。ただ、言えることは「宗教」を完全に凌駕した、彼方の話、空間だということだ。と言っても、小難しいへりくつ、変に哲学的な内容でもない。

 登場人物が皆々変わっているので紹介しておく。彼女ら、彼らがすさまじい活劇と推理をサイバースペースの中、深宇宙、巨大な宇宙船のなかでくりひろげる。
 まず宇宙船は、Nostalgia for Infinity(無限への郷愁号)と言って、その大きさが、エレベータの階数は1500階ほどで、シャフトの長さは4キロある。収容人員はMuが数えただけでおおよそ30万人、しかしそこに乗っているのは、「委員会」と呼ばれる3名と、百年以上病床(ウィルスによって機械と有機体とが融合し成長する癌)に伏す船長一人。あと補助員が2名程度。今は、残りはすべて船体そのものとネズミロボット、幾つかの原始ロボットだけが船内を操作している。勿論、船体は最高度のロボットで、攻撃を受けると自分で治療し、直す。また、何年かおきに、設計を変えて船型まで別のものになるという、ものすごさ。

 以下下線付きが通称。
 主人公は、ダニエル・シルベステ(男)。考古学者であり、政治家。
 パスカル・デュボワ(女)。ジャーナリストで、シルベステの手伝いもしている。
 カルビン・シルベステ(男)。ダニエルの父親でサイバネティックスの宇宙的権威だが、現在はシミュレーションとしてコンピュータの中に生息している。つまり生身の肉体は遠い昔に消えている。だが、息子シルベステにとっては、なくてはならないケンカ友達で、かつ軍師。

 巨大な宇宙船の中心人物三名は、なぜか「船内三人委員会委員」と呼ばれている。船長は、あまりでてこない、そこが謎。
 イリア・ボリョーワ(女)。船内軍事部門担当エキスパート、最強。しかも、船内コンピュータを腕にはめたパッドから自由自在に操る技術者。名目上の委員ランクは、三番目。
 ユージ・サジャキ(男)。副船長だが、最高の権限を持っている。ヘゲモニーはサジャキにあって、強烈で異質な存在。ウルトラ属という、一種の派生人類か(?)。わかりやすくいうと、肉体の数割を機械化したサイボーグ。だが、次ぎに述べるヘガジほど外見は異様ではない。翻訳のセリフ回しが、江戸時代の虚無僧に擬してあり、事実ときどき虚無僧姿で異星の町中に潜入潜伏する。善悪のない、しかもボリョーワでさえ命令に服さざるをえない、不気味な副船長。
 アブデュル・ヘガジ(男)。副船長サジャキの副官のような立場。しかし、同じウルトラ属でも、噂では脳までサイボーグ化しているといわれるほどの、全身が機械とかわらない委員。

 アナ・クーリ(女)。マドマワゼルという闇の女王の恫喝で、無理矢理ノスタルジア号の補充兵員として送り込まれる。砲術士官として、ボリョーワのもとで働くが、この女が意外に節目節目、重要な役割を果たす。

 というわけで、全編を覆う宇宙史観と合わせて、登場人物がいずれもすさまじいキャラクターを持っている。しかも、ハードコアSFとしてごまかしが非常に少ない。背景に理論物理、宇宙物理の数百年後を想定し、その中で彼ら、彼女らが動く。作者レナレズはイギリス生まれの人で、天文学博士号を持っているらしい。最近まで、欧州宇宙技術センターで働いていたが、作品がいくつか評判になり賞もとって、2004年に退職し、専業作家となったよし。

 最大の謎は、……。なぜ、シルベステは危険を冒して、中性子星ハデスに目指すのか。ノスタルジア号の航行目的は何なのか。なにしろ、冬眠を繰り返しながら、百年単位の航海なのである。

 お奨め度、このて好きな方には、100%。見向きもせぬまま生きてきた御仁達には、そうですなぁ、5%程度でしょうかね(笑) 後者の理由は、けっこう難しい背景宇宙論の中で、謎が謎を呼ぶ作品だから、ある程度、この手のインテリジェンシーと、リテラシーとがないと、読めないでしょうね。

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2006年1月25日 (水)

邪馬台国はどこですか?/鯨統一郎

邪馬台国はどこですか?/鯨統一郎 著

邪馬台国はどこですか?/鯨統一郎
  <ヤマタイコク ワ ドコ デスカ?>.
  (BA4223697X)
  東京 : 東京創元社, 1998.5
  316p ; 15cm. -- (創元推理文庫)
  注記: 記述は第9版(刷)(1998.12)による ; 参考書籍: p300-303
  ISBN: 4488422012
  別タイトル: 邪馬台国はどこですか ; Where is Yamatai?
  著者標目: 鯨、統一郎<クジラ、トウイチロウ>
  分類: NDC9 : 913.6 ; NDLC : KH297

所蔵図書館 12[by Webcat 20060125]

帯情報

カウンター席だけの地下一階の店に客が三人。三谷敦彦教授と助手の早乙女静香、そして在野の研究家らしき宮田六郎。初顔合わせとなったその日、「ブッダは悟りなんか開いてない」という宮田の爆弾発言を契機に歴史談義が始まった……。回を追うごとに話は熱を帯び、バーテンダーの松永も教科書を読んで予備知識を蓄えつつ、彼らの論戦を心待ちにする。ブッダの悟り、邪馬台国の比定地、聖徳太子の正体、光秀謀叛の動機、明治維新の黒幕、イエスの復活--を俎上に載せ、歴史の常識にコペルニクス的転回を迫る、大胆不敵かつ奇想天外なデビュー作品集。[表題紙の前頁より]

このところバーテンダーの松永は忙しい。常連の三人がいきなり歴史検証バトルを始めてしまうので油断は禁物。話についていくため予習に励む一報、機を捉えて煽ることも、そつなく酒肴を供して商売も忘れず、苦しまぎれのフォローを試み……。またもや宮田六郎の独擅場か、幕引きのカシスシャーベット

目次情報
 悟りを開いたのはいつですか?
 邪馬台国はどこですか?
 聖徳太子はだれですか?
 謀反の動機はなんですか?
 維新が起きたのはなぜですか?
 奇蹟はどのようになされたのですか?
   解説 橋本直樹

Mu感想
 内容は多彩で、歴史上の人物の事績をこれまでと違った視点でながめた、ミステリーです。書名の「邪馬台国はどこですか?」に惹かれて数年前に購入したのですが、その時にすでに18刷でしたから、息の長い隠れたベストセラーではないでしょうか。
 仏陀はなぜ悟りを得ようとしたのか、邪馬台国は九州でも近畿でもないのかもしれない、聖徳太子とはどういう人だったのでしょうか、織田信長はなぜ明智光秀に謀反されたのか、明治維新の本当の黒幕はだれだったのか。そしてキリスト様の奇蹟は本当のことだったのでしょうか、……。各小編をこの間、なんども読み直しては「うふうふ」とほくそ笑んでまいりました。

 一々を、そのさわりを書けば、内容の充実度がすぐにわかるわけですが、これはミステリーですから、安易にそういうことを記して、いわゆる「ネタばれ」するのは悪行となりましょう。だから、感想を書くMuも、難しいところです。

 以前識者から「読んだ人相手に書かれるなら、読んだ人でなければ分からないパスワードを設定してはどうでしょう」と教授されたが、その方法は優れものなので、いつかどこかで使うつもりだが、今回の場合、読んでいない人に見知らぬ鯨さんをどう紹介すればよいのかという、いわば書評芸の基本で悩んでいるわけです。

 昔から書評を読んだり書いたり切り抜いて整理するのが好きでした、……。おっと、そういう脇道ににげようとしているMuですね。

 で、鯨さん。変わったお名前なのですね。例によって、テキスト志向のMuですから、本人が男か女か、爺さんか若者か、プロなのかセミプロなのか、そんなことは一切抜きにして、読んだわけです。変わったお名前ですが、内容はすっきりして、濁りがなくて、清涼感がありますね。こういう方法論でミステリーを書かれた鯨さんを、遠望し、すごいことだと感心しております。と、またしても、逃げていますね、Muの旦那!

 では、一箇所だけ掟破り。

「今まで邪馬台国研究家たちを悩まし続けてきた問題点は、整理すると十三の項目に要約される。荒巻義雄という作家が厖大な資料を検討した結果、そういう結論を出したんだ。『新説邪馬台国の謎殺人事件』[講談社文庫]の巻末に載っている。そのコピーをたまたま持ってるよ」

 この雰囲気がたまりませんね。
 さらにもう一つ。標題は邪馬台国ですが、他の小編もものすごくおもしろいです。Muのお奨めは、織田信長◎○■▲説ですね。これはぜひ、ご一読下さい。

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2005年12月25日 (日)

薄紅天女(うすべにてんにょ)/荻原規子

承前:勾玉三部作(2)白鳥異伝

薄紅天女/荻原規子 作<ウスベニ テンニョ>

薄紅天女/荻原規子

  (BN1538768X)
  東京:徳間書店、1996.8
  484p;19cm
   (BFT)
  注記:PTBLは背から
  ISBN: 4198605580
  著者標目:荻原、規子(1959-)<オギワラ、ノリコ>
  注記:表紙画 いとうひろし
  注記:2004年9月5日、23刷

所蔵図書館 113[by Webcat 20051224]

帯情報

東の坂東(ばんどう)の地で、阿高(あたか)と、同い年の叔父藤太(とうた)は双子のように十七まで育った。だがある夜、蝦夷(えみし)たちが来て阿高に告げた…あなたは私たちの巫子(みこ)、明るい火の女神の生まれ変わりだ、と。母の面影に惹(ひ)かれ蝦夷の国へ向かう阿高を、藤太と仲間たちは必死で追う。そして「私は阿高を捜しに来た」と語り、追跡に加わる都の少将(しょうしょう)坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の真意は……?

一方西の長岡の都では、物の怪が跳梁(ちょうりょう)し、皇太子(ひつぎのみこ)安殿皇子(あてのみこ)が病んでいた。兄を救いたいと思いつめた十五歳の皇女(ひめみこ)苑上(そのえ)は、少年の姿をとって「都に近づく更なる災厄」に立ち向かおうとするが……?

巫女の力を受けつぎ勾玉を輝かせる「闇の末裔(くらのすえ)」の少年と、「輝の末裔(かぐのすえ)」の皇女の運命の出会いと、神代の「力」の最後の火花とをきらびやかに描き出す、待望の「勾玉」三部作完結編!


滅びの都に天女が降りる。手に伝説の<明玉(あかるたま)>
闇の末裔(くらのすえ)の少年と輝の末裔(かぐのすえ)の姫が滅びゆく都で出会う……
平安の曙をぶたいに華麗に展開する「最後の勾玉」の物語

Mu注記・感想
 この物語を読んでいておもったのだが、文学というのはもちろん文章の切れ切れを集めたものなのだが、その一言一言が時に独立して胸をうつことがある、ということだ。よくできた文学ならば、文の一つ一つにはなんの興趣もない単語の集まりなのに、それが織りなすことで生じる文字空間が気持を捉えることもある。Muはかつて三島由紀夫の華麗な文学に酔いしれたことがある。今でもそうだ。漢語と和語との配列や、日頃思わぬ表現の仕様に愕然とすることがある。しかし他方、平生の何の変哲もない文字連糸なのに、心ときめく文学もある。文章というものは様々に人の心を捉える仕組みを提供してくれるようだ。
 さて、とここで荻原の勾玉第三部について。
 登場人物の一人が、仲がよくいつも頭二つが並んでいるような二連(にれん)の阿高と藤太を評して言う。

「あの二人が持っているのは知識じゃない。なんというか、知識がそこをめざすもの、知識の大もとにあるものだよ。いってみれば力だ。この世を動かす目に見えない力なんだ。あいつらには力がある。~(略)」p.219

 ここに使われている日本語文章は、おそらく小学校の3年生以上なら、理解し使える言葉でできている。{知識、力}。しかしその単語によって成り立っている文章内容を理解するには、相当な長年月を生きないと無理なのかも知れない。知識がそこをめざすもの。そういう抽象性を把握するのは難しい。難しいのだけれど、阿高と藤太の成り行きを物語の中で味わい味わいここまでくると、するりと理解できた気持になれる。
 ここで、作品の感想は止めておく。勾玉三部作に惹かれるのは、上述のような感動をそこここで味わうからである。

 物語の舞台は長岡京から平安京に遷る直前の不安定な時期である。アテルイ、坂上田村麻呂、藤原薬子、チキサニ女神、……登場人物は多彩で、空海までこっそり登場する。現実歴史を知っているかどうかとは無関係に、物語だけで独立した世界を堅固に持っている。しかし、背景を少し知っていると、ますます荻原世界に陶然とする。これは、不思議な文学だと、思った。

 なお、勾玉三部作となっているが、実は四作目に平安末期を舞台にした『風神秘抄』もすでにある。この世に楽しみは尽きないようだ。


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2005年10月28日 (金)

隠された十字架--法隆寺論/梅原猛

隠された十字架 :法隆寺論 /梅原猛著

隠された十字架-法隆寺論/梅原猛
<カクサレタ ジュウジカ : ホウリュウジ ロン>.
(BN02432839)
  東京 : 新潮社、1972.5
  456p、図版[10]p ; 20cm
  ISBN: 4103030011
著者標目: 梅原, 猛(1925-)<ウメハラ、タケシ>
分類: NDC6 : 188.245 ; NDLC : HM121
件名: 法隆寺

所蔵図書館 238 [Webcat 2005/10/28]

目次情報
はじめに
第一部 謎の提起
  法隆寺の七不思議
  私の考える法隆寺七つの謎
  再建論と非再建論の対決
  若草伽藍址の発見と再建の時代

第二部 解決への手掛り

 第一章 なぜ法隆寺は再建されたか
  常識の盲点
  たたりの条件
  中門の謎をめぐって
  偶数の原理に秘められた意味
  死の影におおわれた寺
  もう一つの偶数原理……出雲大社

 第二章 誰が法隆寺を建てたか
  法隆寺にさす橘三千代の影
  『資財帳』の語る政略と恐怖
  聖化された上宮太子の謎
  『日本書紀』のもう一つの潤色
  藤原…中臣氏の出身
  『書紀』の主張する入鹿暗殺正当化の論理
  山背大兄一族全滅の三様の記述
  孝徳帝一派の悲喜劇
  蘇我氏滅亡と氏族制崩壊の演出者…藤原鎌足
  蔭の支配と血の粛清
  権力の原理の貫徹…定慧の悲劇
  因果律の偽造
  怖るべき怨霊のための鎮魂の寺

 第三章 法隆寺再建の政治的背景
  思想の運命と担い手の運命
  中臣・神道と藤原・仏教の使いわけ
  天武による仏教の国家管理政策
  日本のハムレット
  母なる寺…川原寺の建立
  蘇我一門の崇り鎮めの寺…橘寺の役割
  仏教の日本定着…国家的要請と私的祈願
  飛鳥四大寺と国家権力
  『記紀』思想の仏教的表現…薬師寺建立の意志
  権力と奈良四大寺の配置
  遷都に秘めた仏教支配権略奪の狙い
  藤原氏による大寺の権利買収
  興福寺の建設と薬師寺の移転
  道慈の理想と大官大寺の移転  
  二つの法興寺…飛鳥寺と元興寺
  宗教政治の協力者・義淵僧正
  神道政策と仏教政策の相関
  伊勢の内宮・薬師寺・太上天皇をつらぬく発想
  藤原氏の氏神による三笠山の略奪
  土着神の抵抗を物語る二つの伝承
  流竄と鎮魂の社寺

第三部 真実の開示

 第一章 第一の答(『日本書紀』『続日本紀』について)
  権力は歴史を偽造する
  官の意志の陰にひそむ吏の証言

 第二章 第二の答(『法隆寺資財帳』について)
  『縁起』は寺の権力に向けた自己主張である
  聖徳太子の経典講読と『書紀』の試みた合理化  
  斉明四年の死霊による『勝鬘経』、『法華経』の講義

 第三章 法隆寺の再建年代
  根強い非再建論の亡霊
  浄土思想の影響を示す法隆寺様式
  法隆寺の再建は和銅年間まで下る

 第四章 第三の答(中門について)
  中門は怨霊を封じ込めるためにある

 第五章 第四の答(金堂について)
  金堂の形成する世界は何か…中心を見失った研究法
  謎にみちた金堂とその仏たち
  薬師光背の銘は『資財帳』をもとに偽造された
  三人の死霊を背負った釈迦像
  奈良遷都と鎮魂寺の移転
  仮説とその立証のための条件
  両如来の異例の印相と帝王の服装
  隠された太子一家と剣のイメージ
  舎利と火焔のイメージの反復
  金堂は死霊の極楽往生の場所
  オイディプス的悲劇の一家

 第六章 第五の答(五重塔について)
  塔の舎利と四面の塑像の謎
  釈迦と太子のダブルイメージ
  死・復活ドラマの造型
  塔は血の呪いの鎮めのために建てられた
  二乗された死のイメージ
  玉虫厨子と橘夫人念持仏のもつ役割
  再建時の法隆寺は人の往む場所ではなかった

 第七章 第六の答(夢殿について)
  東院伽藍を建立した意志は何か
  政略から盲信ヘ…藤原氏の女性たちの恐怖
  夢殿は怪僧・行信の造った聖徳太子の墓である
  古墳の機能を継承する寺院
  フェノロサの見た救世観音の微笑
  和辻哲郎の素朴な誤解
  亀井勝一郎を捉えた怨霊の影
  高村光太郎の直観した異様な物凄さ
  和を強制された太子の相貌
  背面の空洞と頭に打ちつけた光背
  金堂の釈迦如来脇侍・背面の木板と平城京跡の人形
  救世観音は秘められた呪いの人形である
  仏師を襲った異常なる恐怖と死

 第八章 第七の答(聖霊会について)
  怨霊の狂乱の舞に聖霊会の本質がある
  骨・少年像のダブルイメージ
  御輿はしばしば復活した怨霊のひそむ柩である
  祭礼は過去からのメッセージである
  舞楽・蘇莫者の秘策
  死霊の幽閉を完成する聖霊会
  鎮魂の舞楽に見る能の起源

 あとがき
 年表
 図版目録
   装幀・山内暲
-----------------------
図版目録
  (カッコ内は写真撮影・提供者名)

口絵写真
 一 救世観音
 二 聖霊会・蘇莫者の舞い(著者)
 三 中門(小川光三)
 四 金堂と塔(同)
 五 釈迦三尊(同)
 六 薬師如来(同)
 七 塔西面の塑像(同)
 八 玉虫厨子(同)
 九 夢殿(同)
一〇 夢違観音(同) 

本文写真・図版
 二〇頁 法隆寺関係地図
 二二頁 塔相輪の鎌(小川光三)
 三〇頁 法隆寺見取図
 四〇頁 代表的な伽藍配置図
 四六頁 皇室・蘇我氏系図
 四六頁 皇室・藤原氏系図
 五六頁 中門正面図
 六五頁 出雲大社(小川光三)
 七一頁 橘夫人念持仏(同)
 八三頁 塔北面の塑像(同)
 九九頁 多武峰絵巻(談山神社)
一四三頁 飛鳥大官大寺跡(小川光三)
一六八頁 平城京の伽藍配置図
一九一頁 飛鳥寺(小川光三)
一九三頁 極楽坊(同)
一九六頁 義淵像
一九九頁 神社と寺院の相似関係表
二一一頁 榎本明神(小川光三)
二七〇頁 西院伽藍復原図
二七三頁 法隆寺(西院)全景(二川幸夫)
二七三頁 金堂内陣(小川光三)
二七六頁 金堂内陣配置図
二八二頁 薬師如来光背の銘文(小川光三)
三〇五頁 室生寺の釈迦如来(同)
三〇六頁 薬師如来の印相(坂本写真研究所)
三〇八頁 雲岡第六洞仏像(小川光三)
三一三頁 善光寺前立本尊(善光寺)
三一四頁 聖徳太子および二王子像(小川光三)
三一八頁 釈迦如来脇侍の印相(坂本写真研究所)
三二〇頁 戒壇院の邪鬼(小川光三)
三二一頁 持国天と七星文銅大刀(同)
三二二頁 多聞天と百万塔(同)
三二五頁 阿弥陀如来(壁画)(同)
三三四頁 雲形斗◆[木共](同)
三三六頁 舎利容器(講談社)
三四一頁 塔東面の塑像(小川光三)
三四二頁 塔北面の塑像(同)
三四三頁 塔南面の塑像(同)
三五七頁 塔西面塑像中の舎利瓶(同)
三五七頁 夢殿の宝珠(同)
三五七頁 救世観音の宝珠(同)
三五八頁 玉虫厨子の捨身飼虎図(同)
三五九頁 玉虫厨子の施身聞掲図(同)
三六六頁 東院伽藍復原図
三七三頁 行信像(小川光三)
三七四頁 西円堂(同)
三七五頁 興福寺北円堂(同)
三七六頁 栄山寺八角堂
三七八頁 夢殿内部
三八五頁 救世観音の顔(小川光三)
三八五頁 モナ・リザの顔
三九八頁 救世観音の横面
三九八頁 百済観音の横面(坂本写真研究所)
四〇一頁 釈迦如来の白毫(小川光三)
四〇二頁 釈迦如来脇侍の背面(スケッチ)
四〇三頁 平城京跡の人形(奈良国立文化財研究所)
四〇五頁 増長天
四二一頁 聖徳太子二歳像(小川光三)
四二二頁 聖徳太子十六歳像(同)
四二二頁 聖徳太子七歳像(同)
四二八頁 聖霊会・夢殿前での楽人(著者)
四二九頁 聖霊会・東院から西院へ行く菩薩行列(同)
四三〇頁 聖霊会・行列の中心の舎利御輿(同)
四三一頁 聖霊会・轅に乗った諷誦師(同)
四三二頁 聖霊会・薬師如来の前に置かれた舎利と太子七歳像(同)

[Mu注記]
 2003年に新潮文庫から改版がでている。
 掲載図書の30年後の新版である。内容の一部、加筆訂正があるようだ。
 今回Muは初版を再再読している。改版は、必要に応じて照応させることがあるかもしれない。しかし「現代の古典」として扱うのだから、改版は別本と見なした方が良いのかも知れない。
 誤謬があったとしても、30数年前に「1972年6月2日23:18読了」と、当時のMu(現在からみると別人)が丁寧に記しているのだから、その状態を保って読み直している。多少の異同は、読んだ際の熱情とか息吹の前には、消えてしまう。つまるところ、歴史書としてよりも、思想書・文学書として読んだということだろう。

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2005年9月12日 (月)

白鳥異伝(はくちょういでん)/荻原規子

承前:勾玉三部作(1)空色勾玉

白鳥異伝/荻原規子 作<ハクチョウ イデン>

白鳥異伝/荻原規子
 (BN15137558)
 東京 : 徳間書店, 1996.7
 598p ; 19cm.
 (BFT[Mu注:徳間書店のシリーズで、Books for teenagers。つまり少年少女むけ図書])
 注記: PTBLは背から
 ISBN: 4198605408
 著者標目: 荻原、規子(1959-)<オギワラ、ノリコ>
 分類: NDC8 : 913.6 ; NDLC : KH454

所蔵図書館 84[By Webcat 20050911]

帯情報

 遠子(とおこ)と小倶那(おぐな)は双子のように育った。都に出る日、小倶那は誓った……必ず遠子のもとに帰ると。けれども小倶那は「大蛇(おろち)の剣」の主(ぬし)として帰り、遠子の郷(さと)をその剣で焼き滅ぼしてしまった……。
 「小倶那はタケルじゃ、忌(い)むべき者じゃ」大巫女(おおみこ)の託宣を胸に、何者にも死をもたらすという伝説の勾玉の首飾りを求めて旅立つ遠子。だが、ついに再び会う日が来たとき、遠子の目に映った小倶那の姿は……?
 神代から伝えられた「力」をめぐって、「輝(かぐ)」の未裔(すえ)、「闇(くら)」の未裔の人々の選択を描く、ヤマトタケル伝説を下敷きにした壮大なファンタジー。

Mu注記:感想
 荻原規子による勾玉三部作の、その2にあたる。

 さて本書はヤマトタケル伝説を下敷きにしていると帯にあった。もちろんそうなのだが、ファンタジー、物語としてその完成度は非常に高い。また謎も多い。そして、神と人との狭間にたつ小倶那(ヤマトタケル)の悩みも深い。一々の表現、描写の密度も高い。そうじて、これを十代向け幼童話としての装いを持たせるのは、もったいない。荻原規子は、先回の『空色勾玉』までは未読の人だったが、今生、巡り会えて喜びがわき上がってくる。相当に読まれている図書と見当をつけているが、もしこの大部な『白鳥異伝』、あるいは勾玉三部作、あるいは最近の『風神秘抄』が多数の少年少女に読まれているならば、わが国の将来にもうっすらとした光が見える。

 Muが特に感心したのは、そう、目から鱗がおちたのは、神と人との狭間にたつ古代の英雄の悩みというものを、本書であますところなく味わったというところである。小倶那(おぐな)は、ある種因縁によって強力な剣(つるぎ)を扱う者としての出生を自覚する。その力は、多くのアニメや、漫画に表現されてきた最終兵器、あるいは現実世界に存在する核兵器のようなものと考えれば想像がつく。これを、本書は「神の力」とする。野山を殺し、村人を殺戮し、敵を破壊し、恋人を殺し、そうして最期に我が身すら殺す、神の力である。

 この神の力がどれほどすさまじいか、その中で巫女というものがどれほどの力をもつものか。本書によって、Muは震えながら、そのイメージを感じ味わった。
 恵みをもたらす神とは、同時に荒ぶる霊でもある。
 その荒ぶる様とは、大雨が降り、疫病がはやる程度のものではなかった。

 この力は一体何なのか。まほろばの大王(おおきみ)の妹、齋王モモソヒメが長らく齋(いつ)き奉ってきた大蛇の剣(おろちのつるぎ)にその秘力がある、とMuは思ってきた。それを操れるのは、小倶那(ヤマトタケル)一人であると思ってきた。しかし、終盤にいたり、小倶那は恋人の遠子につぶやく、「あれは、ヨリシロにすぎない」と。

 謎は深まるばかりである。

 小倶那がその破壊兵器である大蛇の剣を、その剣の力を捨てることが出来るのかどうか。剣の破壊力に立ち向かえる唯一の武器は、伝説の玉の御統(みすまる)しかない。しかし、その五つの勾玉を連ねた御統(みすまる)は、本書では完成しない。五つの勾玉を探して、遠子は、出雲のスガルとともに九州に渡る、東国に渡る、四つは見つかった。四つの勾玉は「死」をもたらす。しかし、小倶那に一身化した邪霊の執心を破ることは、四つの玉の「死」をもってしてもできなかった。どうなるのか、……。

 謎多き物語だった。そのほとんどは、解き明かされる。だが、残った謎も多い。
 
 小倶那とは、何者なのか。その父は、母は。本書の中盤に、小倶那は登場しない。その間を、スガルという長身、赤毛、女好きのする若者が遠子を導く。この、絶妙の人物に読者は惹きつけられるだろう。そして小倶那はようやく終盤に、現れる。これ以上ないほどの、うち捨てられたおびえ、ふるえながら、なお英雄として部下や村人にあがめられる小倶那(ヤマトのタケル)として、遠子の前に立つ。

 遠子とは、何物なのか。ただのやんちゃな少女が、何故「玉の御統(みすまる)」を操れるのか。
 小倶那と遠子は、なぜ、憎み合いながらも惹かれるのか。
 多くの謎は、解き明かされつつも、その底になお深いものがあり、それに触れてまた謎が生じてくる。

 神と人との狭間に苦悩する姿は、わかりやすく人間の絆の相克に表現されている。
 ともかく、父殺し、母殺しをしなければ、かえして、恋人さえ殺さざるをえなくなり、また自らも破滅するという関係を、古代ロマンの中にこれほど、迫真の筆致で描いた物語は、あまり経験がない。人の匂いのするそういう関係が、神と人との相克に直結するという文学を、十代少年少女の為だけに読ませるのは、もったいないことである。長く生きてきた者達こそが、さらに深く玩味するところであろう、か。

補注
 精緻に記すことはしないが、倭媛命ではなくて、ヤマトトトビモモソヒメらしき人が大王(景行天皇比定)の妹である結構に、Muはいたく感心した。ここに、記紀風土記を下敷きにしたとはいえ、創造の力がみなぎっている。また、倭建命の命と引き替えに海原に身を投じたオトタチバナヒメに比定される人物は、櫛を海辺に残してはいるが、……(笑)。いや、物語に飽きない、倦まない。巻を閉じたとき、楽しさ、うれしさが全編をおおっていた。

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2005年9月11日 (日)

飛鳥路

飛鳥路
  亀井勝一郎、小林秀雄、保田與重郎、坂口安吾、
  堀辰雄、神西清、折口信夫、山本健吉、入江泰吉
  地図(石舞台周辺

飛鳥路/亀井勝一郎 ほか著
 飛鳥路/亀井勝一郎 [ほか著]
  <アスカジ>. -- (BN02314107)
  京都 : 人文書院, 1970
  177p ; 20cm
  内容: 飛鳥路 / 亀井勝一郎 ; 蘇我馬子の墓 / 小林秀雄 ; 桧隈墓の猿石と益田の岩船 / 保田与重郎 ; 飛鳥の幻 / 坂口安吾 ; 古墳 / 堀辰雄 ; 白い道のうへに / 神西清 ; 軽の蓮池 / 神西清 ; 飛鳥をおもふ / 折口信夫 ; 古事記の空・古事記の山 / 折口信夫 ; 飛鳥路をゆく / 山本健吉
  注記: 写真: 入江泰吉
  著者標目: 亀井、勝一郎(1907-1966)<カメイ、カツイチロウ> ; 入江、泰吉
  (1905-1992)<イリエ、タイキチ>
  分類: NDC6 : 291.65 ; NDLC : GC176
  件名: 奈良県 ーー 紀行

所蔵図書館 19[By Webcat 20050908]

目次情報
 飛鳥路/亀井勝一郎
 蘇我馬子の墓/小林秀雄
 檜隈墓の猿石と益田の岩船/保田與重郎
 飛鳥の幻/坂口安吾 [→MuBlog記事]
 古墳:一九四一年十二月/掘辰雄 [→MuBlog記事]
 白い道のうへに/神西清
 軽の蓮池:或ひは、古市幻想前記/神西清
 飛鳥をおもふ/折口信夫
 古事記の空 古事記の山/折口信夫
 飛鳥路をゆく/山本健吉
 写真*入江泰吉 
 飛鳥地図

写真情報 (入江泰吉による、モノクロ)
  川原寺の礎石(カバージャケット)

全般、および亀井勝一郎関係
  剣池、孝元陵のそばから西方に畝傍山を望む
  大原の里、後方の山は多武峯(とおのみね)
  飛鳥寺本堂
  香久山から西方に畝傍山を望む
小林秀雄関係
  石舞台
  石舞台、玄室口
保田與重郎関係  
  天武・持統帝 桧隈大内陵
  鬼の俎(まないた)
  欽明陵の杜(右)と猿石のある吉備姫王の墓(左の木叢)
  猿石の一つ
  猿石の一つ
  益田の岩船、台石上の碑脚穴

神西清関係
  古の軽の地といわれる見瀬の里
  菖蒲池古墳、玄室口
  石川の里、精舎跡
  五条野の里、孝元陵への道
折口信夫関係
  稲淵(南淵)の里から北方を望む
  飛鳥川(川原寺の東方)
  甘橿の丘から見た飛鳥坐神社の杜
  飛鳥坐神社正面
山本健吉関係
  甘橿の丘から北方の眺望 右に香久山、左に耳梨山、左手前の杜は雷の丘
  [Mu注記:耳梨山は、現代表記では耳成山が一般的か]
  甘橿の丘から西北方の眺望 上方が畝傍山
  浄見原宮址 上方右に香久山、左に耳梨山
  山田寺址

Mu注記
 収録された各エッセイについては、おりおりに別記事を立てていくつもりだ。
 葛野の机上に以前からこの本一冊が所在なくおいてあった。意識してではなく、なにかと重宝だから、身辺から手放さなかったのだろう。

 最近のMuBlogで飛鳥の石舞台がよくアクセスされる。数多いblog記事の中で、MuBlogに巡り会うのも多生の縁。少し追加記事を書いてみたいと昨年から考えていたのだが、そのことは以前『墓盗人と贋物づくり』を読んだときにもよい機会があったのだが、……。優柔不断の常なれば、ついついぼんやり日を過ごしてしまった。

 と。実は、本書には小林秀雄の『蘇我馬子の墓』が入っている。高校を卒業したころに、文庫で読んだものなのだが、これは石舞台古墳のエッセイそのものである。とは言っても、馬子の先祖かもしれない史上妖しき武内宿禰の物語に目を奪われて、……。小林秀雄というひとは、上手やなぁ~と、感心して頁を蓋してしまった。あまりの上手に触れると、とやかく言いたくなくなるものだ。

 それにしても、坂口安吾という、Muの知らない時代に活躍した作家の名探偵ぶりには、うふうふ。

 と、あれこれ書いていくと、また頭がかんかんになって、日常のお仕事に差し支えるので、今日はこれでやめておこう。文学とか歴史とは、まあ、Muにとって毒薬のようなところがあるので、摂取量を加減しないと、日常廃人になってしまう(もう、遅いとも耳にするが)。

 そうそう。この35年前の図書をとってみて、編纂する、編集するという行為は大切だと思った。時が過ぎても、往時の一級の文筆家、写真家の仕事を、まとめて手に取ることができる。堀辰雄の小文がこんなところに入っているなんて、ながく気がつかなかった(いや、忘れていた)。編集は、著作に匹敵するという考えは、時に味わう。で、今日も、この図書を見ていて、切実にそう思った。

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2005年8月19日 (金)

影武者徳川家康/隆慶一郎

影武者徳川家康/隆慶一郎著<カゲムシャ トクガワ イエヤス>.

影武者徳川家康/隆慶一郎
 (BN09587833)
 東京 : 新潮社、1993.8
 3冊 ; 16cm.
 (新潮文庫 ; り-2-5、り-2-6、り-2-7)
 上巻;中巻;下巻
 ISBN: 4101174156(上巻) ; 4101174164(中巻) ; 4101174172(下巻)
 著者標目: 隆、慶一郎(1923-1989)<リュウ、ケイイチロウ>
 分類: NDC8 : 913.6

所蔵図書館 21[By Webcat]

帯情報

上巻
 慶長五年関ケ原。家康は島左近配下の武田忍びに暗殺された! 家康の死が洩れると士気に影響する。このいくさに敗れては徳川家による天下統一もない。徳川陣営は苦肉の策として、影武者・世良田二郎三郎を家康に仕立てた。しかし、この影武者、只者ではなかった。かつて一向一揆で信長を射った「いくさ人」であり、十年の影武者生活で家康の兵法や思考法まで身につけていたのだ……。
  関ヶ原
  大津城
  敗者
  異邦人
  伏見城
  江戸
  源氏の長者

中巻
 関ケ原で見事な勝利を収めた徳川陣営。しかし、嫡子・秀忠による徳川政権が確立すれば影武者は不要となる。その後の生命の保障がないことを知った影武者・二郎三郎は、家康を斃した島左近を軍師に、甲斐の六郎率いる風魔衆を味方に得て、政権委譲を迫る秀忠、裏柳生と凄絶な権力闘争を始めた。そして、泰平の世を築くため、江戸・大坂の力を拮抗させるべく駿府の城の完成を急ぐ。
  千姫
  変転
  大御所
  駿府(すんぷ)
  偃武(えんぶ)

下巻
 いまや二郎三郎は、秀忠を自在に操る家康なみの智将であった。彼の壮大な夢は、江戸・大坂の和平を実現し、独立王国=駿府の城を中心に自由な「公界」を築くことだった。キリシタン勢力を結集した倒幕の叛乱を未然に防ぎ束の間の平安を得るが、秀忠の謀略から遂に大坂の陣の火の手が上がる。自由平和な世を願い、15年間を家康として颯爽と生き抜いた影武者の苦闘を描く渾身の時代長編!
  大坂和平
  反撃
  キリシタン禁令
  大坂冬の陣
  大坂夏の陣
  終焉
    あとがき(隆慶一郎)
    解説 縄田一男

参考
 関ヶ原古戦場
 駿府城 地図 記事(静岡市)
 伏見桃山城[MuBlog
 大坂城 地図

Mu注記
 関ヶ原の合戦が1600年である。それから、家康が亡くなる(1616)まで、ほぼ家康と秀忠とが政権を二分していた。豊臣家が完全に滅亡するのは、1615年の大坂夏の陣である。Muは中学校で日本史を学んで以来、ずっとこの15年間になんの疑問も持っていなかった。
 しかし今回「影武者徳川家康」を読んで、めまいに襲われた。
 つまり。
 小説のように家康の影武者・二郎三郎が関ヶ原以来家康のふりをしてきた、とは思わない。ただ、なぜ豊家滅亡まで15年間かかったのか、その理由の一端が作品によって分明になった。
 家康と秀忠は、日本国の統治について、すべてにおいて闘っていたのかも知れない。その中に当然、朝廷、豊臣家の処遇もあった。

 史上、鍵になるのは家康の六男、妻は伊達政宗の娘イロハ姫、この忠輝の足跡にあるような気がした。忠輝は75万石の親藩であったにもかかわらず、家康存命中に勘当をうけ、二代将軍秀忠の時代、領地を没収され、90歳を越えるまで流浪であった。なお勘当されても領地は没収されない。家康の死とともに、忠輝は領地召し上げ、なのに命だけは助かり、長生きした。このからくりは、隆慶一郎の作品で、すっきりわかる。

 さて。
 超絶な秀作であった。
 あまりに痛快、リアルな作品なので、一夕には語り尽くせない。これは、後日に(笑)

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