承前:邪馬台国周遊図書館ジオラマ(2)初期基盤
はじめに
現今の古代史遺跡発掘の諸成果により、仮に邪馬台国を奈良県桜井市三輪山周辺と定め、その歴史的風景を周遊し、あわせて図書館間を図書館列車で結びつける図書館ネットワークの構想模型を、はじめてレール・レイアウトとして定着したのは2008年の6月頃であった。図書館やその他の生涯学習施設を点と点の集合とするとらえ方を一歩進め、風景全体を含めた「地域全体」の生涯学習施設を造ることのモデル形成である。さらにこの構想モデルを立体的な形ある初期「ジオラマ」として公開したのは2009年の2月頃(承前)であった。それから一年を経過し、この度、漸くモデル基盤の決定をえたので公開する。
注:これらのモデルは、現実を変成したものであって、世上で言われる「レイアウト」「ジオラマ」とは方式が異なる。縮尺も、配置も、地名や施設名も、現実を抽象化した結果、厳密なスケールモデルとしての意味は持たない。ただし、古代史的「邪馬台国」との概念上での相似関係は残されている。
3.1 モデル構想:ジオラマ(レール・レイアウト)の全景
↑邪馬台国周遊図書館ジオラマ全景(北向き)
中央に山がある。仮にこれを「聖山」とする。歴史的邪馬台国は総てにおいてこの聖山を意識して造られたであろうという仮説に基づく。イメージとしての聖山はピラミッド様式を持ち、階段状の原型を残し、山中には人工的な空洞があると設定した。中腹にはいわゆる「山辺の道」を設定した。
聖山の中腹南面には、聖山神社を置いた。もちろんこれはアニミズムに近い古神道の世界を具現化したものである。よって半岩窟内聖域とした。
神社の西面ないし南面に駅舎「聖山駅」を設定した。写真では二箇所に構造物を仮設しているが、どちらか一方にする予定である。
聖山の頂上には、邪馬台国展望駅と邪馬台国中央図書館を設置した。写真では明治時代の市電の置かれた位置を図書館敷地とする。この中央図書館では、邪馬台国に関する文献・情報を可能な限り収蔵し、電子図書館機能を併せ持ち、訪れた観光客や研究者達にサービスを提供する。併設館として、考古・歴史資料館を設定する。
位置が、二上山を西方正面に置き、箸墓(第二次計画)を眼下に見下ろす絶景の土地なので、なんらかの宿泊施設も併設したい。しかしモデルは狭隘なので、現実にホテル様式構造物を設置するかどうかは、後の判断とする。
聖山の西面および北面、南面には古代の運河を想定した。邪馬台国は水の都であるという仮説に基づいたものである。この運河は画面左上のJR巻向駅舎(仮設地で第二次箸墓造築時には、さらに北に移動する)下部も運河として開かれ、北面へと続く。
3.2 邪馬台国中央図書館敷地について
↑聖山頂上にある、邪馬台国中央図書館(敷地、位置)
中央図書館をあえて聖山の頂上に設定した理由は、人の営みとしての「歴史」とは、風景に裏付けされた歴史であるという考えに従ったからである。邪馬台国の全体風景(纒向遺跡)や二上山の日没を見るために当時の人達が聖山に登ったのか、あるいは聖山があったからその地に邪馬台国を造ったのか。この問いには答えられない。しかし、邪馬台国にあって、現実の三輪山や二上山という地勢・風景なくしては歴史を語ることはできない。人々の営みも、祭政も、まさしくその「土地」であってこそ、固有の事象として後世にイメージが残るわけである。
その一等地に、現代あるいは未来の知性と感性とを合わせた生涯学習館・生涯図書館施設を設営することは、モデル上ではもっとも理にかなっている。勿論、それはモデルとしての聖山であればこそ出来ることである。メディア変換(想像→モデル→現実)とは人間のなし得る高次の情報処理であるから、現実よりも現実の本質をうがつことが可能となる。
聖山の頂上には「山辺の道」を辿って行くことも出来る。これは想定として階段状ピラミッド様式を含む聖山の特徴を有効に使った方法である。
またループ上の単線路が敷設されているので、一般的なトロッコ列車による観光、および他府県から直通で入ってくる特急車両タイプの「二階建て図書館列車」あるいは「会議列車」によって、邪馬台国中央図書館に訪れることができる。
3.3 モデル施工方式
◎全体景観(地形)
今回写真を公開した範囲では、木製台座(90x120cm)上に、厚さ5mm~25mm程度の発泡スチロール板を敷き、その上に形に合わせて切断した同様の発泡スチロールを次々と積み重ねる手法をとった。一般には「山」などは、新聞紙を隙間に詰め、上からプラスタークロス(石膏布)を貼り付ける「はりぼて」方式が多いようだ。しかし、過去事例も含めてこのジオラマでは、成形が自由にできる素材故に、扱いやすく比較的堅固な積み重ね手法をとった。この素材を接合するためには、木工ボンドと爪楊枝(釘かわり)を多用した。以上の手法から、{発泡スチロール、ボンド、爪楊枝}によって前景を製作したことになる。
◎構造物:邪馬台国中央図書館など
中央図書館はモデルの中心となる構造物なので、選定や製作の問題から今回は公開できなかった。
駅舎および駅図書館については、これまで多用してきたTOMIXやKATOのストラクチャを用いることにした。教本を参考にし、若干の塗装、改造などを施す予定である。
神社は、基本をトミーテック製として、古神道に乗っ取った形式に改造する。もとより、すべては想像復元なので、古代史関係を主とした類書からいくつかのイメージを得るつもりである。
現代の民家、商店、諸施設のモデル化については見送ることとした。主に設計、手技の面で当初の目的(図書館間のリンク、細部よりも全体の景観)からの逸脱を避けるためである。
◎車両:リチウムイオン等の蓄電池駆動を想定
一般車両を図書館列車に改造する実験はすでにいくつか行ってきた(嵯峨野鉄道図書館ジオラマ目次)。
重装備の図書館列車は特急車両を改造し、走行中の読書を可能とする「二階建て図書館列車」が中心となる。
博物館などの生涯学習施設や図書館間をリンクすることに重点を置く観光車両は、貨物改造タイプの実車・トロッコ車両を想定し、旧国鉄で盛んに用いられた車掌車ないし緩急車を司書車両と見なし、モデルとして使っている。他には台湾での地震の際に使用された、コンテナ車の移動図書館利用なども、モデル制作の一つとしている。
動力車両としては、実車における電気機関車やディーゼル機関車が中心となるが、パンタグラフの取り外し等により、蓄電池タイプの動力車(牽引車)を想定している。
3.4 HOとNゲージの併用
先回、すなわち承前記事(2)との違いは、レール・レイアウトにおいて、内周を16.5mmゲージ(通称HOゲージ)としたことである。これは半径36cmで、規格レールとしては日本にはなく、ドイツのフライシュマン製を用いた。ジオラマが90x120cmなので、半径の大きい日本製(例:KATO製のHOユニトラック)だと流通製品で半径49cm、カタログ上では43cmのものが最小となり、扱いが難しくなる。もちろん、フレキシブルレールを用いれば、可能な範囲で自由に扱えるのだが、種々別の問題もあってドイツ製の規格レールを用いた。
もとより当初は9mmゲージ(通称Nゲージ)で全てのレールを配置する予定だったが、識者の助言もあり、「鉄道図書館列車」を改造・自作することを考えると、1/150スケールのNゲージは工作の難易度が高くなり、かつまたモデルとして適切な大きさを示し得ないので、より大型のHOゲージを導入したわけである。
なお、写真には一般的な日本製のHOゲージ(1/80スケール)に混じって、同じ16.5mmゲージ上を走行するOn30タイプも混じっている。これは、端的にいうとHOゲージよりもさらに改造の点と、モデルとしての視認性において、有利と考えられる。縮尺については大体1/40前後のものが多い。
Nゲージについては、過去にいくつかジオラマ(レール・レイアウト)を手がけた際にもちいた形式である。比較的に狭い空間であっても、起伏に富んだ一定のレイアウト・モデルを制作することができる。しかし、この場合でも現実の忠実な再現は難しい。たとえば第二次増築(台座を60x90cm)予定の前方後円墳「箸墓」は全長が280mある。Nゲージのスケール・1/150を用いても、箸墓だけで全長186cmの空間を必要とする。これはさらに縮小して、全長20~25cmの箸墓にしなければ、バランスを壊す。そういう制限があるとしても、地域・全域の情景を表現するには、HOゲージよりもNゲージの方が、制作しやすいのが実情である。よって、邪馬台国周遊図書館ジオラマはNゲージ(1/150スケール)を基本要素として制作した。
まとめ
下記の縮小写真はジオラマを様々な方向から眺めたものである。マウス・クリックすることで、拡大写真が得られる。紙粘土に指紋が残り、発泡スチロールは隙間だらけと、この段階では構造だけが明確で、「それなりの」風景が見えるとは言えない。本ジオラマの全体像が分かり、何かの参考になればと思い、掲載した。
次回は、この基盤に石膏を塗布することで、ようやく立体構造として完成する。
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