小説木幡記:志賀直哉の書斎
志賀直哉の書斎(奈良市)
博物館の特別展示会で著名人の書斎が復元されることがある。誰とは正確に言えないが、以前から好んで見てきた。固有の博物館で固定的に再現されたものとして圧巻だったのは、小倉の清張記念館の地下に再現された書斎や書庫だった。そこには多数の蔵書もセットされていた。
そして。
奈良市高畑町の志賀直哉旧居は、年譜では奈良に13年間住まいした志賀直哉が昭和4年から昭和13年の10年間住んだ所だった。この書斎で『暗夜行路』が執筆されたのだろう。また保田與重郎『現代畸人傳』に描かれた志賀直哉の冷徹な印象は、この昭和初期のものだったと推察できる。
この高畑旧居には2001年ころから幾度か訪れた。余は日本建築に好みがあって、何度眺めても飽きない質だからだ。見物人として見た限りでは、設計に不合理ななにかしら崩れたところがないので、これが都会人の先鋭化した思考の現れなのだろうと、独りごちていた。志賀直哉がこれだけの自邸を奈良の高級地に造りながら、10年間住んで手放し東京に戻ったのは、奈良や京都の古都にある、わけのわからなさが気に入らなくなったせいかもしれない。東京視点からだと、古都もまた「田舎」に感じられたのだろう。それが志賀直哉の資質だったと、想像している。
住居は人を顕す、のだろうか。
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