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2012年11月27日 (火)

小説木幡記:檜原神社の不思議な三ツ鳥居

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 三輪山麓・檜原(ひばら)神社の三ッ鳥居

 写真は2004年頃、秋の檜原神社正面のものだ。昔からこちらさんの鳥居には惹かれてきた。なにかしら古色を味わう。

 ここで見られる三ツ鳥居は、大神神社の三ツ鳥居(模型)とは近似だが、京都の蚕ノ社(木嶋神社)の三柱鳥居とは全く異なる。事典(参考)をみると、室町時代の三輪山古絵図にはすでに檜原社に三ツ鳥居が描かれていたとあり、ネットのそこここで確認できる。ところが見る限り、この「三ツ」の意味するところは不明のようなので、少し推理してみた。

 鳥居は神さんに直結する水平方向の空間を遮断する結界(端境:はざかい)なのだろう。鳥居の内と外では空間の違いがある。それが三つ並べてあるのは、三柱(複数)の神さんが同居されているから結界遮断装置を三つ作った。勿論三つというのは複数の神さんのことで、それのどなたかを代表神という扱いが出来ないくらいに、神さん達がそれぞれ強烈な荒御魂なのだろう。
 なお一般に参道の外側から一ノ鳥居、二ノ鳥居、三ノ鳥居とならぶのは、結界の密度が内に行く程徐々に濃くなると考えておく。

 大神神社(おおみわじんじゃ:三輪明神)の摂社としてある檜原神社のご祭神は、事典(参考)ではアマテラスワカミタマ(天照若御魂神)、イザナギ(伊弉諾尊)、イザナミ(伊弉冉尊)となっている。本殿は大神神社と同じく無く、三輪山に直結しているので、御三神は禁足地の中でそれぞれ磐座(いわくら)に住まわれているのだろう(神さんの世界は想像を絶することである)。

 ここで天照若御魂神さんとは、非常に難しい御神名だ。若を抜くと、天照御魂神となり、この神さんがまたしても単純には御素性が分からない不思議な御柱であらせられる。「若」はこの場合荒御魂の意味もあるだろう。ところが大神神社による檜原神社のご祭神は「天照大御神:アマテラスオオミカミ」とあり、この神さんは皇祖神代表として伊勢の内宮に祀られている。そしてまた、元伊勢とも伝承されるこの檜原神社こそ、当時の崇神宮中からアマテラスオオミカミが遷されたお社だった。どこかで伝承が混乱しているのか、あるいはそれぞれにそれぞれの伝承古層があって、話が分岐しているのか、今の余には判然せず。つまり、天照若御魂神ならばこの神さんは、天津神とも国津神ともおもえる御柱であるし、天照大御神となるとこれはまごう事なき天津神代表である。そして三輪山こそは國津神代表の大物主さんがおられる御山である。(天照御魂神につき、下記の3に詳細あり)

 そしてまたそこに、アマテラスさんのご両親にあたり、日本國を生まれたイナナギ・イザナミの夫婦神が祀られている。なかなかに檜原神社は御祭神からみても、三輪山をご神体と見ることからも、難しいお社である。余にはよく分からぬ。

 さてこそ鳥居という漢字を当てたのは、鳥が上柱に止まるからかな(笑)。あるいは吉野ヶ里遺跡を復元された研究者達が、門の上に盛んに鳥を飾ったり、あるいは纒向遺跡からは鳥の木形もでていることから、鳥は日本でも古代から霊を持っていたり、守護霊になったりしていたのだろうか(調べれば分かるだろうが、また後日に)。つまり鳥居と名付けることで、結界の強さを高めたと思う。(事例写真は、4と5)

 なお、結界といえばなにやら妖しいことを想像する方も多いだろうが、そんな特別なことではない。普通の人間の感覚でいうと、「区切り」「違う世界の徴」「幽界と明界の明白な境」「山と地上の境」「上りと下りの峠の茶店」。つまり、神さん世界と神さんにあらざる俗人世界の違いを、特に人に対して明白に知らしめる徴、装置である。古代のことをなにごともトンデモない話と早のみこみする人が多いが、単純に素直に考えれば、間違わない。

結論
 三輪山北辺の檜原神社・三ツ鳥居とは、ご三柱の神さまを鎮める結界。としておく。


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参考
  1.私の京都:木嶋神社の三柱鳥居(このしまじんじゃ・の・みはしらとりい)魔界巡礼秦氏の謎
  2.大神神社:三輪明神
  3.纒向宮殿紀行(4)他田坐天照御魂神社(おさだにいます あまてるみたま じんじゃ)
  4.九州2011夏:佐賀篇:吉野ヶ里遺跡 {この記事中、「3.1吉野ヶ里入城」と「3.3北内郭を中心とする、王宮と祭祀の空間」に鳥の様子がある}
  5.桜埋文07:様々な出土遺物:水に縁がある {たしかに鳥形がある}

  寺院神社大事典:大和・紀伊 / 平凡社編、 1997.

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コメント

三輪鳥居

 流石に、鳥居に関して本質を語られていると思いました。私も最近稲田智宏さんの『鳥居』(光文社新書)を読んだところです。写真の鳥居は明神鳥居の分類に属する三輪鳥居と呼ばれるものだそうです。

 大神神社の拝殿奥にも写真と同様の中央に大きな鳥居があり、左右に小さな鳥居を配する4柱鳥居だそうです。元糺の秦氏の鳥居は明神鳥居の分類の三柱(みはしら)鳥居と呼ぶそうです。

 鳥居が結界を示す事は間違いがないように思いますが、どうも日本の神は2系統の系譜を踏まえているように、最近は思うようになりました。

 タカミムスビ系の大陸遊牧民から伝播した垂直系の神、天(アマ)から降臨する系統とアマテラス系の海の彼方から神が到来する、即ち海(アマ)から到来する神です。どうもこれが、混在しているように思います。

 鳥居は神が行き来される聖なるロードを示す標識だと考えると、例えば鎌倉の八幡さんは海から鳥居が設置されています。一方、山頂に奥宮、麓や、里に里宮を置き、その経路に鳥居を配置する垂直系の鳥居も神が毎年、あの世とこの世を行き来される聖なる道と考えられます。

 神の乗り物は『鳥』なんでしょうね。鳥居の笠木に止る鳥はヒンズー教ではシバ神が乗る象と同じで神を運搬する聖獣なんでしょうか。

 しかし、Muの旦那が述べられた内容が一番、妥当な鳥居に関する解釈かも知れませんね。

投稿: jo | 2012年11月27日 (火) 08時35分

Joさん
「タカミムスビ系の大陸遊牧民から伝播した垂直系の神、天(アマ)から降臨する系統とアマテラス系の海の彼方から神が到来する、即ち海(アマ)から到来する神です。どうもこれが、混在しているように思います。」
 このお話は自分が考え込んで混乱して初めてしっかり腑に落ちました。
 垂直降下神→アマ(天)テラス
 水平渡海神→アマ(海)テラス

 伊勢・内宮のアマテラスさんは、実は逆様渡海で、海からこられて内宮に座しまして、そのお話が、過去の三輪山に投影されて、アマテラスという神話ができたが、じつは、三輪山にはそれ以前から、ニギハヤヒ神さんが垂直に磐船から下りておられた~。そこで天照国照問題がかさなって、結局ふたつともアマテラスという決着で、玉虫色~
 と、とんでもない妄想をしていると、あの時代、崇神さん以前と以後のニギハヤヒ、大物主、アマテラス問題が氷解する気分になってきましたが、む、難しいですな。

投稿: Mu→Joさん | 2012年11月28日 (水) 05時44分

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