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2012年6月14日 (木)

西の魔女が死んだ/梨木香歩 (感想:よい作品だ)

 梨木さんの作品は、以前『家守綺譚(いえもり・きたん)』にふれたことがあった。
 このたび感動した『西の魔女が死んだ』は家守以上に知られた名作だと思うから、余がわざわざ筆をとる必要はないと思いながらも、読み終わった現在、何か徴を残しておきたかった。宇治の魔法使いから~魔法使いの弟子たちへ、と。

 記すことも少ない。
 多くの少年少女、そして疲れ切った成人たちが読めばよかろう。近頃流行の分厚く重い作品ではなく、小一時間で読み切れる。
 そして女たちは魔女になりたいと思うだろうし、かくもうす余はいまからでもおそくはない、魔法使いになりたいと思った。

 人がこの世界とどういうふうに接すればよいかが、少年少女でもたやすくわかり、やってみようとおもわせるほどくっきりと描かれていた。もちろんハーブ茶を作ったり、家事を小ぎれいに上手にこなす姿など、素晴らしい世界だが、余はむしろ心のありように感動した。囚われるな、固執するな、しかし諦めるな、~事実は事実として理解し確認せよ、しかしそれに囚われてしまっては、上等な魔女になれない。世界を鋭敏に探知するのが大切だ、しかしそれに押しつぶされてはもともこもない~。なかなか難しいが、まるで昔の剣聖のような、上泉信綱のような、なにかするどさと暖かさと併せ持った世界が描かれていた。

 さっきから思っていたのだが。
 なんとなく、なにかしらないが、小説とは女流作家の方が圧倒的に上手だと思った。
 たとえば。
 わかりやすく言えば、大多数の男性作家の小説は殺人や猟奇やエロやグロや闇世界を描いている。余が読むのがそういうものに偏っているわけではない(笑)。なにか激しい斬新な、新奇な刺激の強いことを書かないと物語としても、現代小説としても成り立たない世界になってしまっている。

 そこで『西の魔女が死んだ』。
 透き通った深いハーブや紅茶を飲んだ気分になる。馥郁とした薫りと味わいがある。
 そうだ。
 古典にあった。
 和歌、芭蕉の俳句~。
 それにしても、これだけの分量なのに、読後感として、祖母も「まい」も、ママもパパも、そして隣人ゲンジも、亡くなっている祖父でさえ、それぞれの姿が明瞭に残っている。つまりそれは、梨木さんという人のものすごい、秘めたすさまじい筆力の故なのだろう。
 う~む、魂のある水彩画なのだ。

 そして。空耳なのか、魔女の声がした。「アイ・ノウ: I know」と。

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コメント

先生こんばんは(^∇^)
大河ドラマは一ヶ月程見なかったら、内容が分からなくなってしまい、挫折中です。。
西の魔女はDVDを購入する時に一緒に本も買いました。本を読んでからDVDを見ました。先生の記事を読み、一昨日久しぶりに見ました。
作者はどんな方なのだろうかと検索しましたが、ほとんどプロフィールなど公開されておられないのですね。少し残念な気もしましたが、かえって更にファンになりました。
私もいつか魔女になりたいと思いました。

投稿: yuyu | 2012年6月19日 (火) 22時09分

YuYuさん、達者でしたか。
 関東はいろいろ災厄にみまわれて、大変だと想像しています。しかし関東、関東と言っても広いですから~。スカイツリーができて、楽しみも増えましたね(笑)。

 NHK平清盛は、保元平治の二つの大乱も終わりかけで、あとは清盛と後白河上皇とのイジメアイが年末まで続きますから、複雑さはなくなるでしょうね。
 で、西の魔女ですが。
 YuYuさんはすでに西の魔女だと想像していました。以前、最初にバラ園でしたか(まさか、蘭ではなかったですね)をサイトで見て、びっくりしました~。お子さんを育てながら自然環境を維持し、歴史ドラマにも強く興味を惹かれているというのは、立派な魔女の証だと思っています。
 ではまた。

投稿: Mu→YuYu | 2012年6月20日 (水) 04時42分

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