小説木幡記:ミステリ三昧、『砂の器』など
人は重要案件を幾つも抱きかかえると、その重さに耐えかねて、まるで別のことに血道を上げるようだ。余は若い頃、文學に傾倒し、大学受験を何年も棒に振った(笑)。
さて。
今夏は一週間ほど休暇をとったことになるが(取るつもりはなかったのだが、結果的にこれをして人は休暇と言うだろう)、その間十数冊の分厚い紙・文庫本を読んでいた。電子読書機、iPad やスマホで読まないところが紺屋の白袴、ひたすら横臥し来る日も来る日も紙の本をひもといておった。
で。
良い脳、ミステリは。SFもよいが、江戸の人情本もよいが、海外サスペンスもよいが、やはりお茶漬けの味的ミステリがよろし。そう、松本清張『砂の器』が、良かった。もちろん現代ものとしては、堂場さんという人の<警視庁失踪課>シリーズもよろし、よろし。
『砂の器』だが。9月上旬に二夜連続でTVドラマ放映がある(らしい)。昔映画で見たときはものすごい衝撃を味わった。昔TVで見たときは、肩すかしを食らった。今回、原作を読み(初読は20代のはずだから、記憶がなく、これが最初と思って良い)、初秋に新しいドラマを楽しみにし、さて~。
TVドラマについては、いくつか課題がある。
1.主人公の過去、特に父親の姿をどう捉えるか。余は加藤嘉が父親役をした映画に深い感銘を受けたが、さて今回のTVドラマは、そのあたりのことでどうするのかな。
2.原作では、犯人とおぼしき人物が二人いて、この関係表現が松本さんの筆致では急ぎすぎた面があるが、どうなんだろう。つまりXとYとがいて、XYの関係を上手に処理しないと、XもYもミステリ風やらせになってしまう(笑)。
3.松本さんの作品は「点と線」のように、往時の國鐵が大きなウェイトをしめる。さて、現代のJRでそれをどう描くのか、あるいは実写回想でお茶を濁すのか、現地ロケしたのか~いろいろ楽しみだ。
4.原作での殺害手法(トリック)絵解きは、余が完全にわすれていたほどに、ちょっと外れだ(つまり、そんな特殊な手法にしなくても、原作は名作だ)。ドラマではこのあたりはどう処理するのかな?
5.通説の社会派だが~。余は松本さんにたいして、そういう大上段に構えたものはもとめていなかったし、そんなことはどうでも良い(笑)。ただ、多くの原作で、警察官の描き方がものすごく気に入っておる。要するにお茶漬けの味わいだな。ちょっと古風な礼儀正しさ、庶民のお父さん的刑事が、しこしこと謎を解いていく。ときどき書面で問い合わせし、晩酌を傾けながら返事を読む。その描き方の丁寧さに感心してきた。
そういう刑事が、初秋のドラマに出てくるのだろうか?
うーむ。現代風味付けかな?
というわけで。
ミステリーって、おもしろいなぁ。原作も映画もTVドラマも。まだまだ楽しみが残っておる。
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