小説木幡記:メディア変換の中での紙や電子書籍
メディア変換という言葉は、媒体変換ともいえるから、単純に考えるとたとえば粘土板に書かれている本を、紙に印刷し直すようなことが想像できる。他方、もっと大切なことは、地図を文章に変換したり、文章から写真(静止画)や、動画に変換することもある。この方が根源的で大胆なメディア変換である。
ところで。
最近、というか先年の春にアップル社のiPadを注文して以来、ずっと電子書籍と紙書籍の対比を考えてきた。余が考えずとも、余人が賢く考えてくれるわけだが、暇もあり手持ちぶさたもあって、ともかく考えてきた。そこで、現状での中間的な結論はというと。3つでてきた。
1.小説の電子化必然性?
電子書籍化という必然性は、新しいメディアを生み出すことにつながる。だから紙で済ませられることは紙で済ませておいてもよい。
つまり、ひたすら読み進んでいく小説などは、そのままのテキストならば紙の方が読みやすく扱いやすい。ディジタル化すると数千冊を持ち運び出来るから便利という話にもなるが、~人間は大抵一冊の長編小説を読み終えるのに数日かかるから、数千冊を同時に必要なのは世界旅行したり、特別な職業の人だけだろう。
2.新しい別種の電子化小説?
電子書籍化の必然性と持続性は、電子化することで圧倒的な利便性や別の世界が広がる時だろう。たとえばテキストオリエンテッドな小説が、電子化することでゲーム化したり音や映像の映画的要素が入ったとき、初めて電子化書籍の強い意味が生まれる。
それは紙書籍媒体から別の新媒体に変化(あえて進化とは書かない)したことになり、iPadのような読書機があってこそ生まれるものだ。iPadで村上龍の歌うクジラ(ネット上での電子版解説あり)を読むというよりも眺めていると、近未来の新しい電子書籍を想像することができる。坂本龍一の音楽から雰囲気を耳できっちりとらえて、そして篠原潤のイラストが近未来世界の形を見せてくれる。
従来のテキストオリエンテッドな芸術から、別の物が生まれる端境期だと思った。
3.メディア変換の難しさ
コンピュータが生まれて70年近くになってきた。インターネットが日本の一般社会で解禁というか普及し始めたのは1995年前後だから20年近くになる。その間の変化は犬加算年というか、「実年x7」の勢いだった。つまり、陳腐化が早い。インターネット話は、実年は20年弱前だが、一般的な歴史に換算すると140年ほども昔のことになる。要するに明治時代のことと同じくらいに古い話である。
その間のメディア変換の激しさからして、すでにインターネット黎明期の情報を読み返せないことが多い。情報の格納形式と、格納媒体の変化によって消えた情報も多々ある。
たとえばβのビデオが沢山あって、再生機が生産販売されていない世界では、もうβにあるビデオ映画を見ることが出来ない。と、それはたとえ話ではなくて現実である。
この1~3は、紙であっても電子であっても、それぞれの格納媒体が生まれた時、新旧メディアの並列同時存在時期が長く続いたと考えている。紙印刷術図書は1450年のグーテンベルグころを始点とできるから560年前だ。紙が生まれたのは諸説あるが中国で西暦紀元前後と考えるのが穏当なところであろう。2000年前だ。そして電子計算機の誕生は1945年頃、65年前のことで、7倍して455歳(笑)。紙印刷図書の年齢が560歳で、電子書籍が455歳。まだまだ共存するだろう。(昨年2010年iPadの誕生普及をもって電子書籍元年と言われ出した)
それにしても、コンピュータのOS自体が問題だな。今時、CP/MとかMS-DOSとかOS9、Windows95とか、~Apple2対応とか~。そういうゲームやテキストを、現代のwindows7やMacXやLinuxで扱うのは至難の業だし、玄人でないと無理だろう。さらにそのころは音楽テープや紙テープ(爆)や巨大な7インチ・フロッピーディスクにデータを保存していたような気がする。5インチはその後だ。わずかに30年昔のことだ。メディア変換して現代に蘇生させるには、研究課題になるくらい苦労する。
いろいろ来し方行く末を考えるとしんどくなってきた。数日前にiPad2 が国内発売された。そのうち、初代iPadで読めた小説は、iPad5くらいになるとフツーゥには読めなくなるような悪い予感がする。
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