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2011年4月24日 (日)

ナニワ・モンスター/海堂尊 これもユートピア(読書感想文)

 表題に「これもユートピア」と書いたのは、一般にユートピアとは政治理想の視点から語られるので、『ナニワ・モンスター』が政治小説に捉えられる誤解を避けるためだが、読後感は近未来政治的医療的SF小説と感じたので、それらをあわせて「これも」と付記した。

 この作品の入手は早かった。
 先週末の新聞広告で新潮社の宣伝を目にし、土曜日には書店に出向き入手した。かといって、私は海堂さんのマニアではなくて、読んだのはバチスタと、ジェネラル・ルージュくらいしか記憶にはない。まして映画もTVも見ていない。
 海堂作品をその2冊から否定的に言うと、おもしろすぎて後に残らない、という感想が一番強かった。それはものすごく得難いエンターテインメントの質だが、あいにく私は部分的に極端な文学性を求めることもあり、「忘れる内容」というのは、読まなくても良い本と直結するので、話題満載にしては、それ以上に手をのばさなかった経緯がある。

 それが、何故?
 何故思い立って重い腰をあげてわざわざ町の大型書店(京都駅南のイオンモールの大垣屋書店)に出向き手にしたのか。要するに、運命(笑)としか言いようがない。新潮社の宣伝にもよるが、海堂さんが新しい方向に手を出した、と言う風に捉えたのである。
 そうであったかなかったかは、藪の中として、私はひごろの人生で随分「鈍い男」とか「トロイ男」と自覚しているのに、このたびはさっと町にでかけてさっと土曜日の夜に読み終えて、今日は落ち着いた所で、久しぶりの読書感想文を書き出したのだから、この点については疾風迅雷だった。

 じゃ、どうだった?
 ああ。もう四の五の言わずに買って読めばよい。値打ちは保証できる。あっというまに読み終えたのだから、その爽快感は他に得難い。ここでいちいち筋書きなどは記さないし、人物特性も描かない。春宵一刻値千金にちなんで、春宵4時間値千金と感想を述べておく。

 視点ごとの評価:各5段階評価
■ミステリィ   4点 (犯人捜しではなさそうだ。次作に続く雰囲気だな)
■日本理解   5点 (インフルエンザ、厚生労働省、医療問題、大阪府問題、空港問題、検察問題、
  官僚問題、開業医問題、「正義」問題など諸般に関して解がある。)
■医療問題   5点
■文学性    2点 (おもしろすぎて、文学もへちまもない)
■未来日本   5点 (日本の進む道が描かれている)
■ナニワ問題  5点 (大阪の取るべき道が描かれておる)
■GDP問題   5点 (関西・大阪のGDPは90兆円で、韓国一国に匹敵すると!)

 と、こうして書けば書くほどベタほめになって、書くのが馬鹿馬鹿しいので、あとは引用にとどめておく。
 あ、忘れていた。私は大阪人ではないが、文中で使われる大阪弁というか関西弁には違和感がある。もちろん、大阪ではなく浪速府の話だから、虚構世界の言葉だと思うが(笑)

▲違和感のある言葉:前半部の疑似関西弁は、すべて引っかかる
「楓ちゃんに会わせてあげたんだから、」→「楓ちゃんに会わせてあげたんから、」p150 L4
「アホか。何で蹴らなかったんや~」→「アホか。何で蹴らんかったんや」p164 L2
「~確実やったはずなのに」→「確実やったはずのに」同上

▲確かに、メタボ狩りは普通に生きている私にも、「ありゃ、なんだったんだ?」と疑問が残る
 彦根先生「~ただひたすら腹囲測定でデブ狩りを行い、メディアも一緒になって囃し立てた。ですがメタボ検診というデブ狩りで、日本国民の健康状態は向上しましたか?」p301

▲海堂さんの小説のセリフは私の気持ちにぴったりする
 彦根先生「~日本の人口は減少に転じ、社会は滅びのフェーズにはいっている。必要なのは拡大文明の背骨を支えた過去のロジックの踏襲ではなく、縮小文明の店じまいルールの新たな構築です。そう考えると、ひとり医療のみが増大し続けるロジックを容認できないことくらい、簡単にわかるでしょう」p307

▲海堂さんは、人のキモを握っておられる
 村雨・浪速府知事「~その時、私は思いました。新しいものを作るなら、古い何かを壊さなければならない。でも、古い何かを壊すには、お祭り騒ぎの中で鎮魂するしかないんじゃないか、とね」p315(太字修飾したのはMu)

感想の結論
 村雨・府知事や彦根先生らが東京や霞ヶ関に対して決起叛乱したなら、京都府宇治市の住人である私は、やっぱり浪速に行くと思った。この小説を読まなかったら、エドルン君のいる江戸へ向かっていただろう。
 いまや、大坂城の方が良いと思った。もちろん、元首には御所にもどっていただく。それが結論だな。

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