孤鷹の天/澤田瞳子 (読書感想文)儒教と仏教の狭間に若い日本がいた
一気呵成に息を詰めて633ページもある長編を読み切って、ふぅーっと吐息をもらし西空見れば、涙が流れてやまなかった。青春小説と帯にあった、そうなんだ。半ばを過ぎてから涙無しには読み続けられなくなった。なぜこんなに泣けるのだろうかと、自分自身いぶかりながら「すばらしい」という結論とともに巻をおいた。
内容は読めばよくわかるのだが(笑)、最近は読書感想文を書いていないので、搦め手から紹介しておく。紹介する義理は無いのだが、作者の澤田さんという方は、小説としてはこれが最初らしい。たぶん女性で、巻末作者紹介では1977年うまれだから、2010年・当年33歳のお若い作家だ。
搦め手からの感想文だからあの手この手を繰り出してみよう。
まず感動が似た作家としては、北方謙三さんの三国志や水滸伝や、古くは懐良親王・武王の門、北畠顕家・破軍の星……。最近では、浅田次郎さんの蒼穹の昴。もう少し堅めにいうと、八木荘司さんの青雲の大和が似ておった。この方達の作品は大抵読み終わって深いため息をもらし、途中では何度も目頭を押さえた。読者の落としどころ、痒い所に手が届く、涙腺のツボを心得た作家達の作品と、『孤鷹の天』は同じ効果をもたらした。
次に似ていない読書過程や読後感としては、1Q84/村上春樹さんとか、実は併読していた(笑)KATANA/服部真澄さんだろうね。その中間にあるのは、レディ・ジョーカー/髙村薫さんだ。髙村さんのは現代物だが、一部ちょっと同質性を味わった。要するに髙村さんも「泣かせ上手」なんだ。おもしろさとの同質性では、荻原規子さんの空色勾玉など、勾玉三部作。
『孤鷹の天』をドラマ化するなら、NHK大河ドラマがよいな()。青春群像だから、むいている。それと時代が古いから皇室や貴族をもろに表現しても、いろいろ問題は起こらないだろう。藤原家なんて昭和史でも暗躍するから、描きにくいが、奈良時代ならよかろう。配役は男優や女優の名前を覚えていないので、省略したいが。特に、長屋王のひ孫かな?磯部王とか、後の桓武天皇になる山部王のキャラクターが実にすばらしいので、適役を得られれば人気がでるだろう。
背景となる古代史だが、孝謙女帝(阿部内親王)、恵美押勝(藤原仲麻呂)、淳仁天皇(大炊王=淡路廃帝)、称徳女帝(孝謙重祚)、弓削道鏡、山部王子(長岡、平安遷都の桓武天皇)。内政が麻のごとく乱れた奈良時代後半。西暦でいうと8世紀後半。
見どころ読みどころは。
これは私の少年時からの性向があるが、高校一年から漢文を習い始めてとても気に入った。後日、それが日本独特の読み方であると知ったが、論語やその他古典の一節、屈原の楚辞や史記の一節、孔明の出師表などをえらく気に入って遅まきの素読というか、受験勉強よりも漢文の有名文を暗記することに快感をあじわっていたので、~。物語は大学寮という、奈良時代にいまでいうと官吏養成の東大法学部みたいなところで、論語やその他古典を使って勉強するのだが、ときどきふと私が少年時に気に入った文章が出てきて、物語の奥行きを見せるところに、快感があったな。屈原の漁夫辞が終盤で使われているが、ここでも泣いた(笑)。
結論
よい感想文では無かったが、心に深く染みこんだ。良い秋の読書日であった脳。
なおネットでさがしていたら、適切な紹介文があったのでメモしておく。
http://nami-usagi.cocolog-nifty.com/nu/2010/10/post-54f1.html
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