小説木幡記:2010/11/28(日)TVドラマ「球形の荒野」の感想
承前(ドラマ)点と線/松本清張:TVで観た「新・点と線」
承前(原作)小説木幡記:2010/11/12(金)球形の荒野/松本清張.を読んだような
この金土の夜に合計4時間のドラマをみた。いくつかメモを残しておく。
TVドラマは脚本(原作)、演出、配役などが関係してくると想定して、脚本は前後編4時間枠に収めるための工夫がある。しかし「脚本+演出」は、主役の田村正和さんを扱いかねている感がした。野上顕一郎(田村)はもう少し背景に隠した方がよかった。その分、謎が深まる。
配役は、悪くはなかった。だれが気に入ったかというと筒井源三郎(旅館の主人)役の小日向文世さんと、村尾芳生(外交官)役の佐野史郎だろうな。
一番残念だったのは、ミステリを意識しすぎたのか話の筋を追うことに時間をとりすぎて、肝心の奈良や京都の寺社仏閣を丁寧に画面に収めなかったことかもしれない。原作では、京都での南禅寺と都ホテルと苔寺が「日本」の昭和30年代をよく描いていたが、ドラマでは省略が多く付け足しのような感があった。そして、いろいろ各地を出歩くわけだが、それなりに理屈が分かるような流れにしてもらいたかった。どこへ行くにも、唐突だな。
特に、参考に上げたblog作者も記していたが、奈良の薬師寺と新薬師寺、唐招提寺と元興寺の選択と、飛鳥の省略は致命的に思えた。要するに、主人公の元一等書記官野上の、日本に対する愛情は飛鳥の古寺や、薬師寺・唐招提寺の空間にあったと思う。ドラマではそれを省略した! 単にセリフで「日本の寺社が好きだ」では、ドラマになりがたい。映像で表現しないと。
というわけだ。
ただし原作とドラマとを比較して感想をもらすのは、ドラマ制作者にたいして申し訳ないことだとも思った。それに清張の諸作品のなかで『球形の荒野』が最良とも思ってはいない。多少、荒さや強引さがあって、小説としては引っかかりがあった。たとえば、野上を裏切り者として付け狙う集団の描き方が弱い。戦後20年後の個人の怨念は描けても、グループとして野上一等書記官らの生命を狙う存在は、わかりにくい。野上ら、終戦工作に関係した者達が、戦後20年後の国粋主義者達の具体的な弱みを握っていたのなら、もうすこしわかりやすいが。陸軍関係者や戦後の国粋主義者の考えがわかりにくいから、「悪」が平面的になってしまっていた。
ただ。
ドラマで鈴木次郎警部補(江口洋介)が、最初は自らの従軍体験をもとに、野上らの終戦工作を売国奴扱いしたのはリアルだった。その上で、最後に野上らの真意を心中で丁寧に昇華した。その対立葛藤が、じつは(笑)原作を凌駕したところに、余が前後編4時間も観た所以(ゆえん)があった。
参考
Muと似かよった感想を記した記事を上げておく。
「テレビドラマ『球形の荒野』は「後編」に期待」
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