小説木幡記:2010/11/12(金)球形の荒野/松本清張.を読んだような
書店で松本清張の文庫本が山積みしてあったので、つい手に取った。球形の荒野、とは斬新なタイトルだがじつは大昔の推理小説で余が高校か大学生のころに発表されたものだ。後日、球形とは地球を指すと耳にした。そこが荒野という話になるが、清張作品はタイトルが上手なので、あんまりこだわると中身とずれてくる。
清張作品はいつか読み直そうと思って今にいたった。大体社会人になりたての20代の頃に反発しながら読んでいた。いつかいつかと思いながらの今日このごろ、気になった物、話題になった物を読み返せば佳いだろうと、軽い気持ちになっていた。帯を見ると、田村正和主演でドラマになると書いてあった。11月26(金)、27(土)の2夜連続と、詳しい。この両日を過ぎたら、この帯は棄てるのだろうか? と思いながら文春文庫を上下買ってしまった(笑)。最近の文庫は活字が大きくて読みやすい。まだまだiPadよりも扱いやすい脳。
序盤で、奈良の薬師寺や唐招提寺、南の明日香へ移って橘寺や岡寺や安居院(あんご院)=飛鳥寺、の風景が描写されていて、清張作品が持つ「安堵感」を得た。もともと松本清張を社会派とか政治談義的に好んだわけではなく、古代史や明日香や酒船石の中で読んできたので、この最初の小説場面は新鮮だった。
推理小説としては、複雑怪奇なものではなかったので実にあっさりと上下文庫を読み終えた。主人公の新聞記者(ドラマ解説では、刑事が主人公になっているようだ)が東京と京都・奈良を往復するのに、夜行急行を使っているのが、その時代の雰囲気を醸し出していた。京都蹴上げの都ホテルの味わいもよく出ていた。ああそうだ、南禅寺、苔寺と、奈良だけでなく京都も舞台になっていた。こういう推理小説は、そこへ「行ってみたい」と思わせる力があるな。
話の要点は、外交官(一等書記官)が戦前、ヨーロッパで停戦・早期終戦処理に奔走したあげくのことだ。当時の状況では、利敵行為、スパイ、国家公務員守秘義務違反~と見なされる行為である。「そういうこともあったのかなぁ」という感慨が深くて、お約束ごとのような「だから平和は大切だ」とは、思わなかった。戦争がなければ平和もない。一番よいのは鼓腹撃壌(こふくげきじょう)、つまり為政者がまともで、統治・政治がまるで気にならない世界~戦争も平和も意識せぬ世の中なのだろう。
追伸
ああそうだ。ドラマは楽しみだな(笑)。それにしても2昼夜連続とは、忙しくなるのう。
参考
球形の荒野:2夜連続松本清張スペシャル(フジテレビのドラマ公式HP)
松本清張スペシャル『球形の荒野』(フジテレビのblog)
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