NHK龍馬伝(11)土佐沸騰:下士と上士の因縁劇
龍馬伝好調、福山龍馬よし、でした。
龍馬が姪の三味線を自ら弾くのが、声もよく(龍馬は歌手か?)、若者の切腹の後の哀調を奏でておりました。この三味線場面は、今期龍馬伝の「名場面」だと思いました。
参政の吉田東洋は龍馬に向かって、「おぬしゃ、変わった。なにがあった?」と尋ねます。下士と上士の諍いを止めに、丸腰で上士達のいる場所へ乗り込んできた龍馬の剛胆さ、沈着さを知って、東洋が龍馬に強い興味を持った瞬間でした。
「何かを、捨てたな」と、東洋。
「……。江戸で目録を取りましたから」龍馬の心中には京都へ去った加尾が浮かんできます。
実は年を取るとこういう場面・状況はそれほど珍しいことではなくなります。しかしよくあることであっても、ドラマの中で生身の役者が眼前で生きているのを見ると感動が深まります。どういうことかというと、理屈の上で「人は、苦難を経験すると、心の柄(がら)が大きくなる場合もある」と知っていても、それをその通り役者(龍馬=福山)が演じるのは難しいことです。それなのに、今夜の龍馬は実にその雰囲気を深く表しておりました。
対比、コントラストの妙でもあります。本当に最初の頃の龍馬は普通の、何を考えているか分からない「変な若者」だったのです。それが、江戸へ行き、土佐に帰り、なにかと苦労(ストレス)に直面するたびに、どんどん深みを増してくるわけです。今夜は、下士と上士の諍いを仲介し成功したかに見えましたが、武市半平太が吉田東洋の甥、つまり後藤象二郎と手を打った内容は、武市の弟子の「切腹」という結果を招いたわけです。この一連の流れの中で、龍馬がどんどん成熟していく様子がよく分かるわけです。
加尾を失った挫折、そこから陽の思考=世間と無関係には生きていけない→武市半平太に自分の考えを述べる。
武市の周りで事件が起きる=武市の苦難を救う(下士と上士の諍いを納める)→いきり立つ上士との交渉に向かう→東洋から交渉を認められる→成功
武市と後藤象二郎の交渉→上士と下士の諍いの手を打つ←条件は武市の弟子の切腹
一応の成功だったが、龍馬は自分になぞらえて「切腹すれば、それで終わりになる」→再び挫折→三味線
もちろん龍馬はこの先、何度も何度も苦難、工夫、歓喜、挫折を繰り返していくわけです。少なくとも龍馬は、失敗を常に陽に変えていく気力を捨てません。それが、今夜の大きな見所でした。今夜の挫折が来週どうなるのかは分からないわけですが、また別の道が開けてくるのだと思います。
さて。
吉田東洋(田中泯)、武市半平太(大森南朋)、この二人の脇役に感動しきり。吉田東洋の不気味さ、武市半平太の暗さ激しさ、骨の髄に染み渡る快感です。今年の龍馬伝は、3月半ばの評定で、私にとっては「秀」となりました。めでたいことです。
注:主役と脇役とがそれぞれに、味わいを出したとき、そういうドラマはすばらしくなります。
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