NHK龍馬伝(05)黒船と剣:龍馬の青春像
青春とは愚かしいもの
青年龍馬の青春期の逡巡や見通しのなさ、世間知らず、短慮など負の側面がよく現れていてよかったです。
英雄や偉人を引きずり落とす趣味はまったくないし、そういう作品は好みません。
しかし今夜の龍馬の青春像は気持ちがよかったです。一種の青春の蹉跌でした。どこにでもいる、ちょっと才があって夢があって、人のよい龍馬が、経験不足から、今いる世界のよってたつところの土台をなくして、おぼれかけていました。無神経なようにみえて、異文明異文化に遭遇して人生の根底を揺さぶられてしまう、ぶれのあるひ弱で基礎力のない青年であることを露呈したのです。
青年とはそういうものをさしているのだと、龍馬の嘆きや驚愕をみていてひとりでうなずいておりました。
老いていくというのは、青春の負の遺産を隠していく過程にあるのでしょう。
いやもちろん「青年」とひとくくりにできないことは承知の上です。ただ青春に蓋をしていくのが老成の過程であって、蓋をしなくても、なんの感性も、初々しい知性も、そもそも青春自体をもたない人も多くいるのが実情なら、今夜の龍馬は「あっぱれな、愚かな青年」だったわけです。
黒船の巨大さの前に北辰一刀流坂本龍馬の「剣の道」が敗北したのです。
人間が老成してまるくなっていくのは反語的に単に「すりきれた」だけとも申せますが、これからの龍馬の場合は本当に自らがまるくなっていって、自分自身にも他人にも、ますます力強い存在になっていくのだと考えています。今夜はその龍馬の本当の出発点だったはずです。天然の資質のよさが、外界から与えられた強烈な衝撃によって、みるみる骨組みを再構成しだした予感がします。天然自然の人の良さや善良さが、衝撃によって強い構造を生み出すのか、あるいは溶解してなくなってしまうのかと考えると、龍馬の場合は強くなる出発点を得たのだと思いました。
鬱になるほどの衝撃
勝海舟や佐久間象山や吉田松陰らの識者は別にして、当時の青年(そして幕府も武家も町民も百姓も)にとって黒船との遭遇とは、おそらく東京や京都の上空に浮かんだ直径20kmの宇宙船に出くわしたショックだったと想像できます。それまでの人生や体験の中になかったこと、そして世間常識にもなかったことに遭遇したなら、龍馬や桂のように混乱し、目に隈をつくって憔悴することでしょう。
一方、このころ江戸や長崎で外事を担当した関係者の様子は、ときどき目にしますが、おおむね「しっかりしていた」ようです。浦賀奉行は何度も「ともかく、長崎にお回りください」と米艦隊に、さらりと言い返しました。結局、一隻が江戸に回ってむりやり「アメリカ大統領の親書」を押しつけてしまいました。一年後の返書を待つというのですから、当時の外交は猶予期間が長かったようです。
土佐の様子
この頃は江戸幕府開府以来260年くらいたっていました。幕府が初めて諸侯に開国か攘夷かを相談しました。土佐の山内公はさらに藩士たちに意見をつのり、吉田東洋と武市半平太の考えに興味を持ちました。吉田東洋は現代でも有名人ですが、それはまだ後日のこととしておきます。私は山内容堂の役・近藤正臣さんが気になりました。
まとめ
つまり、坂本龍馬は江戸留学中にショックをうけて尻餅をついてしまったのです。立ち上がることもできなくなって剣の道を忘れ、あろうことか、千葉道場を追放されてしまいました。
剣の道という自己修養から、姉がいった世間、龍馬にとっての本当の「世界」に直面してしまったわけです。さて、どんな風に成長していくのでしょう。
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