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2009年12月28日 (月)

NHK坂の上の雲(2009-5)留学生:海外派遣士官

承前:NHK坂の上の雲(2009-4)日清開戦:日清戦争・明治27~28(1894~1895)

もと真之らの英語教師・高橋是清(後世、首相となり、226事件で暗殺された)
 アメリカ留学をした秋山真之は銀行家になっていた高橋是清(西田敏行)に出合い、ナイアガラの滝を見学する。その地で、イロコワ族の男と二人は昔話をした。つまり、二人の笑い方がイロコワ族の祖父母達の笑いと同じだと言われた。男はインディアンにとって古き佳き時代の笑いを思い出したわけだ。

 そこで高橋は真之に、昔は180万もいたイロコワ族は、アメリカ大陸に侵略した白人達にいいように利用されて、金と武器を与えられ部族間戦争をして、今では20万人に減ってしまい居留地に押し込められた。今のアメリカはそういう悲劇を過去に持っている、と。具体的には英国を中心とした白人集団が、アメリカ大陸と現地人をクリアランス(掃除)した方法を語って聞かせたわけだ。それは実質的なインディアン奴隷狩り戦争だった。

 その後独立したアメリカと、インディアンの争いは、大昔の西部劇に詳しい。さすがに、1990年「ダンス・ウィズ・ウルブズ」前後から、米国騎兵隊がインディアンを殲滅し快哉する映画は消えたが。

 この話は、昔観た映画「アラビアのロレンス」にも似た雰囲気があった。イギリスの若い考古学者T.E.ロレンスが英国軍から、語学や現地への馴染みを見込まれて、情報将校としてアラブ諸部族をまとめていく姿が描かれていた。しかし、つまりは英国の植民地統治のために、当時のトルコ帝国への現地人による抵抗を必要としただけで、トルコが敗北すると、とたんにアラブ部族同士が争ってばらばらになる方が良いという、本国政府の意図にロレンスが挫折する内容だった。

 高橋是清は、日本がイロコワ族と同じ運命にならないように、軍人である真之に忠告した。
 これはおそらく、米英ヨーロッパ・露西亜からみて、アジアはネイティブな部族国家に見えて、その中で日清戦争に勝利した日本は、勇猛果敢なイロコワ族と同じだから、日本にアジアを掃除させて、最後に列強のどこかが日本を滅ぼす(植民地化)、という意味を含んでいたのだろう。クリアランス・オブ・アジア、となろうか。
 (大東亜戦争の結末は、欧米の意図とは異なり、アジア各国での宗主国との植民地戦争をともない、アジアは一応白人支配から解放されたと言える。その後、別の隠・植民地化が進んでいるのも事実である)

 正岡子規は真之に、俳句や和歌の世界を通して日本の文明文化の佳さを伝え、「国が滅びれば、この文化も滅びる」と伝えた。

外交官・小村寿太郎
 ニューヨークの街角で、真之は駐米公使・小村寿太郎からタバコをせびられた。清国では代理公使を勤め、ネズミ公使と諸外国から後ろ指、小馬鹿にされていた。

 ここで外交使節の公使とは、正式には特命全権公使で、大使とは階級の違いがあるだけで、機能するところに違いがまったくなく、特権は同じである。さらに代理公使も、公使の代理ではなく、相手国との間に成り立つ公使の信任状発行という手続き上の違いがあるだけである。他にも弁理公使があるが、これも特権は全く同じらしい。この使い分けの実際は近代史の研究者とか、外務省の人に聞かないと良く分からない(笑)。ともかく、ネズミ公使といえども、当時の日本の外交を一任されてアメリカに駐留していた。

 小村はドラマによると親の借金返済で首が回らなくて、赤貧洗うが如き公使だったようだ。真之にタバコをねだって、買わせる。演じるのは竹中直人で、実に味がでていた。フロックコートも全身からも、異臭ただようような貧しさを演じていた。もちろん、気宇壮大で、さかんに「完全に対等な日英同盟」を大言壮語していた。もちろん、真之はその意味を深慮し、今度は留学生ではなく英国駐在武官として渡英することになった。(もしかしたら、小村が政府・海軍を動かした人事だったのだろうか?)

 秋山真之が小村の大言壮語の意味を理解したのは、高橋是清からイロコワ族の悲劇を教えられていたことによるだろう。しかし、高橋と小村との、その比喩するところは、現実的に大きな違い見せていた。高橋は日本がイロコワ族のように利用されて亡国に至ることを避けよ、と忠告した。

 小村は逆に、日本は英国に「ドカーンと一発かまして、イロコワ族になる必要がある」と言ったわけだ。これは、欧米露列強が互いにアジアでの植民地争奪戦に血道を上げているなら、その力を上手に利用して、英国からの援助を受けて、その力で対露にあたるという捨て身の外交技を意味していた。
 英国に「日本はあんたらの植民地争奪戦に役立つ東洋のイロコワ族ですぞ」と言って、その代わり「露西亜への外交支援は止めてくれ」という意味だった。

 日清戦争の勝利によって得たかと思われた遼東半島の領有権は、三国干渉(フランス、ドイツ、露西亜)によって下関条約下(明治28年:1895)、日本はあっさり放棄せざるをえなかった。ところが、旬日この遼東半島には、露西亜が自国・帝國海軍太平洋艦隊のための海を欲し、鉄道を敷き、半島南端の旅順には巨大な要塞を構築しだした。

大きな地図で見る

 小村だけでなく当時の日本には、大陸を南下してくる大国・露西亜が血に飢えた北極熊に見えたことだろう。小村の脳裏には、日本があっという間に露西亜に割譲され、残りは英独仏によって、当時の清国と同じように分割されて食い荒らされるイメージがリアルだったに違いない。そこで、言ってみれば話の通じない北極熊対策に、ちょっとは話のできる海賊と手を結び、最後はなんとしてもイロコワ族の悲劇を避けねばならぬ、と心に誓っていたのだと思う。
 そうでないと、正岡子規の感慨のように、亡国に至り、日本の文明・文化が灰燼に帰す。そのころの占領とは、植民地化であり、それは原住民を奴隷にすることである。当時はそれが列強にとって国益を守るという大義名分になったのだから、恐ろしい歴史の教訓である。

 現代一般に、旧宗主国との穏やかな関係は残っていても、苛烈な植民地関係は表向きにはない。だが、逆に実質的に侵略し統治し「民族融合」という美名によって、伝統ある各民族、国家が、その文明・文化を消滅させられた実例や危険性は常にある。
 瀕死の陸奥宗光が伊藤首相の前で「戦力を持たない国に、まともな外交はできない」と言った重みは現代にも消えてはいない。

見どころ
 廣瀬大尉が露西亜の美しい女性を惹きつけていくシーンが、良かったです。国や言葉が違っても惹かれ合う男女の仲は別次元かもしれません。しかし、敵国同士の間柄ですから、これは悲恋とも言えましょう。

 正岡子規の脊椎カリエス(結核菌によって脊椎が空洞化し曲がる)は、現実にも壮絶な様子だったのですが、ドラマの中では、俳優の香川照之さんの鬼気迫る演技が良かったです。単純に化粧などで病身に見せている様子ではなく、本当に香川さんがやせ衰えて苦痛に喘ぎ、その中で句作をしている雰囲気がよくよく現れておりました。

 昔、故・原田先生(筑波大学教授)と話したことがあります。秋山好古や真之がいずれも「空前絶後」の能力を発揮したことについてでした。
 「どうして、秋山兄弟のような人が生まれたんでしょうかね」
 「いや、秋山ほどの優秀な人だったから、司馬遼太郎さんの目にとまり、歴史に残ったのでしょう」
 という話でした。
 今夜のドラマでは、明治時代に努力し命がけで日本を切り開いて行った人は、絞っても数万人いたようです。現代日本では、どうなんでしょう

 米西(アメリカとスペイン)戦争におけるアメリカ海軍のキューバでの港内閉塞作戦に、観戦武官として参加した秋山真之の報告が、いまでも屈指の情報分析と提案を含むレポートであると認められているようです。

まとめ
 さて、第一部が終了しました。秋山兄弟、正岡兄妹の幼少期は、少しかったるい味わいでしたが、さすがに5回目ともなると、私自身明治時代にどっぷり浸った気分になってきました。
 明治村にまた行きたくなりました。
 重厚で、丁寧で、人物像は「ほんまかいなぁ~」と思うほどに、各人のクセ、個性がくっきりと表れておりました。

 気に入った俳優・女優、というよりも役柄ですが。
 女優では、正岡律さん役が良かったですね。なにかしら伝統的な芯の強い大和撫子を思い描けました。菅野美穂という方らしいですが、なかなかによい人選でした。
 乃木希典(柄本明)。硬直した頑迷な雰囲気がとてもよく出ていました。
 山本権兵衛(石坂浩二)。独特の軍人官僚的な目つき応対が良いです。やまもとごんべい、と記してありましたが、私が大昔覚えたのは「ごんのひょうえ」でした。さて?
 小村寿太郎(竹中直人)。この役に竹中さんを起用したのは大成功だと思いました。歴史上の人物はすべて神棚に祀られるような表現をされますが、竹中さんの演じるネズミ公使の絶妙さには、うむむ~む、とうなりました。
 陸奥宗光(大杉漣)。陰影の深い、病身で目だけが鋭く、現実世界の外交を論じる姿は国士とさえ思えました。伊藤首相に救われた経歴もあり、首相を深く尊敬しながらも、実世界で外交することの激しさを最後まで演じていました。

 肝心の秋山兄弟や正岡子規については、第二部、三部の折に記しましょう。
 ではまた来年秋にお目にかかりましょう。

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