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2009年11月22日 (日)

NHK天地人(47)最終回

承前:NHK天地人(46)大坂の陣

走馬燈を見る。
 こうして今夜無事最終回を迎えました。NHK大河ドラマはこれまでのところ、主人公の死をもって終了します。一人の人間の誕生から死まで、つまり私からすると「他人の人生」を一年間かけてじっくり味わうことになります。
 「天地人」では、御館乱(おたてのらん)が一つの分かれ目でした。この戦いをへて直江兼続は越後・上杉景勝を謙信公の後継者としてもり立て、兼続自身も、お船の婿となり直江家の名代を嗣ぎ、主君景勝から家老に取り立てられました。

 もう一つの分かれ目は石田三成との友情と、その結果として天下分け目の「関ヶ原の戦」でした。上杉景勝は徳川家康に敗北し、名門上杉はここに会津120万石から一挙に出羽米沢30万石に減封されました。直江兼続は表だった敗北の責任を求められもせず、執政のまま上杉家の再起に力を尽くしました。おそらく、この敗北は兼続に深い自責をもたらしたと思います。直江家は兼続の死後、所領屋敷を上杉に返し家名は断絶しました。これは兼続やお船の意志でもあったはずです。

 走馬燈を見るように一年間を振り返ると、兼続は上杉謙信と出会って以来、信長、秀吉、家康、徳川秀忠と直に渡り合う人生を過ごしました。その間常に無口な主君景勝の代弁者として、執政の役目を果たしました。関ヶ原が1600年で、亡くなったのが二代将軍秀忠の治世下1620年でした。60年の生涯だったわけですが、私が一番感心しているのは、関ヶ原以降の20年間、直江兼続は懸命になって上杉家の再起に力を尽くしたことです。米沢に学問所禅林寺(禅林文庫)を作ったのですから、執政として民政の文化面にも強く関わった兼続の威徳が偲ばれます。

さて最終回の見どころ。
 臨終に近い75歳の徳川家康に、伊達政宗とともに招かれた兼続の、セリフの少ない場面が心に残りました。最後は駿府城の一室で、家康と兼続だけの対面になりました。家康は兼続を前にして、息子の秀忠の冷たい眼差しについて愚痴をこぼしました。「秀忠の目は、愛も信義もなかった父上の人生は一体何だったのです、と言っている」と。
 兼続は家康に「その秀忠様に後をたくされた。だから、聡明な秀忠様ですから、お心の内は理解しているはずです」と答えました。
 関ヶ原の戦いをへて20年近く経ち、兼続の晩年には徳川という私人がすでに公人となっていました。日本を統一し安定した政権を打ち立て、二代将軍に治世が引き継がれたことで、徳川は「公」となったわけです。その中で、兼続は家康から「義と愛」という精神を秀忠に伝えることを頼まれ、引き受けることになりました。この場面の事実はどうであれ、晩年の兼続が秀忠から厚遇を受けたことからも、最後を飾る名場面と思いました。

思いで深い役者達。
☆お船:常盤貴子さん
 姉さん女房の役を上手にこなされました。画面に派手さはなかったのですが、兼続とは独立して様々な役割を果たしたと思います。兼続の不在中は自家を守り、主君景勝の奥方菊姫が京に上ったときは同行しずっと世話をしました。今夜は、江戸屋敷に一人住まう玉丸(景勝の後継者)の養育に力を尽くします。裏方の役割を常盤さんがこなしていく姿はいつも心の片隅に残っていました。

☆上杉景勝:北村一輝さん
 最初からお気に入りでした(笑)。関ヶ原のころまでは本当に無口な役回りでしたが、その無口な姿がまるで北村さんの天性の役割と思えるほどでした。老境の姿が良かったです。

☆直江兼続:妻夫木聡さん
 後述する小栗さんと同じく最初は気に入らなかったのです(笑)。理由は単純で今風のかっこよい若者を体現している雰囲気だったので、軽いというか「つまらぬ」と言う気持が先行してしまいました。ロートルから見る若者への嫉妬と思われそうですが、それとはまた違います。(私は日頃、若者達を頼もしく思っています)
 要するに馬鹿馬鹿しく思えてしまうわけです。女性にもてる若い男性像は、同性からみると「口も聞きたくない、目も当てられぬ馬鹿馬鹿しい色男」となってしまうものです。

 ところが。案に相違して天地人を毎回見ていました。それはつまり、すこしずつ「うん?」「なかなか」「よいなぁ」という気分が積み重なってきたわけです。
 小栗三成と同じく、妻夫木さんは太閤晩年のころから口髭を蓄え出しました。そこからのっぺりした色男という印象が私の中で大転換をきたしたのです。よく考えてみると、セリフ廻しに渋みが加わってきました。特に終盤の家康との対峙場面はどの場合も、セリフが重厚でした。
 というわけで、妻夫木さんは私の中で「これからますます輝く役者」となりました。おそらく後年の大河ドラマに出られたときは最初から期待をこめて、見つめることでしょう。

☆石田三成:小栗旬さん
 感想はほぼ妻夫木聡さんと同じです。ただ役回りの上もあって、敗軍の将、斬首という運命がより私の気持ちを惹きつけたピークがあったと思います。懐かしく思い出されます。家康に「人はお前に付いていかない」と面罵された時の三成の気持ちが、小栗さんの表情によく表れておりました。

☆伊達政宗:松田龍平さん
 後述する城田さんと同じく、顔立ちが日本人的でないのが違和感としてありました。役回り上、景勝や兼続への態度も横柄でした。しかし徐々に兼続に言葉少なく態度で好意をあらわしていく姿をうまく演じておられました。
 家康が兼続を問責している場面で、つつーっと現れて家康の肩を揉み(政宗は家康の娘婿)、兼続にむかって「じゃまくさい男や、はよ出て行け!」という馬鹿にしたセリフをはきます。いかにも兼続を子供扱いした迫真の演技でした。ところが家康から「お前は、兼続を買っているようだな」と言われます。(兼続の窮地を救うために、家康の前から去らせたわけです)
 要するに、政宗は兼続を評価しているわけですが、その態度が複雑で、そのややこしい所を笑顔もなく演じる松田さんが好ましく思えました。

☆真田幸村:城田優さん
 現代日本人はモンゴロイド的な風貌を無くしていっている雰囲気を城田さんに味わいました。最初はまるで慣れない欧米の巨漢が、浴衣を着て現れたような、苦笑を漏らす情景でした(笑)。しかし、最後の大坂夏の陣の前に、兼続と語らった情景ですべてが解消されました。特に男優は芝居の中の人生時間で、ある程度歳を経ないと駄目なんだ、とも思った次第です

☆初音:長澤まさみさん
 いや実は、この女優さんは数年前の「功名が辻」でのクノイチ役以来、お気に入りなのです。今夜は随分加齢のご様子でしたが、亡き真田幸村の姉として、亡き三成の恋人として、そして兼続に一時的に惹かれた女として、よい味をだしておりました。

☆他にも一杯
 上田衆の綿々、兼続のお父さん、弟、淀殿、……。ものすごく思いで深いです。これが大河ドラマの醍醐味なんでしょうね。家康や秀吉でさえ、今夜はすべて許せましたし、気に入った名場面を幾シーンも思い出せました。

というわけで。
 今年の天地人は途中何度か「うん?」ともおもいましたが、つまりは、「若さ」「義と愛の一本調子」「屈託の少なさ」「明るさ」「多少の剽軽さ」で一年間を乗り切った作品だったと思いました。
 最大の収穫は、直江兼続という男のことを知ったこと、上杉謙信公亡き後の上杉家の、歴史上での生き残りの苦労を充分知ったことでしょう。
 そして最終回では、やはり意外なものいいですが、「私も兼続のように義と愛で余生をすごうそう」と思った次第です。お笑いになるかも知れませんが、そういう強い影響をもたらした大河ドラマと思いました。やはり死する時は兼続のように、「よう、頑張った」と仏顔をしたいもんです!

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コメント

先生こんばんは。
8時頃は忙しくて見られないので、BSの再放送を見て、余韻に浸っています。ラストは涙が出ました。先生の記事を拝見して、また復習が出来ました!(←いつも。)
・・聡明な秀忠様ですから、お心の内は理解しているはずです・・の台詞がとても印象に残りました。
私は俳優さんでは幸村さんが好きでした^^
龍馬伝のお講義も楽しみにしています。
雲の上の坂も読みたいのですが、間に合いますでしょうか・・汗。

投稿: yuyu | 2009年11月22日 (日) 23時44分

YuYuさん、お久しぶりです。
 天地人は、大河ドラマとしては難しい作品でしたが、俳優女優さんらが、これまでとは違った別の大河ドラマを作ってくれました。主人公が比較的聖人君子に近い人だと、どうしても迫力を出しにくい演出になってしまいます。上杉謙信の「義」だと毘沙門天の旗をなびかせて、ガクト風の英雄像が可能ですが、後継者となるとやりにくいですね。
 さらに中心となる「愛」は、最終回で感じたのですが、仏教的な慈悲の心を表すことになるから、もっと難しかったかと想像します。つまりは兼続の機知あふれる弁舌と行動によって、主君家臣一体の同志愛、三成との友愛、お船との夫婦愛、それぞれの「愛」を描いたと思いました。

 真田幸村がお好みですか。もう少し出演が多ければ良かったですね。
 来年の龍馬伝は、私も楽しみです。おそらく毎週日曜は感想を書きながら泣いておるでしょう(主人公の最期を常に想像するから、困った読者です)

「雲の上の坂」とはとてもシュールな表現です。まるで天国への階段道があるような~(笑)
 ただ、三年越しというのがシンドイですね。全部DVD化されたとき一気に見てみたい気もします。
では

投稿: Mu→YuYu | 2009年11月23日 (月) 05時55分

先生おはようございます。
間違いました、坂の上の雲です(_ _*)予告版がとても美しかったです。
龍馬のお講義でもお邪魔しますのであほさに懲りずに宜しくお願いします。。武市半平太役の大森南朋さんのファンです。楽しみです

投稿: yuyu | 2009年11月23日 (月) 08時19分

YuYuさん
「武市半平太役の大森南朋」このセリフが気になってNHK頁を見ました。よさげな男ぶりですね(笑)。
しかし、この武市さんって、
「月さま、雨が」
「春雨じゃ、濡れてまいろう」の月形半平太の元祖というかモデル元で、やがて切腹ですよ、切腹! こんな方に入れ込んでも悲しいじゃないですかぁ。

 そういえば、今度の桂小五郎は谷原章介さんで、この方は「新選組!」では新選組に斬殺されるし、「風林火山」では信長に桶狭間で首をとられるわで、いつも悲劇的でしたが、こんどこそ明治時代まで生き残る役でした。よかったよかった(笑)

 今度の龍馬伝は楽しみですが、福山さんっていささか美形すぎますね。坂本龍馬をもう少し別のイメージ(Jin 仁の内野さん)で固定化している私には、ちょっと綺麗事すぎないかなぁ~と、不安です。

 ともかく龍馬さんって、十代までは寝小便少年で、いつも鼻垂らし、よだれ垂らしだったそうだし(伝聞)、青年になってもそんな絵に描いたような美青年ではなかったはず。土方歳三さんの写真は今でも素晴らしいですが、龍馬さんはもう少し崩れたクサイ雰囲気の方がリアルに思えます。

 もちろんどんな風に汚れて、どう化けていくのか楽しみですが、NHKも来年末は全国の婦女子の涙を絞り出す魂胆がまる見えで、~~きっと狡いディレクターか演出がおるのでしょうよ(爆) 

投稿: Mu→YuYu | 2009年11月23日 (月) 17時27分

先生こんにちは。何度も失礼します。。
ディレクターさんの罠にはまり、龍馬の魅力に嵌ろうと思います^^
福山雅治さんは同級生です。 「龍馬がゆく」を読んだとき乙女姉さんと千葉さな子がよかったです。
NHK文化センターの龍馬伝の講座に申し込んでみました。

大森南朋さん、梨木香歩さん原作の「西の魔女が死んだ」の映画で、パパ役で、この役しか知らないのですが、とても男前でした~

長男の中学のPTA文庫委員をしており、おすすめの本紹介を三学期にするのですが、梨木さんの本がいいかな・・と思っています。先生でしたら、中学生に何を薦められるのでしょうか。

投稿: yuyu | 2009年11月25日 (水) 14時15分

YuYuさん、コメントをありがとう。

1.「福山雅治さんは同級生です。」
 これは気になるセリフです。年令が同じの意味なのか、あるいは幼稚園~小中高大と、どこかでクラスメートだったのか。
 もし後者なら、お知り合い、お友達ですね? とすると、来年一年間、福山龍馬のことを、やれ大根のとか、これミスキャストなどとあしざまな描きようは、出来ませぬなぁ(笑~)

2.中学生向け読書ですか
 私は、若者が読んで善導されるような、公序良俗適性マーク付き読書が少ないので、オススメする範囲も限られてきますが~。
 次の二冊は、感動した図書でした。MuBlogにも記事を記しました。参考にどうぞ。
☆家守綺譚/梨木香歩
 http://asajihara.air-nifty.com/mu/2009/05/20090507-a204.html
☆空色勾玉/荻原規子
 http://asajihara.air-nifty.com/mu/2005/08/post_ce78.html

ではまた

投稿: Mu→YuYu | 2009年11月26日 (木) 04時48分

先生こんにちは。
前者です。普通のファンです。なので辛口なお講義を楽しみにしています。
本のご紹介ありがとうございました。メモしました。早速読んでみたいと思います♪

投稿: yuyu | 2009年11月26日 (木) 15時17分

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いよいよ最終回を迎えました。これまでの流れも比較的速いものでしたが、今回も怒濤のごとく時代が過ぎていったような気がします。歴史にタラレバは禁物ではありますが、兼続の息子である景明がもう少しだけ長生きしていてくれたら、米沢藩もきっとまた違った状況になっていたのではないかと思ってしまいます。 今では山形県の特産であるベニバナを奨励しようと考えていたのはすごく少しでも父を喜ばせるために昔百万石だった時代に戻ることを夢見た息子が自分よりもはやく亡くなってしまうのは親としてこの上ない無念だったと思います。... [続きを読む]

受信: 2009年11月22日 (日) 23時51分

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