小説葛野記:2009/07/29(水)1Q84余聞:犯人Xは?
葛野の早朝
早朝の葛野キャンパスは本当に夏らしくなってきた。蝉がなき、グランドに人影もなく(普通は附属J高の体育系練習が見られる)、教室も廊下も教職員、学生の姿が見えない。余にとって天国極楽の夏期が始まったなぁ。
まだ責務残務いろいろあるが大勢は9月までのことなので、気持ちがゆるんでおる。ああ、オープンキャンパスが残っていたが、痩せるほどのことでもない。痩せるのは夏期論文だが、これはマゾ的に楽しい仕事なのでうきうきしておる。まるで修行僧になった気分になるので、お祓いみたいなものだ。
倶楽部行事は8月に2回、9月に2回と減少する。その合計4回程度しか倶楽部員達の顔をみることもない。いいようなわるいような(笑)。ひたすら芭蕉世界に埋没して、浮上したとたんに邪馬台国周遊図書館ジオラマに石膏をぽたぽた塗りたくるという、夢のような夏期が始まった。余は、ひさしぶりに心から機嫌がようなった。
ミステリの犯人捜し
承前:1Q84:Book1、Book2/村上春樹 Jと男が綾なす異・位相世界
さて、機嫌のよいうちに、昨日公開した村上春樹先生の1Q84じゃが、これは本文に書けないこともたくさんあって。主に未生のBook3やBook4の先行ネタバレじみてくるので、さすがに注記でも補記できなかった。じゃが、当記事は小説葛野記じゃから、多少は佳かろう。
一般に、これまでの経験ではミステリーの犯人Xは、登場人物・テキスト出現頻度のうち、ランキング1~5位までに収まっておる。どれほど登場人物が多くても大抵こうなる。KT2の威力じゃねぇ~。もし1位の人物がめでたく犯人なら、これは大抵は異色の造作であり、そうそう多くはない。犯人視点の倒叙法だとこうなるな。5位以下の人物が犯人Xだと、これは作者の不正もあり得る。不正というよりも、下手なんじゃ(笑)。
ただし、島田さんの占星術殺人とかの名作だと、ちょっと異例。この作者を下手だなんて、世界中誰も言えないよね。となると、ランキング5位~10位にXが居たとするなら、よほどの名作か、駄作かどちらかだね。普通は、5位以内におさまり、まあ1位とか2位は探偵さんとか、探偵の相棒が占めるから、3位~5位に居る人が犯人Xだぁ~。あはは。こうなる事情は明確で、文章とは、いやさ小説とは、作者によって作られた人為人工の世界やから、そうならざるを得ない。
1Q84のX
で、村上春樹先生の『1Q84』全四巻(今は2巻しかないが、4巻ないと余が困る)。はたして犯人Xはどなたでしょう? というのが今朝の御題。しかしここで犯人Xの規定が必要になるが、ミステリだと殺人者になるなぁ。横溝さんや京極さんの名作になると、本人は手を汚さずとも、回り全体を動かして、何人も殺す犯人が出てくる。これはこれで、難しい。さて、1Q84はジャンルとしてミステリなんでしょうか?
まあ、良いでしょう。ミステリと考えると、小説構造が透けて見えるから、読書人の楽しみ方としては、そう考えるのがおもしろい。
ずばり、犯人は彼です。(これで、ずばりなんかぁ。でも読了者にはこれで十分)
しかしもしXが彼なら、困ったことになる。通常の小説結構としては、いくら引き延ばしても、委細をつくしてもBook3以上には描けない。
さておき、Xは今のところ手を下してはいない。してまた、Xは自分がXと気づいてさえいない。いや、うすうすわかり始めたところとも言えるか。ええかげんBook3に入ったなら自覚するじゃ老。衝撃やね。たとえば、余が実はなんらかの犯人Xと、分かってきたら、そんな人生は真っ暗やぁ~。
先が楽しみ
ではBook4はどうなるのか? うむ。ここらあたりに村上春樹先生の現代世界文学旗手の責務がある。どうする。日曜作家にはとうてい想像もできぬ。平日作家でも、多くは無理やろう。ただし、三島由紀夫さんなら、行く末が分かるかもしれない。その三島さんの採った方法は?
実はな、この理論にも欠点があって、1Q84ではだれが「観察者」なのか、余にもようわからぬ。『豊饒の海』では本多弁護士やった。『1Q84』では美少女が卑弥呼とまでは明確になったが、男王は王殺しにあって、その次の崇神天皇あたりが、まだわからぬのじゃ。それとXを直結させるには~。
ああ、わかったよめた、理解した。
Book3~4はXが崇神天皇であると解明するところに村上春樹先生の技量が発揮される。
おお、おお、おお~。現代文学は蜜の味。どうか、村上先生、長生きしとくれやす。突然、失踪なんかせんといておくれ安。あれ? 生原稿もったままヤッサンはどこへ消えた!
終わり
お後がよろしいようで、それでは仕事に取りかかりましょう。
今日はメディア論の採点を、大学システムに登録すること。
あと、同僚達との会談一つ。楽楽~()
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