小説木幡記:2009/06/06(土)俳句と料理のミステリ、山辺の道など
1.花の下にて春死なむ/北森鴻(きたもり・こう)、講談社文庫
数日前の早朝、一気に読んだ。けれど西行を思い出したから手にしたのではなくて、以前北森鴻『狐闇』を随分気に入ったから、書店でこの文庫を見て自然に手が出てしまった。
連作の短編集で表題作を含めて6編で組まれ、最初と最後の短編で綺麗に整っていた。短編を繋ぐ仕組みは居酒屋「香菜里屋(かなりや)」でビアバーとも書いている。アルコール濃度が異なる4種類のビールがビアサーバーにあって、客の様子でマスターの工藤が、今夜はアルコール度数5%とか、12%とか適当に選んで出すことがある。
工藤が出す料理はどれもこれも工夫があって、もし香菜里屋が側にあれば駆け込みたくなる。
洋風だから一種の創作料理とおもうかもしれないが、ニュアンスが異なる。器も日本の有名な陶器を使って小皿に盛るのが多いから、全体の雰囲気は和風に感じられた。客の好みや様子にあわせて、すすすーと、小皿をカウンターに出すのが眼前にイメージできる。メニューが定まっている様子もなく、一人一人の客にその場でネタを選んで調理している。
この店は路地の片隅にひっそりとあるから、一見さんが紛れ込んでくることは少ない。ただ閉鎖的ではなくて、ときどき「ギャル」達も入ってくる。常連はそれぞれの短編に出てくる客達だが、30歳前後のフリーライターOL(雑誌編集)や、中年の占い師、医師、新聞記者、警察官、カメラマン……。
マスターの工藤は、常に客に立ち入らない節度をもって、客の悩みや疑問、謎をカウンターの奥から小声で答えている。常連の客達は、工藤のその言葉を聞きたくて来ることが多い。
巻頭と巻末の作品には「俳句」が基調となっている。急死した60代の俳人「草魚(そうぎょ)」の本当の姿を求めてフリーライター飯島七緒(いいじま・ななお)が一種の心の旅路にでる。歳の離れた俳句仲間のことが何故それほど気になるのかは、謎のひとつでもあるし、過去を持たない男にこそ人生そのものが透けて見える事例ともいえる。
一気に読める。ただし短編によっては、ミステリを好む人だと「?」と思う展開もある。それが作品全体にとってどうなのかは判断を保留する。居酒屋・香菜里屋とマスターの工藤が出てくるだけで、そんな「?」はどうでも良くなる。それと、七緒の心の動きと、忙しい中、山口まで一週間も旅行する活動性が気に入った。
2.北辺の「山辺の道」
昨日の産経新聞夕刊をみていたら、第一面に「山辺の道」の奈良市ルートについて地図や解説があった。現在著名な「山辺の道」のルートは桜井市の三輪山あたりから、天理市の石上(いそのかみ)神宮を歩く山裾の道で、何度か歩いたが人気があって、沢山の人が訪れていた。しかし、その天理市から奈良市までの北上ルートがこれまで埋もれていたようだ。
そういえば、天理市から北を想像したことはなくて、三輪山から物部の石上神宮までは明確な古代史、それから北の奈良市はまったく世界の異なる新世代(平城京)という気持が強くあった。
興味を持ったのはニュース記事に添付の地図で、高畑町とか、円照寺という所だったが、これは人によって様々なのだろう。
MSN産経ニュース:山辺の道「奈良道」ルートを選定 地元団体、奈良市と県に提出
参考(MuBlog)三輪山遊行(2)箸墓から檜原神社
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