小説木幡記:2009/04/06(月)少壮研究者とのディスカッション:鉄道図書館列車運用
昼頃に関東と関西の研究者が葛野研を訪ねてくれた。先回会ったのが昨年夏だったから、久しぶりと言える。さっそく我が嵯峨野鉄道図書館ジオラマや、改造中の二階建てトロッコ鉄道図書館について忌憚ない意見を承け、論議に心が躍った。
余にくらべ20年は若いだけあって、二人とも着眼点が鋭かった。ヒヤリングというか査問を受けている気分になってきて、長らく覚えていない緊張感が走った。
今日の結論は総論賛成、しかし収支経済的に運用が難しいとの意見が出た。それに尽きたと言ってもよかろう。
問題点
1.新たに鉄道図書館列車を運行した場合、その初期経費はどのくらいかかるのか。
たとえば近鉄電車が新しい特急電車を建造した際、10両編成で19億円かかったと公表している。詳細は不明だが、仮に牽引車相当の電車と鉄道図書館列車との2両編成にしても、新造すると4億円はかかる。(http://www.kintetsu.jp/news/files/shingatatokkyuace20081211.pdf)
図書館初期経費としてすぐに分かるデータでも、島根県の斐川町立図書館は総工費約16億円。延べ床面積が3千㎡で、蔵書冊数は開閉架あわせて30万冊は可能だろう。(http://lib.town.hikawa.shimane.jp/statistics/pdf-statistics/2008_06.pdf)
余の考える書庫車は一万冊のコンテナ蔵書を可能とする。一万冊を運用するのにハードウェアだけで3~4億円かかるのは、その30倍の斐川図書館が16億円とするなら、計算が合わない。
→新造車を一両2億円と推定することの妥当性は未だ不明だが、しかし図書館列車として無蓋車などを改良しトロッコ形式にする当初案は余の中で潰えた。理由は単純で、騒音の激しさで静止利用しか無理と分かったからである。どうしても、走行読書を可能とする列車は現代的な特急車両並の構造を持たないと役に立たない。
2.運用経費の目途は立つのか。
詳細は未調査だが、電気機関車、電車等の電力維持は相当に経費がかかるようだ。
いまだに各地でディーゼルタイプの車両が運用されているのは、初期投資だけでなく電力経費から残っているのだろうと推測する。
→しかしディーゼル機関はCO2も含めて環境保全には未来的ではない。「未来の図書館」としての「鉄道図書館列車」ならばこの点を解決する必要がある。
→余はリチウムイオン電池に期待をかけている。車両編成を小規模にするので電池駆動の可能性は確かめる必要がある。すでに実用化は図られてきている。
→海上自衛隊の新潜水艦「そうりゅう」がスターリングエンジンを使っている情報を報道で知った。(http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090330/plc0903301336007-n1.htm)
種々探索したところ、蓄電池を充電するために使うらしい。ちなみに潜水艦の建造費は600億円と、桁が違う。
3.運用管理と収支
余は機関車、電車の運転を司書が行うことを前提に考えてきた。自動車を使う現実の移動図書館からの発想である。しかし三人で話したが、鉄道の運転は自動車よりも飛行機に近い熟練度を必要とする。たとえば制動ひとつとってみても、列車が乗客に事故を起こさず静止するには600m~1km程度の距離を必要とする。路線毎にカーブごとに速度、制動を熟知して運転する世界のようだ。
→JRや私鉄の運転士を雇いあげる。ないしは、路線および列車編成の一部を国や地方自治体が借りる。
→たとえば、嵯峨野トロッコ鉄道の一部車両に特急静音タイプの図書館列車を編成に加え、その経費を図書館母体が負担する。
→図書館母体は引き込み線、静止型図書館としての機能を果たす諸条件を負担する。引き込み線で一時的に切り離し本体列車は通常運用を行う。など。
近代図書館は利用に関して原則無料を貫いてきた。図書館列車の利用は無料としても、列車編成自体に乗車することについては、上記の場合通常乗車料金を運用会社に支払う必要がある。
まとめ
問題点を列挙した。ダイヤと自由運行の問題など他にも課題は山積する。
しかし総論にかんしては、二人の研究者の同意を得た。
要するに、100歳まで生きる時代にあって、余生の生涯学習を充実させるには、地域全体を覆う鉄道図書館列車は意味を持つという本質に関しての同意である。
別途、心理学の分野から、拘束性を持つ列車における読書の心理的な影響についての分析は後日に考えてみる。
二人が帰ってから国土交通省の資料をネットで読んでみた。LRT(新型路面電車)に関する補助金の資料である。
LRT(http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html)
国の支援制度(http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk5_000001.html)
こういう項目の中に、鉄道図書館列車を組み込むだけの詳細な調査考察論議が必要なのだと、二人の鋭い質問の後で反省した。しかしなお新しいコンセプトは、まず思考を飛ばさねばならない。客観的な批判に耐えうる図書館環境ジオラマや鉄道図書館列車モデルを作っていく必要に駆られた。
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