NHK天地人(11)御館の乱:跡目争い
みんな鬼になった
兼続は、内紛の責任に悩みながらも景虎を討つことを決断します。鬼になって、と。
そのとき、兼続が鬼になるなら、私は夜叉になるとお船が言いました。後ろでそれをそっとみていたお船の夫は、二人の仲を気にしているようです。お船のお付きには「二人は従姉どうしだから気心がわかるのだろう」と、言ってはみましたが、暗い横顔が画面にアップされました。
もう忘れたのですが、お船の亡き父・直江景綱はなぜお船を兼続に嫁がせなかったのでしょう。姉の方は生前・謙信のそばめに差し出していました。もしも子が産まれていたら上杉家を継げなくても、直江家は外祖父になります。兼続は景勝の小姓には取り立てられていましたが、そのころは見どころが無かったのかも知れません。泣き虫だったから。
一方、上杉の内紛を知り、自滅を確信した信長は遮る者が居なくなり怖れていました。何を怖れていたのかはドラマでは曖昧でしたが、つまり天下を取ることを止める謙信が居なくなった、前進することの畏れをあらわしていたのですが、……。そばにいた初音は「鬼になれば、怖れは消えます」と囁きました。今夜のクノイチ初音は信長の思い女(びと)の立場で現れてきたようです。
ドラマでは明示していなかったのですが、神仏を滅したほどの信長の怖れとは、天皇家簒奪だったのでしょうと、貝柱をたべたとき思いました(Mu夕食に貝柱がでた!)。この時代を16世紀末期とすると、それまで公式には万世一系の天皇でしたから、信長にとっても簒奪を実行するのは比叡山焼き討ちとは比較にならない蛮勇が必要だったと思います。遮ってきたのは負けることのない軍神上杉謙信でした。その上杉家が、景勝、景虎に別れて内戦状態にはいったのです。兵は疲弊し自滅の可能性が充分にありました。信長は、鬼になる予感にうちふるえたのでしょう。
みなさん思い切ったことをするときは、鬼や夜叉になるようです。ならない人は、初めから鬼夜叉だったのでしょう。
女性の辛さ
政略結婚と言い切るには複雑すぎるのが男女の仲です。お船の夫ですが、これも直江家を存続させるために父・直江兼綱が娘のお船に紹介したのでしょう。というよりは、父や家としての命令ですね。ドラマでは夫婦仲が悪いようでもないです。喧嘩もしていません。しかし、やがてお船の夫が代わり、再度養子を迎えるのですが、これは後の話。
そもそも上杉謙信公はなんらかの事情で(毘沙門天への義理立て)妻帯しなかったようです。だから、謙信は女性だった! というトンデモ話もありますが、結果として子供がなかった。それで養子を二人迎えたわけですが、この段階で複雑です。
当初景虎は上杉家からの「人質」として来たわけです。しかし謙信公は養子にまで格上げし、さらに、自分の姉の娘「華姫(はなひめ)」を景虎の妻にします。これが政略なのか謙信公の人情の篤さなのかは、両方あるでしょう(笑)。この段階で複雑さがまします。つまり華姫の兄が、謙信のもう一人の養子「景勝」だからです。
今夜はすでに華姫には景虎の息子が生まれていました。この時、華姫は<兄(景勝)との縁を棄てて、あなた(景虎)の側に生涯おります>と、離縁を迫る景虎に伝えました。謙信の姉は実子景勝を残して、娘婿・景虎のいる「御館(おたて)」に移ります。
華姫の辛さは、自分の兄と夫が戦うことです。
華姫の母「仙桃院」は、実子景勝を残して、娘婿景虎のもとに行き、娘と孫との面倒をみることにしました。この決断は戦を止めるという深謀があったとしても、辛かったことでしょう。母にとって実子と孫とどちらが大事か、などと無理難題は考えないでおきます。
女性は古来、自分の父と夫が戦う、兄と夫が戦うというように、複雑な立場に置かれることがよくあります。「夫」がキーになっていますから、婚姻の結果でしょう。そう言えば、昨年の篤姫は、薩摩という父や兄と、徳川将軍という夫(ないし義理の息子)との戦いでした。篤姫は、徳川の嫁であると最後まで踏ん張りました。今回の物語も、おそらく華姫は最後まで夫に付くことでしょう。
この真理や心理は、おそらく女性の方がよく解る気がします。現代は一方でどんどん離婚し、じゃかすか実家にたよる風潮が顕著ですが、そうでもない時代があったのでしょうか。あるいは、華姫や篤姫の事例が特殊だったからこそ、後世の人達が感動したのかも知れません。どうなんでしょう。
私などは、素直に振り返ってみると「他家に嫁ぐ、養子になる」という感覚が非常に薄かったです。だから、根底において他家に嫁いだ多くの女性の葛藤も知らず、のほほんとすごしてきたのだと思います。さらに、景虎の兄は著名な実力派大名「北条氏政」です。景虎は北条家から、人質として上杉家に渡され、そしてそこで養子にまでなったのです。このドラマの序盤の山場「御館乱(おたてのらん)」の複雑さは、想像以上のものだったと、良く解りました。
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