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2008年12月 7日 (日)

NHK篤姫(49)さらば大奥

承前:NHK篤姫(48)西郷隆盛と勝海舟

さらばの前置き
 今夜は49回目でした。昨年に引き続き50回まであるようなので、今夜「さらば」と記すのは変にも思えますが、気持ちの上では大奥の隅々まで眺めることは、もう無いことですから、「さらば」でよいでしょう。

 私はこの五年間に、「新選組!!」、「義経」、「功名が辻」、「風林火山」、そして「篤姫」と見てまいりましたが、それぞれが異なった味わいだったので、非常に満足しております。
 このうち涙をともなったのは、「新選組!!」、「義経」でした。しばらく眠られないほど悲痛な思いに浸ったものです。「功名が辻」は軽い笑いを噛みしめていました。千代の才覚が良く出ていたのです。「風林火山」は軍師になったつもりで手に汗をにぎり、巫女タイプの由布姫に陶然としていました。そして「篤姫」は当初、姫に影がないのがおもろない(笑)と思っていたのですが、だんだん絵に描いたような「まっすぐな性格」や、家老の調所や、井伊大老との対話の中に、味わい深い「人を見る目」に感動していたのです。

 この「篤姫」がなぜおもしろかったのかは、自分で毎週感動しながらも、言葉にするのが難しくてこまっていました。おそらく篤姫とその乳母や母親、和宮とお付きの人達、幾島や滝山、そして大奥のトップクラスお女中たち、脳天気で愉快な本寿院さま、小松帯刀さんの年上女房、側室、そして龍馬の恋人というか、お竜さん。この女優さん達の大活躍があったと思うのです。特に、幾島さんは女優・松坂慶子の清楚可憐そして妖艶の過去をまざまざと覚えている故に、その「女優魂」に感動を味わいつくしました。先週でしたか、西郷さんに幾島が「天は徳川を滅ぼせと、申したのですか!」と詰め寄った姿は絶品でした。根性ありますねぇ。

 ひと言でいいますと、天璋院篤姫はチャングム(注)だったのです。いや、チャングムとは篤姫だったのでしょう。以前、韓流のチャングムが大人気でした。私も延々と見続けていましたが、今になって気がついたのです。韓流も日流も、女性主人公の気質では違いがなかったと思いました。今夜は、自分一人で納得したのです。
 チャングムは、篤姫の先取りだった、と。

注:「チャングムの誓い」韓国製のTVドラマでした。チャングムという女性が料理や医術に独特の才能をあらわし、16世紀の朝鮮王朝で、女性として「智慧と勇気と技術」とで、大活躍した物語でした。

大奥撤退作戦
 天璋院は、大奥の最後をみとるために、大奥が呼び寄せた女性だった、と大奥年寄・滝山のセリフが印象に残りました。どんなことでも、特に終戦時などは、幕引き・撤収作戦が一番難しいものです。16歳から大奥につくし、1000人の女性たちを管理してきた、頭のよい滝山だからこそ、篤姫の底知れない統率力、人心掌握力に感動し、涙を流したのだと思いました。
 組織が解体し、それぞれがそれぞれに新しい道を見付けるのは至難の技なのです。おそらく基本方針を常に篤姫が掌握し、根性のすわった聡明な大奥女官僚たちを指揮し、乱れることなく、粛々と大奥の扉を閉めたのだと想像できました。

 天璋院達の去った翌日、進駐軍の薩摩武士が大奥の座敷に添えられた「華」を見て、感動します。私は、この幕切れがよかったですね。つまり、あえて日本のと言い添えた上で、これが文明・文化だと思ったのです。
 天璋院篤姫からの気持ちを想像するならば、
「我らは、潔く大奥を閉じる。しかし、大切にしてきたものだから、諸君もこの華を見て、我らの気持ちを受け取ってもらいたい。我らは、敗残の烏合の衆ではなく、ただ、ここを立ち去るだけなのだ。見られよ、大奥とは斯様な文化を持った所だったのだ」
 それを見た進駐軍に文化はあったのでしょうか。あったからこそ、「美しい」と漏らしたのです。天璋院篤姫の撤収作戦の勝利でした。敵味方、落ち着き、余裕があったからこそ、「文明・文化」を味わうことができたのでしょう。そして、それを真っ先に行ったのが、天璋院だったことに、今年のNHK篤姫の華が咲きました。

 もう一つの別れ。
 一橋家の屋敷に「居候」している篤姫を、小松帯刀が訪れました。十代の頃の想い出が長く尾を引く別れの碁がありました。年間通して、篤姫と尚五郎さんは節目節目で、碁で結ばれていましたね。友情や男女の思いと、一杯ありましたが、私は「この碁が最後」だと印象を受けました。おそらく、帯刀は足の病で遠からず身罷るのだと思いました。大河ドラマは必ず「別れ」がつきものですが、若やいだ青年期から始まって、やがて死んでいくという人生の流れを見るのは、いつも感無量のものです。

ということで来週の最終回
 来週は45分→70分に延長されるようです。
 みんな、画面から消えていくわけですね。しかし、TVだと回想シーンがありますから、昔を思い出しながら、走馬燈を眺める気分で、お別れすることになります。
 「明治」の始め、どんな人生模様の中で、NHK篤姫が終了するのか、楽しみです。

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コメント

篤姫はチャングムでしたか

 毎週、篤姫の解説ありがとうございました。
見ておりませんが、解説をうかがって、おおよそのことは分かったような・・・。

 先々週でしたか、江戸城無血開城の前後の話のところだけは見ました。
この頃のきたおうじきんや(早乙女主水介の息子さん)のファンなのです。
どういう次第でああいう無血革命が実現したのか興味がありましてね。

 そうでしたか、篤姫=チャングムでしたか。
言われると何となくそんな気もしますね。
まわりの野郎どもは優しくて、情けなくて、ドジばかりでね。
これ、母系制のアジア独特のものなのでしょうか。

 野郎がヒゲはやして、をなごはんがヴェールで顔隠しているよりよろしいですなあ。
北東アジアは割と平和な国柄なのですねえ。
気づけば、そこいらに、あちらにも、こちらにも、チャングムのような篤姫のようなのがいてはりますなあ。
おお、コワッ。

投稿: ふうてん | 2008年12月 8日 (月) 02時26分

ふうてんさん
「毎週、篤姫の解説ありがとうございました。」
 これね、来週もまだ残り一回、解説するつもりです。
 そうでしたか、お読みでしたか、感無量(笑)。

 MuBlogの大河ドラマ記事は、人気のあるような無いような、まことにMuには奇妙な体験なのです、……。

 ところで、「篤姫、実はチャングム説」ですが、この一年間何かしら既視感があったのです。
 韓流と日流とは、顔立ちが似通っていますから、画面のなかで日本語で話されると(声優)、衣裳や風俗の違いよりも、話す内容とか、行動に目が行きますから、同じに思えてしまうのです。

 芝居とか演劇とか映画とか小説は、世界共通に一旦「人」を抽象化して、その上で個性を与えているのじゃないでしょうか。
 どれも翻訳のなせる技とも言えますが、たとえばイギリスの史劇、中国製の三国志、日本製の史劇なんかをみていると、それを味わいます。

 具体的には、現代中国様相からは信じられないくらいに、三国志時代の人々の描き方は、情に厚く義理堅く正義を重んじ、拝金主義は悪としてとらえられています。そして、たとえば主人公クラスは「川に落ちた犬を、さらに叩きのめす」というような行動は取りませんね。諸葛孔明さんなんか、中国製DVDでも神様に見えますよ。

 だから、韓流チャングムの奇矯にさえ見える正義感は、篤姫の正義感に通じているように見えたのです。

 ……

 日本独自の天璋院篤姫さまを見続けていて、より佳い言動には、世界共通にものがあると思いました。篤姫は苦労や苦難を工夫して克服していきます。これがチャングムと同じに見えたのです。

投稿: Mu→ふうてん | 2008年12月 8日 (月) 03時31分

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