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2008年11月16日 (日)

ヒストリー・オブ・バイオレンス/デイヴィッド・クローネンバーグ監督(映画)

 クローネンバーグ監督作品は以前に数作観た程度だ。わけのわからない奇妙な物語だったことを覚えている。
 最初はこの作品も、見るつもりは無かったが、件の木幡研・映画博士が一週間の間に3度目を観るというので、ついちょっと観た。
 最初のシーンから、終わりまで、画面に食い入ってしまった。
 私は、最近観たイーストウッドにしろ、デビッド・リンチにしろ、このクローネンバーグ。映画はどうにも欧米のものが肌にあっているのかもしれない(笑)。

 で、このヒストリー・オブ・バイオレンスを、息詰めて見終わったあと、一番感心したのは、終わり方が良かった点だ。空前絶後と記しておこう。見事な着地だった。あとで見るとDVDが90分だったので、短い作品だったが、上映中ずっと息を詰めていたので、これ以上長くなると絶息する。私の映画経験で、これほど優れた「終わり方」は無かったと、言い切れるほどに監督の編集手腕が冴えていた。これを二時間に延ばしたりしたなら、私は2/3にカットした映画を自分で作るだろう。
(クローネンバーグは余程、SF好きなんだと感心した。つまりこういう構成をもってして「SF的な落ち」と、私は考えてきたからである。)

 さて。
 アメリカの田舎町が異星に見えた映像だった。そしてフィラデルフィアへの15時間かけての単独道行きは、宇宙船に乗っている気分だった。私は、こういう「この世離れ」した映画映像がとても好きだ。だから、この映画は、それだけで価値があった言える。

 見どころは、主役の軽食堂店主トム・ストールを演じたヴィゴ・モーテンセンの二役(笑)だった。彼はデンマークの人のようだが、よく見ると指輪物語のアラゴルンで、印象が甦った。今回は二つの「個性」を演じる不思議な役柄だった。
 あえて二役と言ったのは、田舎町の食堂店主ストールと、引き金が引かれたあとの数十秒間・人間最終兵器になった時は、顔や身体がだぶって見えて、同一人には見えなかったからである。相貌や目の光や、そして身体の動きが全く異なる。この「引き金」は、銃を突きつけられたり、暴力的に扱われたり、古巣のフィラデルフィアに戻った時、タイムラグなしで作動し、キリングマシンに変身する。

 日常の中に、穏やかさの中に、気付かないほどの物語構成上の伏線があり、それらがいくつか連鎖反応を起こしていき、臨界点(たとえば、銃口を突きつけられる)を超えると、爆発的に別の人格が表れる。キリングマシンになったときは、ストールが後で過去の自分を悔やむような「殺人快楽」「金銭欲望」などの衝動すら見えず、正確に制御されたロボットとして敵対物を破壊する。その描き方を思い出してみると、クローネンバーグ監督は、モーテンセンに対して、二重人格の双方が互いに「別の自分を悩むこと」を求めず、まったくの異星人ロボットに変化することを求めたような気がした。そしてモーテンセンは、感情を持った人間と、制御されたロボットとを、瞬時に演じ分けた。そういう、監督と俳優の関係を想像して、この映画は、これまでの物とは異なると思ったわけだ。

 ただし、別の情感が残った。
 つまり、徐々に過去が人々の目にふれて、過去の追撃をかわしきれなくなり、それが家族関係の破壊になって表現されること。現在が、過去にじわじわと浸食されていく物語構造に情感を味わい、堪能した。そして、身動きできない、どうにもならない状態のまま、フィラデルフィア(トムの過去)で決着をつけて「父帰る」を果たしたとき、クローネンバーグは乾坤一擲の着地を果たした。

 映像が瞬時に暗転したとき、二重人格の物語すら無に帰った。

追伸
 ストールが「砂漠で過去を殺して、生まれ変わった」というセリフがあったが、砂漠がどういう意味を持っていたのかが分からなかった。ラスベガスなら近所に砂漠があるから、イメージしやすいのだが。フィラデルフィアには兄弟とか兄弟愛が象徴されているから、旧約聖書を意味しているのかなとも思ったが、考えすぎ、思い違いか。

参考
  カゴメのシネマ洞(ヒストリー・オブ・バイオレンス)

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