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2008年11月16日 (日)

NHK篤姫(46)最後の将軍・徳川慶喜

承前:NHK篤姫(45)実家か大奥か

鑑賞前
 今夜は錦旗を前にして、新選組や会津藩を見捨てて敵前逃亡した最後の将軍徳川慶喜さんの出番です。明治になっても天璋院篤姫は慶喜を許さなかったという話を原作で覚えていますが、さてドラマではどう描かれたのでしょう。

 最初に思ったのは、慶喜の出自です。彼は養子に行って一橋慶喜となったわけですが、実は水戸の出身です。御三家水戸と言えば、水戸光圀以来るいるいと大日本史を編纂刊行してきたお家です。いわば、尊皇思想の源流だったわけです。

 幼少期の教育は、烈公と言われた父親水戸斉昭の薫陶もあり、尊皇が身に染みついていたのではないでしょうか。明治以降の話題を目にすると相当な趣味人、知識・知性人だったようなので、秀才だった可能性は高いです。そして、秀才であっても幼少期の影響は長く底流にあり、錦旗を相手に振られたとき、恐怖に近い気持ちがわきあがってしまい、大坂城を死守することも、艦隊を使うことも、新選組や会津を使うことも、すべて頭の中が真っ白になったのだと思います。

 おそらくパニックになり、知性の人であっても禁忌(錦の御旗)の呪術に巻き込まれた結果が、敵前逃亡だったと思いました。系図をみると、朝廷と慶喜は縁戚関係でもあり、いろいろ忖度すると、しかたなかったとも言えましょう。

(たとえば、室町幕府開府の足利尊氏は、後醍醐天皇を攻めるたびに強鬱になって引きこもった形跡があります。北朝をバックにする工夫の結果、朝敵という概念は無くなるわけですが、後醍醐天皇の冥福を祈って天龍寺を作ったくらいですから、源家の流れを引く足利氏にとっても、守るべき天皇を討つということは、なまなかなことではなかったはずです)

 対するに天璋院篤姫。
 逃亡帰還した彼にどう対峙したのか。

 ↑と、以上を午後すぐにメモしていたわけですが、今夜のNHK篤姫は、慶喜自身が水戸の出であった故に逃亡したと、勝海舟にもらします。

鑑賞後
 結論からもうしますと、今夜の第46回は、篤姫の聡明さ、英明さ、心の軸の置き場所、すべてにおいて感涙に近いものがありました。徳川から見れば、外様大名の分家の娘、見くびられても当然の「女」だったわけですが、今夜ほどその「女」の強さを味わったのは稀なことでした。

 天璋院は、慶喜に最後にこういう意味のことを伝えました。
<あなたは、聡明な方です。ですから、朝敵となって、戦になって、人々が死に、徳川が滅びていくのが、すべて見えてしまったのです>と。
 その前にはこう言う意味のことも言いました。
<あなたの首を差し出すことで、あなたは潔い死と思うかも知れないが、残されたわたしたちは、主君を殺して家を守ったと、生きる値うちも感じられない余生をおくるのです。その時の徳川は、屍同然です>

 さらに篤姫は慶喜にきっぱり言いました。「生きて、生き恥をさらしなさい」と。

 私は、篤姫を演じた女優のオーラ、威厳をあじわいながらも、同時に誇り高い慶喜のことも考えていました。
 慶喜が軍艦奉行とはいえ、幕臣にすぎない勝海舟に相談したのが伏線の一つでした。この段階で、聡明な慶喜は、勝の人物を把握していたと思います。一旦は謹慎していた勝を奉行に戻したのは慶喜ではなくて、若き家茂でした。しかしその後、慶喜はどこかで勝海舟の力を知ったのだと思います。江戸と大坂の軍艦乗船時だったのでしょうか? 「見える人」だからこそ相談したのでしょう。愚鈍な人なら、一介の勝奉行に相談するようなことはしなかったはずです。

 その勝が「会うべき人は、頼るべき人は、天璋院さまです」と慶喜に言いました。もちろん、慶喜は素直には聞き入れず「何故」と問い返します。天璋院を侮る気持ちが充分にあったわけです。しかし、慶喜は侮りの気持ちをもっていたにも関わらず、天璋院に面会を申し込みます。なぜなのか? やはり腐っても鯛といいましょうか、腐っても聡明である故に事態を把握した慶喜は、藁にすがる気持ちと同じ分、勝の言葉を信じたのだと思います。

 ……。
 と、書き連ねるのは止めておきましょう。「人間」という総称をもった聡明な「女」天璋院篤姫さまのことを、じっくり噛みしめたいとおもったのです。聡明であることを、人を動かす「力」に変えた女性だったのだと思います。

 まとめてみると。
 慶喜さん、あなたは私をあなどっている。しかし、私はあなたを謹慎させ、和宮さんと一緒に朝廷に嘆願書までだして、命かけて守る。理由は、あなたが徳川の家族だからです。
 あなたは、権力者の頂点に立つ将軍として、孤独だったのです。その孤独は、大奥千人の女の頂点に立つ私でも味わったことです。まして天下の上に立つあなたの孤独の苦(にが)さは、他と比較できないものです。
 私は、夫の家定も、息子の家茂も、その孤独に耐えて若く死んだのをそばで見てまいりました。だから、慶喜さん、あなたは生き恥晒してでも、その二人分生き抜いていくべきなのです。

 こういう、スジの通った考えをきっちり表現した天璋院篤姫、そしてそれを演じきった宮崎あおい。そしてそばにいた和宮・静寛院(堀北真希)、さらに慶喜(平岳大)。今夜のこの三人の出合は出色のものでありました。NHK大河ドラマは、結局これだから、見ないわけにはまいりません(笑)。

追伸
 勝海舟は、戦わずして薩長に勝つ方法を、天璋院にすら「ナイショ」と言っていました。無策が最良の策とは、はて、いかなることに来週以降あいなりましょうか。それにしても、あと47、48、40、50回を残すだけになりました。

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