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2008年9月23日 (火)

20世紀少年:本格科学冒険映画 (第一章)/堤幸彦監督、浦沢直樹原作・脚本 (映画)

承前:浦沢直樹の「20世紀少年」は「21世紀少年」で終わったのか

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(写真:同映画のパンフレット表紙)

本格科学冒険映画
 私が深層も表層も合わせて、こころから楽しめるのは、あるいは楽しみたいのは、「本格科学冒険映画」だったのだと気付かされました。幼少時には、鉄人28号やアトムが空を飛び、長ずるにいたっては、光瀬龍(百億の昼と千億の夜)や眉村卓(消滅の光輪、引き潮のとき)の深宇宙にときめき、また啓示空間をながながと飛び続ける無限郷愁号に乗りたくなり、最近は神林長平の雪風パイロットになりたくなり、……。もちろんエジプト古代ピラミッドの遺跡にオーパーツがあって、それに触れたらたちまち異次元空間、宇宙人の乱舞、と。エイリアンやプレデターやターミネータは、まだ人が知らない頃から上映日に通ったもんです、もうトモダチですね。

 好きなんですねぇ。だから自然に、見る映画、読む小説はそういう、世間ではSF、私にとっては心の故郷ハイマート、原型世界に近いものが多かったです。他方、……、なんでミステリィと考え込む時、それは冒険、犯人探しの疑似科学、つまりはSFへと、大きな輪がとじるわけです。ε=┏( ・_・)┛
 少年少女が走り回る、科学冒険映画は特に好きでした。「ヒルコ 妖怪ハンター(沢田研二)」なんかはテープにとってあって、今でも毎年一人で見ています。竹中直人の先生役ってものすご印象深いですよ。この映画、20世紀少年でも、ピエール・一文字という瞬間芸的な強烈な印象をのこした竹中さん、すごいですよぉ~。

最初に結論
 さて、20世紀少年:Twentieth Century Boys、の話でしたね。おもしろかったです。満足
 最初に結論。未見の人へ、将来DVDで見る人へ。
 映画は全部で三部作らしく、私がみたのはその第一章。主人公のケンジが姪(カンナ)を背負ってコンビニを切り盛りしている時代から、悪の巨大ロボットに殴り込みをかけるまでの範囲でした。まだ、本格科学冒険映画にはいたらず、少年少女泥んこ物語の尾を引いています。しかし、悪も善も役者はたいがい出そろっています。あと、超能力美少女カンナの活躍は、二章、三章で楽しむことになります。

 さらに予備結論。
 物語の流れとか、理屈とか、謎とかは、気にしないで見るのが一番ですね。私は、まっさらの気持で映画館に入りました。要するに心のハイマートへの、無限への郷愁にひたるつもりで入ったのです。日曜の朝、そこそこの観客に混じり、見終わった後で階段にいくと、少年少女達が延々と列をつくって入場を待っていました。その列をみて、自分の予期したことや、見終わった後の感想が間違っていなかったと、安心しました。少年少女たちと私の間には、40~50年、つまり半世紀の隔たりがあるのですが、多分、思いは一緒だと感じました。

 世界征服をねらう悪者たちに、正義の少年少女達が立ち上がり、最後はぶんどられた鉄人28号に、成長した青年たちが切り込みをかけ、自爆していく。おお、涙。

付記:鉄人28号が登場するわけじゃないのです。ただ、敷島博士が作ったとほのめかされる変なボロ・ロボットは、これは多分鉄人30号くらいに相当するわけですね、ね、草葉の陰の横山光輝センセ! 私は、金田少年がラジコンロボを操作しているのを、雑誌少年で毎月見ていた男なんです。
付記:記憶では、鉄人シリーズ号は、最初は悪の手先だったようにうっすらと。この映画では、悪の「ともだち」が敷島博士を拉致して、作らせたようです。

登場人物と俳優たち
 丁寧な造りです。
 少年少女たちが遊ぶ原っぱや、コンビニの内部、JK達のサロン(?)ファンシーショップとか、テロリストの烙印を押されたケンジたちが潜む地下鉄改造要塞、ホームレスの住まう橋下の家、ケンジがロックバンドをやっていた頃の派手な「メークと衣裳」写真(これ、絶品でしたよ、唐沢寿明君)、ケンジが根性入れをしたロック演奏のアンプとエレキギター、その音、波動、ああロック! たまりません、Muは実は往年のスティング、好きなんですぅ。ケンジ君はTレックスなんですなぁ。

 細部がてんこ盛りでした。
 つまり、この映画は、細部を楽しむものです。「ともだち」が誰かとか、なんでどこから巨大ロボットが現れたのか、現れる前はどこに潜んでいたのか、巨大トレーラーで運んだのかとか、太陽の塔ロボットは空から飛んできたのか地から湧いてきたのか、とかそういう物語の必然性なんか考えるのは、お馬鹿さん。細部に惚れ込むべき映画なんです。

1.気になる俳優
 田村マサオ役(ARATA): 怖いですね。不気味ですね。こんな人がそばにいたらちびりますねぇ。だれが人選したのか知りませんが、この男が歩いていて突然たちどまり、ギャーと叫んだときは肝が凍りました。実在の旧某邪教集団の信者って、こういう雰囲気の人が多かったですね。
 隣人になるのは避けたいです。
 で、ARATA、知りませんなぁ。有名なかたなのですか? でも既知未知関係なく、すばらしい雰囲気をだしていました。こういう人が悪集団、「ともだち」教団にいないと、悪の佳さが薄まります。迫真の演技でしたよ。

 神様役(中村嘉葎雄): コンビニで、仲間のホームレス達とケンジをおびき寄せるシーンが印象深いです。仲間を指揮して、あたかも弁当をパクル振りをしながら、ケンジを自分達の橋下家に引っ張り込むわけです。この時の集団万引きの息のあった芸が、良かったですよ。
 この神様爺さんは時々予知能力を見せます。生きていたら第二章以降が楽しみです。この映画は、突然人が死ぬので不安です。例によって誰が何故死ぬかなんて、考えたら駄目ですよ。そういう理屈の通る映画じゃないのです。

 万丈目胤舟役(石橋蓮司): ともだち教団の幹部らしいです。禿のロン毛って、それに「目つき」、俳優とはこの世の「人」の性格を極端に表現する者のことだと、再認識しました。セリフなんかまったく覚えていません。なんか、そこにぬわぁと現れただけで、びびりました。

2.男優女優全部気に入った
 パンフレット掲載の、主演級のケンジ(唐沢寿明)、オッチョ(豊川悦司)、ユキジ(常盤貴子)のことは後回しにして、その次のステージにいる、ヨシツネ、マルオ、モンちゃん、ケロヨン、ドンキー(青年)、ヤマネ、フクベエ、キリコ。全部気に入りました。
 強いていえば、ヨシツネ(香川照之)、うむうむ名優です。なんか自信なさそうで、怖がりで、そんな役がぐっときました。ヤマネ(小日向文世)は、同窓会の席から、こそっと襖をあけて退出するシーンがものすごく印象に残りました。

3.最優秀少年賞
 これも、迷いに迷ったあげく、やはり第一印象として、ドンキー少年時代(吉井克斗)を選びました。この少年が青年時代の俳優木戸三郎とそっくりだったことも受賞の要因(笑)ですが、監督の演出力もあったでしょうが、みていて抱腹絶倒、凄いと連発呻き声をだしておりました。
 鼻水たらたらの手拭いを首にまいて、韋駄天(いだてん)のように裸足で自転車をおいかけ「お~い、遊ぼうよ、一緒に」と走り抜け、いつのまにか自転車を追い越してしまう雰囲気が最上でしたね。
 ケンジたちがドンキーにすり寄られて、なんとも言えない、断り切れない、でもキショい少年という、そういう少年時の独特の雰囲気が、これ以上ないほどに再現されて、『この映画の見どころ一番、ドンキー少年の「走りすりすり」』と、決まった次第です。

4.主演助演・男優女優賞
 この映画をみるまでは、なんとなく芸能界をうさんくさく思っていました。少年時代ずっと京都市右京区太秦(今の映画村)近くで、大部屋俳優達のしんどさを見てきたので、あるいは名優たちの裏話をきいてきたので、「男子一生の仕事」じゃないなぁ、と思っていたわけです。

付記:当時、東映、大映、松竹とかの映画スタジオがあって、そこに出入りする俳優女優達の卵が、常時私の家で下宿していたのです。けっこう遊んでもらったし、懐かしいのですが、こましゃくれた「ぼく」は一方で冷淡な目でも見ていたようです。理由は、生活態度が、級長で生真面目な当時の「ぼく」とはかけ離れて見えたからでしょう。そして、少年時にあまりに裏話を聞き過ぎると、正しい評価視点を持てなくなるのかも知れませんなぁ。

 しかし、この映画で私は、もしもエエ男や女に生まれ変わったなら、俳優女優達になりたいと、思ったのです。
 唐沢も豊川も常盤も絶品の人物像を描きつくしておりました。
 ケンジ(唐沢)みたいに、コンビニで姪をお守りしてロックへの郷愁にときどき沈み込む男。なんか得体の知れないエネルギーを秘めたオッチョ(豊川)になって、東南アジアでもどこでも男らしく踏み込んでいける漢になりたい。ユキジ(常盤)みたいな美形で強い女に生まれ変わって、税関公務員しながら、ケンジみたいな男を見付けたらよい人生だなぁ~と、いささか倒錯的な思いに襲われもしたのです。

 限られた生でありとあらゆる人生、人間を演じる俳優とか女優は、すばらしい職業だと思いました。
 だから、この映画は、俳優達を老若男女、大判振る舞い、おもいきり集めてきて、思い切り走らせた、そういう映画なのです。
 よかったです。第二章を心待ちしています。

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