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2008年8月21日 (木)

小説木幡記:2008/08/21(木)鬼面の研究/栗本薫、の感想

Mukimen1
(↑講談社文庫、鬼面の研究/栗本薫)

 お盆休みに読んだ本だが、しばらく感想を書くのをひかえていた。単純な話で、いわゆるネタバレしないように書くのが難しいからだ。

取材で訪ねた秘境・鬼家荘(くがのしょう)。嵐のために外界との連絡を断たれたロケ地で取材班が一人また一人と殺されていく──。鬼の子孫を自称し伝説と因習に生きる住民と、やらせ精神あふれる現代の鬼っ子・テレビ人間の間に起こる連続殺人事件の謎に、名探偵伊集院大介と森カオルの名コンビが挑む傑作長編推理。

 実質290頁ほどの読みやすい分量だった。誰とは申さぬが、現代のキログラム単位の重量級文庫やノベルスと比べると、重さだけでも肩の荷が下りる味わいだな。

九州の秘境
 事件のあった秘境・鬼家荘は岡山でも瀬戸内海でもなくて、九州の山奥になっている。数え方はいろいろあるが、東京から飛行機と自動車とを使って10時間ほどかかり、以前は電気もなかったというのだから、やはり秘境である。
 当時(文庫は昭和56年、つまり1981年頃)は携帯電話がなかったが、飛行機も自動車もあった。山陽新幹線はあったかな?
 九州で「荘」とつくと、すぐに五家荘を思い出すのでさっそくモデル候補地を考えてみた。麓にS町があると書いてあり、村は吊り橋一本でつながっているので、やはり架空の場所かもしれない(爆)。そういえば、「暗黒館の殺人/綾辻行人」も九州の山の中だった。一応、熊本県の山奥の五家荘地図をあげておく。

大きな地図で見る

事件の起きた鬼家荘
 村の規模は50戸前後、総数百数十人。伝承が入り乱れていて、アイヌとか、鬼の末裔とか、いろいろあるが、村人達はときどき解読できない方言を話している。体格も顔立ちも日本人ばなれしている。村長・代表者は久我家といって、三人の男子と一人の女子がいる。村にTVクルーが近づいたときは、久我の当主がなくなったところで、村人達は「入るな、たたりがある」といって、一悶着ある。

 嵐の夜、取材班の一人が死に、吊り橋が切り落とされ、電話線もすべて切られて、鬼家荘は「嵐の山荘」状態になり、そしてまた、一人、一人、無惨な殺され方をしていく~。死霊のたたりか、鬼のたたりか、話は鵺のような闇にどろどろと溶け込み、定かでなくなってくる。はたして一行13人は全員殺害されるのだろうか? そして誰もいなくなったのか?

登場人物
 そうそう、ヒロインの森カオルは、東京で作家をしている20代の女性。秘境番組のナレーターとして村に入った。伊集院大介は、彼女の古い友人で、職業不明、痩せたメガネの男。兄妹のような関係で、一つ部屋に二人で泊まっても間に屏風一枚で、なにもない。あはは。カオルさんは、文章をみていると、伊集院さんの前で、セーターを着たり着替えたりしている。こういう所は、作者栗本薫さんが多分女性なので、女性の視点からは、おかしくないのじゃろう。余がそんな場面を書いたりしたら速攻で、クレームが入る。「ヒロイン佐保は、オジキの目で同性をみるのか!」とな。

 終盤に、「読者への挑戦の研究」があり、それまでの全てのデータから、だれがおどろおどろしい連続猟奇殺人の犯人かを、作者から挑戦している。で、余はまったく分からなかった!
 ただしトリックの一つだけは読めた理解した。カオル嬢が風呂に入っている時、覗き見(笑)されるわけだが、その男が(女がそんなことするかな?)殺されたわけで、犯人のアリバイがどうにも不動で、カオル君は唯一、大介の推理を疑う。で、その当たりのことは、ぴぴーんと分かった。余もまだ衰えていないようでほっとした。

木幡記にした理由
 感想文を書くつもりで読んだ訳じゃなくて、楽しむために古典的名作として読んでみた。だから、ミステリというよりも、ゆったりした読書のために読んだわけ。
 初読だったので、内容案内から「横溝正史さんや、本格推理小説の、パロディーなんかな」と思って読み出したが、意外や意外、想定した道筋は違っていた。余の途中推理は二転三転、覆されて、最後は横溝さんの作品のような終わり方ではなかった。ふむ。

 余は、人物造形としては、伊集院大介君が気に入った。なにかしら、女性からみた理想的なボーイフレンド(いつか恋人)とはこういう男性なんだな、と得心した。内田康夫先生の浅見君ともひと味違っていて、いろいろな探偵さんがいるのだな、と感心した。
 なお、栗本薫さんの作品は、昔、魔界水滸伝を十冊ほど読んで、深く感動した記憶がある。

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