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2008年7月 6日 (日)

日本の美術史/保田與重郎.読書感想(1)

 昨夜、この一ヶ月間手にしてきた『日本の美術史』(新学社の保田與重郎文庫; 18)の巻をおいた。年並み行事として、保田の主要作品を読み継いで、すでに今年は15冊ほどになる。すべて私が10代後期~30代にかけて読んだものなので再読だが、既知のこと、未知のこと、初めて気がついたこと、それぞれ多様な読後感を得た。

 最近では『萬葉集の精神』を2006年に読了し、あらためて保田の特殊性と偉大さに心打たれ、合掌した。
 合掌の意味は、「こういう人が、日本に生まれ、著述し、幾人かの人達が、新たな世界観に直面したに違いない。ありがたいことである」という、感謝からである。

保田の難しさ
 保田の著作を読むことは、どの観点から考えてみても、難しい。その難しさを昨夜考えたので、今朝メモしておく。

1.思想というものが現代は難しい
 殆どの人が、現代の生活に追われて、「物」を考える余力や、気力がない。そして、少なくとも、保田に体現されたような日本に対する思想は、ほとんど誰も教育されていないから、余計に分からなくなる。簡単な事例だが、日本史を公教育で充分に学んでいないと、保田の著作に現れる事項や固有名は、ただの無機質なコード、難読漢字でしかない。
 難読漢字の意味として、単純に読み方が分からないという一般論を超えて、「壬申乱」、「承久乱」という事項の背景が欠如していると、単純な歴史記述は分かっても、そこで止まる。ましてそこにある「思想」は、想像もできなくなる。

2.現代に求められるものは、保田の思想の対極にある
 これも、「保田の思想」が分からなければ説明しがたいことだが、列挙で記すと多少分かりやすくなる。

 保田は現代の世界規模での経済原則、実利志向、拝金主義を認めていない。
 保田は、日本の歴史を階級闘争とか唯物論とか、古代日本は奴隷制であった、と言うような考えを認めていない。
 保田は、個人主義、個人の特権的悦楽や、場合によっては個人の「悟り」を認めていない。
 保田は、過去の、万世一系の皇室の存在に日本の「核」を認める。
 保田は、天皇とは現世に関して、無所有であり、財産はないと断言する。
 保田は、朝廷のくらしが民衆の憧れであり、都の風儀が各地に伝わり、今も生きている、と言う。
 保田は、鎌倉政権(北条執権)と、それに付随した禅宗を認めていない。
 保田は、古神道と、浄土思想、浄土観を認めるが、吉田神道や現代神道を認めていない。
 保田は、世阿弥は認めるが、特に徳川時代以降、現代の能楽を認めていない。
 保田は、修学院離宮は認めるが、桂離宮を認めていない。しかし日光東照宮は認める。
 保田は、利休による茶道、その継承としての現代家元制度を認めていない。煎茶道は認めている。
 保田は、現代常識に溶け込んでしまった、西欧の物の考え方を認めていない。
 保田は、現代の政治、経済、日常生活の多くについて、認めていない。

 と、思いつくままに列挙したが、その幾つかは現代の常識に反する内容であって、それを「何故」と咀嚼するのは難しい。現代の常識を疑い、解体することから、保田解読が始まる。

3.万巻の書を読み、万里の道を行く
 保田は博学で、その上、必要なことは自ら身体を動かして、現地を歩いたことがわかる。それが現代の現象に対してだけでなく、縄文時代から現代まで、余すところ無く描かれ、そして血肉になった筆致である。

 『日本の文學史』と『日本の美術史』とを数年の間にまとめ上梓できる人は、それほどいない。それを空疎な理論や列挙に終わらせていないのは、生身の保田が万巻の書を読み、万里の道を歩いた故だろう。

まとめ1
 旧字旧仮名で記された保田の文章は、用例も難しく、基本教養の異なりから、現代一般人が読解するには難渋する。しかし、そういう表層事とは違った難しさが控えている。
 そしてその一々は、現代常識を一歩越えたところで、納得、理解できる所がある。
 それが、どうしてなのかを、今夏も考えてみたい。

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