二階建て図書館列車考(5-1)列車篇:嵯峨野トロッコ列車
承前:二階建て図書館列車考(4)Maxとき、上越新幹線(E1系新塗装)
承前:佐野藤右衛門邸の桜:20080330
承前:嵯峨野トロッコ列車の鉄橋渡り
0.はじめに
今回は京都市右京区嵯峨から、嵯峨野、保津峡をへて亀岡市に通じる観光列車「嵯峨野トロッコ列車」について考えてみます。実車はその間の7キロ強を時速25キロで走り片道25分間で亀岡に着きます。もとより表題の「二階建て」ではないのですが、二階建て図書館列車考(2)に記した大歩危トロッコ号と同じく、開放的な閲覧室を持った図書館列車を考える場合、見過ごすことはできません。つまり、「二階建てトロッコ図書館列車」の原型となる鉄道列車なのです。
話は前後しますが、この嵯峨野トロッコ列車に乗車の後で、佐野籐右衛門邸の桜を堪能しました。2008年3月30(日)のトロッコ沿線はまだ桜が咲いていなくて、「桜狩」については地元の広沢池にもどって堪能したのです。保津川あたりは山中ですので、今年のトロッコ沿線桜は4月に入ってからの土日頃、満開になったと後日ニュースで知りました。移動と静止を兼ねた図書館列車に「桜」は必須ではないのですが、利用者の関心をひく「季節感のある図書館列車」をイメージするには、大切な環境です。
当日の午前、 「嵯峨野鉄道図書館ジオラマ」コンセプトに興味を持つ司書系社会人三名が(2003年次の葛野図書倶楽部2001ご隠居)、葛野の研究室を訪れてくれました。さっそく、第一期完成間近のジオラマのある通称「屯所」に招き、説明を兼ねて運転のお披露目をしました。その後、トロッコ嵯峨駅に行き、約1時間程度、駅構内と周辺にある実車や模型を確認し、列車の到着とともに、晴れた日にしか乗れない「ザ・リッチ号」に乗車した次第です。当記事(5)は(5-1)として「列車篇」、後日の(5-2)を「乗車篇」として構成しました。
1.トロッコ嵯峨駅
トロッコ嵯峨駅は「嵯峨野観光鉄道株式会社」の経営する駅です。隣がJR嵯峨嵐山駅になりますが、これは当日改装工事中でした。ややこしいですが、もともとはこのJR前身駅が「国鉄 嵯峨駅」だったのです。そしてトロッコ列車は西に1キロほど離れたトロッコ嵐山駅までは、このJR山陰線を走っています。
駅前と、隣の19世紀ホールには蒸気機関車が並んでいました。残念ながら私はまだ本格「鉄ちゃん」ではないので、頬ずりしたわけではなく、ざっと眺めただけでした。今は、二階建て列車とトロッコ列車以外には気を惹かれないようです。ただ、ホールの中には往年の蒸気機関車が数台並べてありましたから、好きな人にはこたえられない聖地かもしれません。
トロッコ嵯峨駅(地図)
(京都府京都市右京区嵯峨天龍寺車道町)
2.「人車」と「トロッコ」の由来
人車もトロッコも写真に説明を引用しておきましたので、クリックしてください。
もともとはトロッコの事で頭を一杯にして19世紀ホールやトロッコ嵯峨駅を見て回ったのですが、「人車」に唖然としました。人力車はよく耳にするし実際に嵐山では今でも観光用に走っています。清水寺でも走っていますね。しかしトロッコに屋根と座席を付けた「人車」を目の当たりにしたのは初めてでした。言葉で聞いたことと実際に見るのとでは、違いが大きいです。
これならわが嵯峨野鉄道図書館列車も簡便に運行出来そうですが、しかし、するとこれからの司書は一に体力、二に体力、三、四がなくて、五に脚力となりますね。
トロッコの原型は、駅のトロッコ列車模型の後ろにありました。これは説明の要もなく、写真を見れば分かりますね。私も幼少期は、父の差配する山奥の工事現場でよく見かけました。ただし、丸太を立ててそれをブレーキ代わりにしたり、長い山道をウィンチで引っ張り上げたりと、なにかしら「ただの人力トロッコ」だけでない豊かなイメージが残っています。それと、この写真のような小綺麗な船底ではなくて、もっとぶっきらぼうで、板が古くて破れていたような、台車だけのような、そんな記憶も片隅にあります。
以下にお見せする嵯峨野トロッコ列車模型では、客車がすべて無蓋車のトキ25000を原型にしているとのことです。無蓋車はトロッコの少し進化したようなものですから、やはり「観光トロッコ列車」と呼んでも、単なるファッションじゃないわけです。つまり、荷物の代わりにヒトを運ぶ実用性ですね(笑)。
3.模型:嵯峨野トロッコ列車編成
編成全体
SK200-1・1号車(前面)
☆
諸元は写真の解説に載せましたので、クリックして御覧下さい。
概略は1/20の縮尺ですから、おそらくGゲージと呼ばれる規格に近いものだと思います。外国製に多いGゲージならば、以前間近で眺めたり、さわりもしましたし、ビデオや写真にもとった経験があります(森博嗣邸)。これだけの大きさですと、細部の作り込みも相当に精密で、見飽きませんでした。
なお、写真には機関車を入れて4両編成になっていますが、実車は6両で走っておりました。
注:下記の模型写真は、一段目横に4枚の写真をならべ、二段目にも4枚が並んだとき、上下関係で各列車の「全体」と「拡大部分」が分かるようになっています。ブラウザの窓を全開するか、幅を大きくとって御覧下さい。
4.模型段階でのトロッコ列車考
それでは実車に乗る前に、この「さんけい」製作の模型を眺めながら、「図書館」と「トロッコ列車」について考察してみます。
4.1.牽引車がDE10というディーゼル機関車になっています。
蒸気機関車の方が風情はでると思いますが、メンテナンスや煤煙を考えると、特に煤煙は開放性を目的としたトロッコ列車の場合、トンネル内では無理があると想像できます。他方電気機関車とか電車形式ですと、架線の維持も大変ですが、二階建て部分を開放することへの危惧があります。図書館列車利用者にとっては、頭上近くに架線があって、パンタグラフやポールから火花を散らしているのを間近に見るのは、現実的ではありません。
4.2.進行方向について。
嵯峨野トロッコ列車は、模型に示された編成(実際は6両)だけで運行しているようです。つまり代車が無いわけですね。トロッコ亀岡に到着すると、代わりの列車が嵯峨野に帰ってくるのではなくて、到着列車がそのまま戻るわけです。その間、DE10が向きを変える訳ではないのです。もともと、DE10は亀岡に向かうとき、バックから押してトロッコを動かすことになっています。
つまり、トロッコ列車のような比較的簡便な鉄道では、編成全体の索引車の位置が定まっていることに気付きました。復路はDE10が先頭になって普通ですが、往路は索引車が後ろから押す形式になります。
そこで、上記の写真「SK200-1・1号車(前面)」を御覧下さい。運転席が見えます。しかしこの1号車に動力が有るわけではないのです。この写真で最後部に見えるDE10の動力や制動の制御をこの運転席からおこなっているわけです。これは四国を走っている、二階建て図書館列車考(2)に記した大歩危トロッコ号も、そのようです。
図書館列車そのもののコンセプトとは多少外れた説明になりましたが、トロッコ列車のような簡便な列車運行の場合は、こういう「列車進行方向」に関する工夫が必要なのだと実感した次第です。メンテナンスを考えると、往年の国鉄で、ばかでかい蒸気機関車が方向を変えていた作業は、相当に大変な事だったのだと、今頃になって気付きました。
4.3.開放性の高い「ザ・リッチ 5号車」
上記の写真でディーゼル機関車の後ろに接続された「SK300-1ザ・リッチ 5号車」を御覧ください。当日この列車の進行方向に向かって右側の席に座りました。この列車が白眉と言えます。天井だけが透明なガラスかアクリル製で、あとはすべて吹きさらしなのです。実は、座席の下も簀の子になっていて、レールや、鉄橋通過時には川面が見えるのです。さすがにここまで大胆ですと、雨中の際には乗車できない、というのか、レインコートを着ないと座っていられないと思います。
しかし、わが「嵯峨野鉄道図書館」にとってはこれこそ「二階建てトロッコ図書館列車」の原型だと思いました。開放感です。引き込み線のある好きなところで長時間停車して、木漏れ日の中で読書するという悦楽を提供できる可能性が、この模型を眺めていてひしひしと感じ取れました。
まとめ:トロッコ列車の長所と短所
この項は次号の実車「乗車篇」でまとめてみます。しかし、予習項目だけは記しておきます。
図書館列車としての長所
解(開)放感、自由感、展望感、読書空間の拡大
図書館列車としての短所
全天候型ではない、運行時の騒音、運行時の若年者安全対策
どのようなことでも、良い点や悪い点があるものです。悪い点に気付かずに放置すると、現実から手強いしっぺ返しをうけます。しかし悪い点は直す方向だけでなく、悪い点を別の新たな良い点として、とらえ直すことも必要です。というのは、「悪い」は悪いことにおいて、その特性と考えられる潜在的な機能を持っているからです。
参考サイト (注:後ろの二つは、ほぼ同一記事ですが、公開方法に違いがあるようです)
嵯峨野トロッコ列車(嵯峨野観光鉄道)
古建築模型製作の「さんけい」
週刊☆嵯峨野トロッコ列車模型制作記
嵯峨野トロッコ列車模型制作記:1/20 精巧鉄道模型にチャレンジ!
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