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2008年2月10日 (日)

NHK篤姫(06)薩摩の話:島津本家の姫

承前:NHK篤姫(05)薩摩の話:養女とジョン万次郎

 今夜は正直なところ、事前には流し観するつもりだった。新聞評なんかを見ても、斉彬(なりあきら)が篤姫を気に入ったのが「母に似ているから」と読んで、「う~ん、もういいよ」と思ってしまった。私にも母はいたし、大事に思ってきたが、母に似ているからという感情で異性を観た記憶がないので、「幼くして母をなくした」という世間の感覚が分かりずらい面もあるし(母を亡くしたのは、Muは50代だった)、男性すべてがマザコンというのも神話だと思っていた。事実はきっと新しい母を得たというのが、多くの男性諸氏の気持ちかもしれない(なんとも、差し障りの多い、難しい話です(笑))
 ところが、やはりNHK大河ドラマですね。やはりついつい魅入ってしまって、あっという間に終了でした。

見どころ:養女の条件
 斉彬は篤姫に、「君は二心ない女だ。つまり、素直に、自分の人生を自分で納得して選ぶ女だ。気に入った」
 ふむふむ。
 「余が江戸でなんと言われているか、知っているか? つまりな、斉彬は腹の底を見せぬ男と言われている」
 長きにわたり父との確執があり、子供を六人も亡くし、真意や企図は周りに話せる相手がいなかった。つい最近は弟の離反さえも受け入れざるを得なかった。
 そんな時、二心ない姫がどれほど、心休まることか。
 そうか、周りは二心あるかもしれない者達で、ふと気が弱まると疑心暗鬼にとりこまれそうな状況だったのだ。
 ならば、篤姫のような性格の「人」がそばにいるのは、心強いだろうな、とMuも納得。ここで篤姫のような女とは言わない。「人」だ。

 「余の母は元服後数年でなくなったが、性格が君と似ていた、それが気に入ったのだ」
 「?」
 「風変わりな母だった。輿入れの時に書物を沢山持参した」
 日本外史を好む、篤姫に似ている。
 「鎧兜まで持ってきた」
 あはっは、ぶっとんだ剽軽さは篤姫にそっくり。
 斉彬を乳母に任せず、自分の手で育てた風変わりな母への愛情にあふれた場面だった。
 このあたりで、なんとなく、養女というか、身近な歯に衣着せない篤姫を相談相手に選んだ斉彬の気持ちに同感してしまっていた。

見どころ:養育係・菊本(佐々木すみ江)の死
 菊本の死は篤姫を手放す喪失感からだろうか。「女は生まれた家では死ねない」と篤姫を諭した言葉は重く響いた。そのあとしばらくして、今和泉島津という「よその家」で菊本は自死した。
 現代でも一般に男女が独立して家庭を持っても、男の方が実家を引きずる。まして跡取り長男だと、独立というよりも実家そのものに化身する。その点、女は四季折々に実家に里帰りする程度で、姓も変わることが殆どで、自分の生まれ育った家では死ねないことが多い。

 平安時代の貴族だと、通い婚というか、男が女の実家に時々訪れる。子供が出来ても女の実家で育てるようだ。だが、庶民はどうだったのだろう。おそらく圧倒的に嫁入り形式だったと思う。

 菊本にとっては、「女」とは、他家に嫁いだら戻るべきではなく、他家を自家にする定めという考えのようだ。確かに後世、篤姫は薩摩よりも徳川を選んだことになる。嫁ぎ先が傾いても、実家には戻らなかった。その伏線として、菊本の自死があったのかもしれない。

 もう少し考えてみたい。
 自家の総帥が決まったなら、それ以外で他家に入ったものは、戻る先は無い。そういう、ある意味では合理的な社会風習、制度なのかもしれない。もしも、名家があって、そこを長女が引き継いだ場合、他家に養子に行った弟が、養家と悶着を起こして姉の支配する自家に戻ったなら、自家内での独立は制限されるだろう。つまり、家を出た弟には、もう戻る家はない。もし出戻り弟が「わしゃ、男じゃから、姉ちゃんの支配はうけん」と言い出したら、混乱する。

見どころ:肝付尚五郎の悲嘆
 これは仕方ない。男子は、好いた女子が高家に嫁いだり、殿のお手つきになったら、諦めるよりしかたない。理由は、好いた惚れたのという自由に関係なく、男女がひっつくのは、男子から見ればなんらかの略奪婚(他家の娘という意味)だから、社会制度的に略奪できない相手に略奪されたら、男子は泣き寝入りしかない。
 篤姫の場合は、別階級に「養女」という形式で略奪されたことになる。

 どんなにきれい事を並べても、人間社会は精密な弱肉強食なのだろう。力ある者が必要なものを手にする。その力とは、金か、家柄などの名誉か、頭か、腕力か、才能か、美貌か、いろいろあるだろう。つまるところ、物事は、まして男女のことは、取ったもの勝ちなのだ。ゆめゆめ、この真実を忘れてはならない。
 その空隙を埋めるものが、また「文化」としてある。
 それを全部含めて、文明だと考えた。

課外授業:養女と養子
 私の先輩に、子だくさんな上司がいた。で、何人も年令が相前後していたので、うかがった。と言っても「お育てになるの、大変だったでしょうね?」と、それだけだった。仕事が終わって、茶を御馳走になって話し相手をしていたときだった。(Muを話し相手に選ぶ人もおるのだから、この世の多様性は素晴らしい!)
 「それでな、実はMu君、全部養子なんだよ」
 「え?」すぐに分からなかった。
 「うん、家内も子供好きだったから、戦後、戦災孤児がたくさんおってな。その子らを次から次に、養子にしたんだ」
 「う~っつ」
 つまり、よく聞いてみたら、実子はいなかったらしい。そこで思った。例の、生みの親よりも育ての親。上司にとっては、血縁関係というのは、遠い遠い問題だったのだろう。子を預かって養子縁組をして、我が子として何人も育てた。それぞれが、自立していった。笑顔の中に、屈託はなかった。

 現代の法律では、養子とは実子扱い、実子同等のようだ。逆に、養家のことに、実両親の権限はおよばないとのこと。実両親(生み親)という存在は無くなるのだろうか(法律問題は、素人が関与しにくいですね)。

 映画「男たちの大和」だったと記憶にある。戦艦大和の沈んだ海域「北緯30度43分・東経128度4分」に旅した女性は、亡き父の気持ちを果たせたと行って、父の「骨」を鎮め海を見る。
 父親は、海軍士官として無事生還したが、沈んだ大和のこと、海の藻屑となっていった仲間達のことを忘れられなかった。それを理解できなかった娘だが、父の死によって初めて気持を得心し、大和の眠る東シナ海に行く。
 亡き父は、実は養父だった。戦災孤児を何人も育てた人だった。娘はつまり養女だった。

 現実の話と、映画の話がMuの頭の中で融けていった。
 実は「小見出し」を付けたときは、歴史的な養子縁組のことを勉強しようとしたのだが、実に複雑なので音をあげた。昔の日本では、基本的に「家」を継ぐという観点が強かった。それくらいしか分からない、というよりも一杯あってまとめられない。現代は、家督相続だけの時代とはだいぶ異なり、様々な事例があるようだ。

 そう言えば江戸時代の、吉良上野介(きらこうずけのすけ)の息子が、上杉家に養子に入って、名門ガクトじゃなかった、謙信由来の上杉家を継いだ。だから、四十七士が吉良家に討ち入りしたとき、実子がどう対応するか、見せ場になったわけだ。もちろん、上杉家は断じて吉良家助勢に向かわなかった。実子の気持は分からないが、上杉「家」を断絶させるような行為は出来なかったのだろうと、推測。
 上杉家が吉良の長男を迎えたのは、「末期養子(まつごようし)」というらしい。つまり、上杉家当主が跡継ぎのないまま亡くなった。その間髪を入れず、名門吉良(足利系)から男子を迎え、それを徳川幕府は認めたわけだ。

 養子、養女、気にはなるが、篤姫はさらに近衛家の養子(猶子)になるのだから、先はまだあります。

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コメント

菊本さんの自害

 衝撃的な出来事でしたね。理解が出来ないですね。

小説ですから、架空の人なんでしょうが何故このような場面が必要だったのか、理解が出来ない。

 薩摩という実利主義の国に於いて、あり得る話なんだろうか。遺言があるらしいが、作家の意図は何処にあるんでしょうね。

 篤姫はその後、幕府に於いて苦難の道を歩むわけですが、菊本の自害は必要な設定だったのだろうか。テレビの篤姫特番によると、その後、一度も篤姫は故郷に帰ることは無かったそうだ。

明治になり、大奥の人々の就職の世話をして死ぬときには小銭しか残っていなかったという話は聞きました。

 薩摩の女性とは如何なる人々だったんでしょうね。

投稿: jo | 2008年2月12日 (火) 10時27分

Joさん
 菊本さんの自死は、ドラマの解釈をMu流にはこう考えているのです。(原作は別途深く読み直さないとわかりません)

1.ドラマでは伏線として、菊本の物忘れ、心この地に無し、立っていられないという演技がなされています。
 これは、精神的な一種の鬱を表しているように思いました。喪失鬱ですね。
 篤姫の、おそらく乳母だったのでしょうか、あるいは育ての親の雰囲気でした。
 だから気持ちの上では、尚五郎さんが茫然自失、その後、号泣するのと同じだと思います。
 自死は号泣の内への涙なんでしょう。

2.ドラマでは、菊本は当時の女性道を説く人でした。一本道とか、戻ってはいけませんとか、規範をそのまま言動に表す人でした。
 だから、菊本は二度と篤姫の受け皿になってはいかぬ、という規範に縛られたのではないでしょうか。
 規範を破ることなく、悲しみを悲しみとして表現するに、自死を選んだのでしょう。

3.そして、今和泉家での立場の喪失を、規範的に考えると、そこに居る場所も無くなったわけですね。しかし菊本は戻る地がなかったのじゃないでしょうか。

 以上の諸点から考えると、Joさん、Muなんかは、あっぱれとは言いませんが、そういう道を貫いた人だったんだ、と納得できました。己が信念に殉じたわけでしょうね。

 以上です。

投稿: Mu→Jo | 2008年2月12日 (火) 16時45分

私などつい現実的に考えてしまうので、
ご奉公しているお屋敷の中で自害しちゃ駄目駄目~って思ってしまいます。
だって、その後そのお部屋は使いづらくなってしまうし、
私がお屋敷に奉公している女中のひとりなら、
夜、そのお部屋の前を通るのも怖くなってしまいますもん。

於一さんだって、自分のせいかも、と
罪の意識を覚えてしまうかもしれないし。

どうも今回の脚本には納得できないですw・・・・

投稿: 伽羅 | 2008年2月12日 (火) 19時12分

まいど、伽羅さん
 脚本にご不満のようですね。困りましたねぇ。

 江戸時代(幕末頃)の、武家の作法について考える必要がでてきましたな。

 上級武士は、ごくまれに切腹を申し使わされた場合、屋敷内の部屋で執り行うようです。
 その場合、後で畳なんかはすべて新調するようですね。
 庭先(地面)で切腹するのは罪人で、激しい扱いの場合でしょうね。

 婦人の自刃となると、そういう事例がどれほどあったのか、想像もつきません。
 多分、地面で自刃するのは、罪人という雰囲気が濃厚だったかもしれませんね。
 菊本さんは、実家がなかったか遠かったのでしょう。

……
 菊本さんの死は、現代人には不可解とでも、しておきましょうか。原作が、自死なのだから、脚本もそれを変えるまでには至らなかったのだと思います。

投稿: Mu→伽羅 | 2008年2月13日 (水) 07時29分

はじめまして(^_^)。
養子制度、親権は無くなるんでしょうけど、実親を扶養する義務や、実親の財産(もちろん負債も)を相続する権利は子供に課せられます。

また、実親と縁を切れるらしい特別養子制度は、対象となる子が、養父母になつきやすい低年齢に限られるとの事。

子供を虐待するような実親だと、子供はつらそうです。

投稿: 平良 | 2008年2月14日 (木) 16時58分

はじめまして、平良さん

 なかなか複雑ですね。
 Muは、コメントいただいた「特別養子制度」を、現代の普通の養子制度と思いこんでいたようです。

 虐待と実親。問題が大きいですね。
 コメントいただいて、なにかと想像がまた膨らみましたが、法律や、そして実際に養子縁組をなさっている方は多いだろうから、不見識なことは言えないと思いました。

 素人として、物語の中の話として今後も言及していくつもりです。
 ありがとう御座いました。

投稿: Mu→平良 | 2008年2月14日 (木) 19時57分

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