小説木幡記:2008/02/13(水)小説のディフォルメ
第一の小説
朝、ホームに立った。正三角形が二つ、私を睨み付けた。その単純さが私を笑っているようで、いつものように神経に障った。消防電車の紋所と聞いていた。
列車を何本もやり過ごし、待っていたのは、新しい消防列車だった。膨れきった列車には水が満載され、上の曲面ガラスを破って消防士が火災列車に水を飛ばすらしい。
これに乗るのが楽しみなんだ。
隊長に頼んで列車に便乗し、1日走ったら終点の消防隊駅は夜だった。
駅前に消防本部の、放水銃をかたどった塔が見えた。町のシンボルだ。
その近くのイタリアン・レストランに私の勤め先があった。
20代の若い女達だった。今夜も威勢良くワインの利き酒をしながら待ってくれていた。彼女たちは調理人見習いで、私はそこそこ名の知れたシェフだった。
↑解題: 昨日職場で職員さん達の指示にしたがって、防災訓練をした。体力と知力を使いすぎて、脳に痕跡が残ってしまった。その結果、作品は徹頭徹尾「消防隊」で埋め尽くされてしまった。
そういうものなんだ。
そうそう、夜は京都駅前ルネッサンスビルで職場の(送迎)懇親会があって、イタリアンをいただいた。若手をまとめて記念写真に撮った。歌のお姉さん、古墳博士、教え子A子、B子、C子、謎の職員。その他の人は視界にはいらなかったわけではない。カメラの視野がせまかったに過ぎない。
第二の小説
同行の学生達はワインに酔いしれていた。隙をついて睡眠薬を発泡ワインにいれて、眠りこけたの確かめて、そっと席を立った。店のマスターには、チップをはずんで後の段取りを頼んでおいた。
外に出て見上げると、巨大な灯明が闇天にとどき、私の前途を浄化してくれていた。
ともかく肝をすえて、下のホテルで一泊した。賽は投げられたのだ、慌ててもしかたない。
翌朝、すがすがしい気分で国際汎欧州長距離列車に乗り込み、Rデン市を後にした。
ふと座席の足元を見ると、前途を祝する巨大な三角形紋所が見えたので、にたりとした。このマークこそが、私の密かに属する国際シンジケート「ダブルデッカー・トライアングル」とは、だれも気がつかないだろう。
残してきた学生達は不憫だが、組織の方針が変わったのだから仕方ない。今は私だけ脱出するのが最良の策と、一昨日本国から入電があった。
今頃は目が覚めて、中東に搬送され、それぞれの家で、新しい生活に気持を切り替えたはずだ。
ボンボヤージ、さらば学生達よ。
↑解題: 昨夜の懇親会でノンアルコールのカシスソーダを飲んでいたら、余もいつかは国際謀略小説を書いてみたいと思った。しかし、どういう謀略なのかは、最初に飲んだスパークワインで脳がとろけ、まったく思いつかなかった。しかたないので、枠組みだけをメモしておいた。「学生」達にしては、しっかりしすぎの職員さんたちだから、そのうちしかるべき立場を考えなければならない。全員、スパイ幹部候補生にして、主人公はRデン市の表向きは助役くらいにしてもよかろう。
と、第一、第二と考えてみたが、日曜作家の考えることって、ものすごく「意外性のない、日常」にいろどられているなぁ、と思った。
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コメント
卒業式、謝恩会の季節が近づきましたか
学校の先生にとっても生徒さんにとっても生徒候補の人たちにとっても一年の大詰めのシーズンのようですね。
本人が忘れたころ子供たちがそういうシーズンを迎え、それも忘れたころ孫たちがまたそういうシーズンを迎える・・・。
二階建て図書館列車は本決まりのようでまことに慶賀の至りです。
二階建てというのは普通の列車と違って、食堂車とか展望車とか、要するにただ移動するためだけの手段ではない、という趣があって、図書館列車にはふさわしいのではなかろうかと思われます。
池波正太郎の部屋だけじゃなくアガサ・クリスティの部屋もあっていいなあ、などと夢想しつつ、グーグルにオリエント急行なんて聴いてしまいました。
ありゃあ異常に(食堂車)に入れ込んだ列車が多い鉄道だったようですね。
詳細な写真入りでメニューが紹介されていたりしてビックラこきましたです。
ついでに申し上げますと、とろとろ走る二階建て無蓋車の二階で木漏れ日の中、そよ風になぶられつつ堀辰雄の(風立ちぬ)を読んでみたいような気もします。
投稿: ふうてん | 2008年2月13日 (水) 20時42分
ふうてんさん
大兄がコメントを下さるたびに、「二階建て図書館列車考」は変化していきそうで、先が思いやられます。
憧れのパリ→イスタンブール、オリエント急行を見ましたら、本国のカシオペアも真っ青!
http://www.orient-express.co.jp/trains/vsoe/plan_07.html
6日間かけて、じっくりヨーロッパを走るわけですが、お値段が一人あたり935000円。追加一人が387000円となるようですね。相棒と一週間乗ると130数万円。一日当たり、20万円強お足が必要な。
これじゃ気楽に汎欧州国際謀略小説の下見に行くわけにはまいりません。
もちろん写真が凝っているせいもありましょうが、まるで明治村で見た明治大帝の御料車と、少しひけをとるくらいで、Muには充分格式に応えてくれる車両です。
これこそ、究極の図書館列車と思いました。
(二階建ては、探しましたが、みつかりませんでしたよ)
しかし、この雰囲気を嵯峨野鉄道図書館列車に再現させるとなると、10年間工作老人になりきる必要がありそうです。
ところが、探せばあるものですね。
↓「オリエント急行」
http://www.geocities.jp/yamatotei/ng_oe.html
いやはや。
ところで、ふうてんさんはもしかしたら「隠れ」昔・鉄男かな? と思いました。「無蓋車」なんて言葉を気楽に使う人はあまりいないでしょう。「有蓋車」とかね。
投稿: Mu→ふうてん | 2008年2月13日 (水) 21時45分