小説葛野記:2007/12/05(水)昭和と卒業生達
1.卒業生A
昨日は午後、卒業生が共同研究室に来ていると電話があって、行ってみた。名前を聞いただけでは数名の同姓がいるので判別できなかったが、顔を見たとたんに一目でわかった。この春から世話になっている秘書の一人が、実は昔(笑)の教え子で、その友人が来る、来る、来るとなんども聞いていたのだが、やっと現れた。
一目で往事を思い出すのは「人」の特異な能力かもしれない。イメージとしては今の方が一皮むけておった。どれくらい古いかというと、まだ葛野図書倶楽部2001もなかった20世紀末の卒業生だから、どうしても記憶自体はセピア色になっているのは、しかたない。
現実の方が鮮やかだ(逆だと、あはは、かなしいもんだ)。
いまどき、子だくさんだった。30前ですでに3人いると。なかなかよい話だった。最初の子は、卒業すぐに生まれたとかなんだとか、秘話も聞いたが、当時余は知らなかった。末っ子がひとり来ていたが、なかなかに、優れた子と一目で判断した。これは、そばにいた秘書も証人になったが、独特の曰く言い難い笑顔を余に見せた。よちよち歩きだから、3歳前後か、2歳なのか、聞き忘れたが、そういう「笑顔」は生まれて始めた見た。握手も握り替えし、余が研究室に戻るときはドアまで、よちよちと歩いて見送ってくれた。
だが、母親がもうしたように、残念ながら余は、その子を将来びっちり指導することはできない。
時間切れだね。
2.卒業生B
その日の夕方、これも少し古い卒業生が来てくれた。以前にメルで余がたのんだことを、ようやく思い出したようだ。どういう人物で、何をしにきたかは、以下に情景を書くだけでおわるとしよう。この件は、来年春まではいろいろ余も世話になるので、いちいち詳細を書くのはめんどうだ(笑)
そのものを仮にM氏としておく。
M氏は、昨夕倶楽部の屯所で余と対面にすわり、余の教材作成を半分やってくれた。余がその場で発砲スチロールの角材に、怪しげな3次元的曲線をフリーハンドで描いて、どこを残す、どこをくりぬくと指示しただけで、M氏は「先生、もっとちいこいカッターナイフはないんですか?」と、文句の一つをたれただけで、十分程度で企画通りの立体型に仕上げてくれた。
その間、余は別の曲線をレールに合わせながら、しこしこ切り抜き、うまく行った時は奇声をあげ、スチロールがぼろぼろになりかけると、ため息をついた。調子が出たときは、30センチほどの長さの曲線を、一気に、クズも出さずに切り抜いたが、だめな部分では変形するくらいにまずりましたな。
M氏に依頼したのは、上面からまさしく薄皮をむくように、約5センチの深さまで穴を掘る作業だった。仕上がりは、余よりも上等だった。
そのあと、嵯峨野鉄道図書館ジオラマのコンセプトを、「昭和の鉄道模型」も事例にしながら、えんえんと演説した。すべて理解してくれた。すばらしい!
(まあ、卒業生、倶楽部ご隠居ならではだね。初見なら、余の崇高な理念を理解できる者は、おらん)
いろいろうかがった。
M氏は、ドールハウスの道を究めだしたようだ。この世界はまったく知らなかったが、鬼気迫る世界だ。
冗談に聞いてみた。
「そのマニアぶり、ぶっとびぶりは、君を1倍速Mにしたら、世間じゃどうなんだ」
「そうですね、ちょっと上手で5倍速M、先生が写真でもみたら卒倒しそうな世界だと、50倍M世界ですね」
と、上には上がおるようだ。
さまざまな、塗料や筆や工程について、ドールハウス世界の蘊蓄から指導を受けた。ご指導代は、チョコレート1箱ですませた(このごろ、忘年会などで、資金繰り悪化でな)
「透明樹脂を使うと、おそらく鉄道ジオラマの川・滝・湖・水・世界が一変するでしょう」
「樹脂粘土の柔らかさ、質感はすばらしいです。これを山の仕上げにつかうと、いいですよ~」
~
ノウハウとは、人から直接聞くと効果が高い。
3.卒業生C
さて、それで週末は超古代卒業生が、風のようにきて、風のようにさっていくという約束がある。遠隔地だからしかたなかろう。
例年、古代卒業生達が葛野研をおとずれ「先生、生きてますかぁ?」というのは、季節ものみたいで、おもしろい。来るときは、一気に大挙して、次々とくる。来なくなると、ゼロ。なんとも、教師稼業はふしぎな経験をする。
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