NHK風林火山(44)影武者が必要な武田信玄(晴信)
承前:NHK風林火山(43)関東管領上杉謙信・信濃守護武田信玄
1.軍師・宇佐美の謀略
勘助が主人公なのだ。だから、主人公の勘助がどのように陰惨な謀略を用いても、見ている者はその陰惨さや悲劇から身をそらしてしまう。もしもそうでなければ、ドラマ自体があまりに暗いものとなり、暗いまま毎週毎週日曜の夜を通夜のまま過ごし、胃を痛める一年間となってしまう。そのようなドラマなら、年間50回も、だれも見なくなるだろう。
しかし、宇佐美が平蔵を刺客(凶器は寅王丸)に仕立てたからには、そういう陰惨さや悲劇を、脇役だからこそ、正攻法として描いてしまう。それが今夜の信玄暗殺だった。
セリフ中、信玄の嫡男義信が勘助を面罵したのが、事の背景を思い出させて気を重くした。
「元はと言えば、山本勘助、そちがこの者(寅王丸)の姉(由布姫)にたぶらかされ、斯様な始末になったのじゃ」
たしかに、そのように見えるであろう。ドラマの事実としては、由布姫は弟が駿河へ出家させられたのを知るのは後日になる。しかし、事の本質は、実は義信が言った通りだとMuは思った。
勘助は、なにがなんでも由布姫を守ることにあった。だから、寅王丸の父、諏訪頼重との約束も、由布姫が自分の息子四郎を、寅王丸の頼りになる側近として育てたいという意志も、すべて投げ捨てて、当時の信玄と謀議を計った結果が、眼前にいる「事実を知って恨みに燃える」寅王丸を招いたわけなのだから。
由布姫に勘助はたぶらかされた。外部の目にはそう写る。
「たぶらかす」という言葉は難しい、由布姫もまた、勘助以外頼る者がなかったのだから、心の奥の奥の半分を、無意識に勘助に見せてしまっていた。勘助はそれに応じた。
分かりやすく言うと、勘助・由布姫の共同謀議の結果が悲劇を招いた。
そして、深いところで、それが事の真相だった。義信は、一見馬鹿若様に見えて、だからこそ勘助の痛いところ、急所中の急所を無意識に突いてしまった。
今夜の謀略は人の心を操る本当の陰惨な謀略だった。だから、事の顛末を箇条書きにしてまとめておく。微妙な所を記すのは、筆が重くなる。
ガクト・景虎:上京中留守
軍師緒形・宇佐美
↓武田信玄謀殺の策を与える
平蔵
↓そそのかす
寅王丸(由布姫の腹違弟)
駿河で出家「長笈」、諏訪家遺児
諏訪頼重は晴信に切腹させられた。
姉の由布姫は晴信から見捨てられ、諏訪に押し込められて死んだ。
↓
寅王丸&平蔵←壽桂尼は甲斐への暗殺行を黙認
↓暗殺の機会
寅王丸は(物語)僧として信玄側室のもとに出入り
内野・勘助は平蔵を問いただす
寅王丸、事件を起こす
勘助は寅王丸を操った壽桂尼を憎悪
2.見どころ
信玄、勘助、二人の坊主頭は違和感なく、以前からこのような姿だったと思わせるくらいに似合っていた。亀さん・信玄のぎょろりとした目、もみあげ、実在の武田信玄その人に感じられた。そして内野さんは、普通の時は、つるんとしたお顔だから、余計に隻眼・僧形が似合っていた。
さて。壽桂尼さん。藤村志保さん。流れるように、人の心理のかゆいところと言うか、押すべきツボを、手際よく言葉で指圧していく、そういう老獪(ろうかい)さがひしひしと胸に伝わった。こういうことを真似をする爺婆をこれまで現実世界でいくたりか見てきたが、下手だね、底意や我意が丸見え。やはり素人は玄人俳優に及ばない。
さりながら。ドラマ最後の、勘助の目だけを大写しした、壽桂尼への怒りについて一言。
たしかに赤子の手をねじるように、寅王丸にあることないことそれらしく、ツボを押さえながら吹き込んだのは、壽桂尼だった。しかし、どうにも壽桂尼は嘘をついていない。解釈を微妙に今川側に偏向させたのはよく分かるが、嘘八百を吹き込んだのではない。
だから。
これは勘助と信玄の油断だったわけだ。今川の寅王丸を失念していたと言って良かろう。そこに越後の宇佐美が目を付けた。宇佐美は平蔵の出現によって、謀略を思いついたわけである。もっとも、ガクト・景虎(謙信)が側にいたなら、ここまで人の心を操る無惨な策略は出せなかったろうが。
結論。
勘助も信玄も勝つために敵への謀略の限りを尽くしてきた。ならば、身内から生じる謀略にもう少しガードを固めておくべきだった。怒った勘助が悪いとはいわないが、自業自得であろう。策士は策に溺れる、遠い時を越えて。
(今夜の謎は、寅王丸は一体誰の紹介で信玄の側室の元へ寄れたのだろうか? Muが見過ごしたのだろうか)
3.影武者
戦国時代は、御大将あっての領国経営、戦だったから、その身に不都合があると大変なことになる。選挙で次点の者がすぐ後を継ぐような世界ではない。信玄とか上杉謙信クラスになると、お屋形さまあっての、甲斐であり越後である。だから、大抵は身代わりとなる、「影武者」がいたようだ。
武田信玄の場合には、黒澤明監督の「影武者」が非常に有名だが、これは信玄死後の話。つまり、死後三年間も信玄の死は極々少数の側近しか知らなかったらしい。その間、信玄そっくりさんが居たという想定。信玄がいるのといないのとでは、周りの戦国大名の甲斐を見る目が天地の差ほどに大きく異なる。
今夜のドラマを見ていて、武田信玄もそろそろ、影武者を育てないと危ないと思った。川中島の戦いでは、一部史料に信玄や謙信の影武者(替え玉)が活躍した記録も残っているようだ。
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コメント
そうそう、信玄公の坊主頭、ほんとにシックリきてました。
なんだか亀治郎さんは、あのほうが風格があって
似合ってる感じがしました。
寅王丸の役者さん、柄本佑(えもとたすく)さん、
個性的でちょっとビミョーな役者さんだなと思いましたが、
俳優の柄本明さんの息子さんなんですね。
ど~りで、妙に斜に構えた雰囲気のある人で・・・・
私は今週はGacktが出なかったのでがっかりでしたが、
今月末に風林火山の景虎をイメージした写真集が出るので、それを楽しみにしているんです、
ふふっ。
投稿: 伽羅 | 2007年11月 8日 (木) 19時17分
まいど、伽羅さん
亀さん・信玄、内野・勘助、お二人とも実在していて、いま、甲斐とか信濃に生きているような感じがしています。
ところで、来週の桶狭間解釈は、まだ見ていないのですが、勘助の関与があったればこそ、信長が作戦に勝利したという、新説のようですね。その動機が、勘助の壽桂尼への恨みだとか、……。
ガクトさんの出演は川中島合戦まで温存しておいて、一挙に終盤を盛り上げる作戦でしょうか。
投稿: Mu→伽羅 | 2007年11月 9日 (金) 05時15分