小説木幡記:2007/11/27(火)詐欺の四方山話:海外に住むことと、自費出版
導入
久しぶりに観たNHKクローズアップ現代で、退職者の懐をねらう詐欺二題。
本編
一つは海外(フィリピンなどの美しい浜辺)へ隠退してから住むつもりだった人が、現地の日本人業者に2000万円払い込んで、結局土地の借地権を得られなかった話。フィリピンでは、外国人は土地を買えないので、現地の業者が買って、その借地権を事例のような日本人に譲るシステムらしい。
その詐欺内容はいちいち書かないが、まるでミッションインポッシブルみたいに大仕掛け。住む予定の浜辺にある素晴らしいご近所介護施設に案内されて、介護士まで付けてくれるという約束だったのに、入金後現地日本人業者が消えてしまったので行ってみると、その施設は改装されて中国人が住んでいた。周りの人に聞いても、そのあたりに介護施設なんかなかった、との話。現地警察は証拠不十分で、捜査もしてくれなかったよし。
もう一つは、自費出版。数百万円だせば、あなたの本が全国の書店に流通し、有名人の図書の横に並べられる、とのこと。
解題
前者は、余はまず騙されないだろう。木幡を一歩も動きたくない余が、どうして見知らぬ土地で余生をおくらねばならぬのか。原始農耕タイプの余は、隣町にだって移り住もうとはおもわない。
たしかに海外生活は日本と異なった景観や気候に恵まれ、そのうえ物価高の日本に比べれば、数分の一、数十分の一の生活費で余生を送ることができるのだから、惹かれる人も多いのだろう。
このこと一般論として、ケチをつけるなら。
風土病とか言葉の問題とか、文化の違いとか、治安がそれほどよくはないとか、……。どうして異国がよいのだろうか。
余程、日本でのしっとり、じっとりした関係の複雑さに飽き飽きしているのかもしれない。
余はこう思う。
日本の良さをもっと味わうのがよいでしょう。暑さのなかに京の蒸し風呂、これ幸い。ハモおろしがよろしおすえ。
寒さの中に日本の冬、これ幸い。鶏の水炊きをボンズでたべて、うまい白米たべて、日本酒で一杯。漬け物ぼりぼり。ああ、至福。
じっとり湿った日本的関係性。そんなもの、携帯すてなさい、電話ひきちぎりなさい、手紙なんか未開封ですてなさい。寄り合いはすべて「病気」ですませなさい。親類縁者、親兄弟、縁をぶち切りなさい。さすれば、じとじとも、おしめりもない、からっとした無関係、すっきりしまっせ。本国でそれができないまま、異国へ行っても、もっと辛さはつのります。
一般に、若くしてアフリカに消えたランボーのような人は稀なのでしょう。彼はアフリカで武器商人をしていたらしい。しかし彼も病気を患って故国フランスへ戻りました。小泉八雲なんかは、日本に来て仕事して嫁さんもらって、日本に溶け込んで、そして高給料の大部分を嫁さんの親族一統に布施なすっていた。つまり、日本人化したので、ハーンさんにとっての日本は、故国そのものになったのでしょうね。
後者の自費出版詐欺は、うむ、気弱になったら日曜作家、引っかかるかも知れないなぁ。インターネット配信では満足できなくなり、なにがなんでも、松本清張や森博嗣や、北方謙三、村上春樹の図書の横に、余の図書を平積みしたい! と、なったらさいご、ついふらふらと、500万円くらいだす、かな? あはは。
(500万円、それだけあったら一部屋かりて、十畳くらいの鉄道ジオラマ(レイアウト)をせっせと、余生こめてつくるでしょうね。そこに1/150の縮尺でゴジラロボットを造って、暴れさせる。被破壊城をあらかじめ、十城くらい造っておく。安土城や桃山城や大坂城、千代田城に、姫路城、熊本城、松本城に、高取城、……。来客のたびにゴジロボの逆襲ちゅうか、破城されていく。たまらんなぁ、この余生の豊かさ!)
反省
余は幼年時より、騙されやすい男だった。四六時中、のべつまくなしに騙され続けてきた。今でも学生たちに毎日最低2回は騙されておる。
それかあらぬか、「美味しい話は、嘘」という単純な格言が知らぬ間に、心身に染み込んでしまった。しかるに、美味しくない騙しもこの世にはある。
人は希望、期待という、一種の利で動くらしい。
余は非利に徹することでのみ、詐欺から身を守れるのだろう。
すると、究極は、おしゃかさまになるしかない。
と、わけのわからないオチで、本編を騙し終わろうとしている、のかな?
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