NHK風林火山(40)三国同盟よりも由布姫の去就
承前:NHK風林火山(39)第一次川中島の景虎と晴信
由布姫の気持ち
これまでのドラマ「風林火山」内での一般論として、由布姫は晴信と一緒に過ごした時間はほとんどない。だから姫と晴信とは疎遠になっていたと考えて良いだろう。それは側室であることが原因というよりも、晴信が甲府から諏訪にあまり訪れないのだから、由布姫は寡婦のような状態と想像できる。
由布姫は、一人で気楽かというと、そばにいるのは身内の諏訪衆とはいっても、政策的に武田晴信の側室なのだから、自由勝手な行動はできない。
思うに、心の支えは息子四郎と軍師山本勘助しかいない。晴信との間には、夫婦の微妙な心の綾、機微をしらないままに、過ごしたことだろう。直言すれば、子を一人なしただけで、晴信からは粗略に扱われたと言って良い。由布姫のためなら命を投げ出してくれるような他人は、山本勘助しかいない、というのがドラマの外枠となっている。
勘助が若い妻(リツ)をめとるかもしれない事態の変化を、由布姫は耐えられるのだろうか。諏訪衆に守られ、武田の扶持を得て、姫の生活に不自由はないが、心の支えとする勘助が、他の若い女と暮らしていく可能性に、どういう気持で対応するのだろうか。側室になったかぎり、勘助との生活などは始めから諦めていることだ。あきらめの上に、さらに諦めるという気持を、ドラマはどのように表現したのか。
由布姫のセリフの総ては晴信の前だったから、「その娘は良い娘ですか?」としか、尋ねることはできない。さらに、晴信に久しぶりに求められても、病を自覚した由布姫には、側室として入った頃の「奔放さ」はありようがない。うっすらと予感する死期の前で、晴信の戯れ言に笑顔を一つ見せたのが返礼だった。
晴信は言う、そちを生涯大切にする、大事に思うと。
由布姫は怨じて言う、お屋形様はだれにでも、そうもうしておられると。
晴信は答える、それほど多くの者に言うているわけではないと。
由布姫、たまらず笑い出す。
そして、勘助の事は、由布姫の口からは「良い娘ですか」だけだった。晴信がリツを見かけたのが別の側室於琴姫のいる寺だったことがわかり、由布姫は軽く突っ込む。
それで、勘助のことが今夜の由布姫の脳裏から消えたのだろうか、いや消えてはいない。
予告編の「姫の死」には言及しないでおこう、それは悲しいことだから。
しかし、勘助や由布姫のわかりにくさは、ドラマ全体の主人公が勘助であり、その相棒が由布姫であるという基本を思い出せば、明快なことなのだ。勘助は当初武田軍に殺されかけていた16歳の由布姫を、主君晴信に預けただけの話。諏訪に別居させられることになった姫が途中で家出した夜、勘助は大小刀を捨てて雪の中を探し求めた。武士であることを捨てる気で、姫を捜した。そういう「縁(えにし)」がすでにあった。だから由布姫は、勘助にリツという別の縁があるかもしれないと思い、顔が曇った。
雪斎が今
雪斎が、今川・武田・北条間に三国同盟の成ったあと、勘助を前にして、勘助の考えのことごとくに「おごり」があるという。勘助は言う、己の人生は、お屋形様と、諏訪の姫と四郎さまだけに尽くすと。雪斎は言う、子もなく妻もない男の、他人への慈悲には、己をさらけ出すことも、己を隠蔽することもできない、ただの家来の忠義にすぎないと。
つまりは、雪斎は言外に「由布姫」への妄執にすぎないと、勘助に言い切った。
雪斎の勘助評価は正しい、あたっている。しかし、禅問答で人生が融けるなら、世界中全員坊主か尼になればよかろう。
そうではないから、融けないから、由布姫は死期を悟り勘助を思う。頼りにする。勘助はさらけ出すことも隠すこともできないから、独身のまま、老いさらばえるまで戦・謀略に明け暮れる。それが、勘助の「定め」なのだ。
ところで、来週予告では、その雪斎が毒殺されるような場面があった。ただの腹下しならよいのだが。まだ10月半ばで消えるなんて、おもしろくない。
来週の由布姫は、出来れば見たくないな、25歳での死とは、それが予定調和的な退場とは言うても、人生が悲しすぎるよ。
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