浦沢直樹の「20世紀少年」は「21世紀少年」で終わったのか
21世紀少年、下/浦沢直樹
ともかく終わった、浦沢直樹に乾杯。そして大部分を貸してくれた葛野の漫画博士にも乾杯。めでたい。
あとは、PLUTOが残っている。
そう言えば、Pluto4の豪華版はおいたままMuBlogに何も載せていない。内容が気にくわないからじゃなくて、ショックで書けなくなったんだ。最初に木幡というか、江戸のエドルン君に見せたのが悪かった。たまたま帰京しているとき、夕食の席で「そういえば、父ちゃん、今度のPluto4は、○○が△になって、残念だったね」と、言ってしまったぁ~。私は、夕食が喉を通らなくなった。新品のPluto4(豪華版)に目を通したのは一ヶ月も先の日ではなかったろうか。そして、やはり、ショックは融けず、感想すら書けなくなった。もうそろそろ、緩解してもよい時期なのだが。
この11月(2007年)には、Pluto5の豪華版が出るというのに、ショックで感想文を書けないようでは、日曜評論家の名がすたる。
そんな時に、20世紀少年が完となった。めでたい(笑)。
感想は、と人に聞かれても、「よかったです。途中で一瞬空中分解するんじゃないかと、ハラハラしたのがさらによかったです」とつい漏らしてしまうほど、長い時間の、持続があった。
それで、過去感想記事を集めてみた。blog書誌で完全なのは、3つあった。その内、最初の記事は全18巻を一気に1日で読んだ記事だった。
(1) 20世紀少年/浦沢直樹(漫画:小学館) (掲載日 2005.03.16) 1巻~18巻、まとめ読み。
(2) 20世紀少年(20)/浦沢直樹 (掲載日 2005.11.23)
(3) 20世紀少年(21)/浦沢直樹 (掲載日 2006.03.18)
(*) 小説木幡記:2007/08/01(水)承前の夏「3.二十世紀→二十一世紀少年」 ここでは「21世紀少年」の上について言及している。(掲載日 2007.08.01)
このリストからみると、私は2005年の初春にこの世界に入り、この2007年初秋で読み終わったのだから、約2年半付き合ったことになる。初巻から一冊ずつ読んできた人は、もっと長かったことだろう。
ただ、長い時間と私が思ったのは、もうひとつの私の時間と重なりがあるからだと思う。
物語は、大阪吹田で万博があった時代に、小学生高学年だったケンジやオッチョやヨシツネや少年たちと、ユキジという女性、そして後の「ともだち」、あるいはサダキヨ、あるいは青年期以降に知り合った人達、そういう大河ドラマ(笑)世界が、2020年ころまで続くのだから、「長い」と思ってもしかたない。
主人公達は、最終巻では、「カンナ」という超能力美少女以外は全部爺婆になってしまっている、恐ろしい青春残酷物語だな。
ちなみに、私は大阪万博の頃は20代前半だったから、主人公のケンジよりもずっと年長になる。
なんとなく、浦沢さんたちと同年代の読者が読めば、ひとつひとつがもっとリアルに味わえる部分もあった。もちろん漫画や小説や映画をそんな目で見たら、毎週見ている「風林火山」なんて異世界宇宙人の物語になってしまって、理解できなくなる。
良かった点。
「ともだち」のミイラ頭姿と、指先マーク、さらにお面姿が最初から最後まで印象にのこった。「ともだち」と耳にすると、ここずっと、そのミイラ頭姿や指先マークが、がーんと脳に浮かぶのだから、相当に強烈な造形だと思っている。結局、私はそのミイラ頭姿やお面の中身がだれなのか、という謎に引きずられて全24巻を読んでしまった。
好きな人は、意外にも「ヨシツネ」だった。マンジョウメという悪いオジサン、神様とよばれた変な爺さん、ともかく変なキャラが好きだった。そうそう、三波春夫さんみたいな歌手もよかったね。
どうにも好きになれなかったのは、途中登場と記憶にあるが、友達組織の幹部「高須」という性別不明の人の顔。これって、たまらないなぁ。人の美醜とか顔つきに好き嫌いはない方なのだが、この人ばっかりは、ゴメンだ(笑)。もし、そっくりさんが居たら、困るな。
ふーん~と思った点。
時代が私のしらない部分だと、なんのことかわからなくて、困った。始めから全部しらなかったなら、そういうものだと思って読むのだが、半分以上は体験した時代だから、困る。たとえば、少年少女雑誌連載の、いくつかのタイトルは知らないので、中でもりあがっても、「なんのこっちゃ?」だった。
なんとなく、「ともだち」が途中で、なにがなんだか、だれがだれなんか、分からなくなった点。これは、実は未だに、どうなったのか、分からない(爆)。
結論。
というわけで、時代の懐かしさや、少年少女期の独自の世界を精密に描いたことや、気宇壮大な展開に、口をぽっかり開けたまま、最後までおもしろくたのしく、読み終わりました。
ところで「ともだち」は、少年期に死んだのか、壮年期に死んだのか、撃たれて死んだのか、本当の本当の「ともだち」は、だれだったのか、まだ「ともだち」は生きているのかぁ~全部読んでもよく分かりません。だれか、教えてください。(なんという、ネタバレ!)
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コメント
完結してからまとめて読みたいと思っていたので、ようやくこれで大人買いに踏み切れます。大阪万博当時、小学校低学年でした。主人公たちよりちょっと年下(笑)。
投稿: morio0101 | 2007年10月 8日 (月) 02時41分
モリオ君、お元気ですか?
最近、讃岐うどんが200円の価格を維持できなくて、値上がりするようですね。それと、うどんのゆで汁が公害になりそうとか、うどん食べるにも大変な時世になってきたようです。
例の嵯峨野の「鴨なんば」はもともと高額商品ですから、そういう心配はいりません。ツケはMuBlogですしね。例の、一々鴨の脂を取り去って食べた軟弱な若者とは違い、モリオさんは御馳走しがいのある若者です。
ところで、葛野研では「21世紀老人」新企画として世界征服を目論むロボットを作るという案もあったのですが、小汚い世界を征服しても無意味なので、急遽「式神ロボット」製作に変更したようです。
旧来のウラサワ君の「20世紀少年」をお読みになったら、またぜひお立ち寄り下さい。葛野研はいまや、新しい世界観ちゅうか、「21世紀老人」企画に盛り上がっております。ただ、残念なことには、回りが少女達というか、いわゆる女性ばかりですから、だれもその深淵な世界観を理解しようとなさらぬようです。
求む:21世紀、オールドボーイ。
「腐っても鯛男」という諺もありますから、ぜひぜひミニクーパーでお越し願い、新しい21世紀の秘密基地を葛野に作りましょう。
ヒミツのテガミ。トシオからモリオ君へ。
投稿: Mu→MORIO0101 | 2007年10月 8日 (月) 06時31分
まとめて手に入れた『20世紀少年』と『21世紀少年』、全巻読破しました。これは細切れで読むと、途中でわけがわからなくなると思いました。
最後の「ともだち」の正体は、「えっ、そういえばそういうやつがいたな」と思わせるところがミソだったのではないでしょうか。ケンジたちがそう思ったように、私達読者もそう感じる。浦沢はそれを狙ったと睨んでいます。物語の内側の論理で行くと、「ともだち」は象徴であるから、実体は誰でもよかったんでしょう(そもそも顔がない)。どこかの国の象徴みたいに。
最初の「ともだち」が死んだあたりから、どうも話を展開させるのに忙しくなりすぎているような印象が強いです。もう少しじっくりと周辺部分を膨らませながらやってくれるとよかったと思うのですが、それをすると、ますます長くなって収拾がつかなくなるか。
ともあれ、読み応えたっぷりで満足しました。いずれまた読み返してみたいです。
あ、高須は最後の方で見事な裸体を披露してますよ。「ともだち」の子も身籠もってるし。彼女はその後どうなったんだろう。
投稿: morio | 2007年10月21日 (日) 01時00分
morioくん
1.つまり病院で寝ていた人だったのですかぁ? それなら、その人は、以前から怪しいというか、伏線ばっちりだったから、とてものこと「そういう人もいたなぁ」じゃないと、思ったのです。
だからもしそうなら感想は「そんなん、ウラサワくん、狡いなあ」ですね。
2.「最初の「ともだち」が死んだ」
これが全巻通して、わからない、むつかしい、深遠な、漫画道の極み、むちゃくちゃでござりますがなぁ~、の世界と感じ、そしてMuは混乱したまま巻を措いたわけです。
こんど会ったとき、冊子実例付きでご教授下さい。つまり、入れ替わったのか、嘘死にだったのか、引き継いだのか、その他。
投稿: Mu→morio | 2007年10月21日 (日) 03時53分