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2007年9月 2日 (日)

NHK風林火山(35)由布姫の懊悩と誇り

承前:NHK風林火山(34)裏切りの真田幸隆

 今夜は、記すのが辛い。
 Muは男だが、由布姫の気持ちが心身にしみ通るようによく分かる。
 しかしなお、文筆の徒ゆえに、日曜劇評家として息をふりしぼって記録する。
 感情の暴走を避けるために、箇条書きにする。

1.女優柴本幸は、Muが睨んだように(笑)、現代まれな巫女タイプ女優のようだ。憑依。神懸かりになると書けば分かりやすかろう。もともと諏訪家の巫女役で登場したのだから、完全無欠のキャスティングだった。

2.柴本は、他の情報を勘案すると、撮影現場でも、あまりに過剰な精神集中故か、終わるとぶっ倒れる、失神することがあるようだ。素晴らしい素質と云える。

3.史上でイメージすると、卑弥呼かトヨか、神功皇后か、と書けば現代人にはまったく違和感しか残らないだろうが、その道を学びよく探索してみるとぴたりとする。これらの女性を、柴本に当てはめると、伝承や記紀のわかりくいところの霧が晴れる。

4.由布姫は諏訪家の一人娘だった。晴信はいう。もしも由布が男子だったなら、武田は諏訪との戦に勝てただろうか? と。誇り高く、気性が激しい。晴信はいう。あの刺すような目でみられては、怖いのう、勘助。確かに、激しい。

5.勘助に「悋気(りんき)されますな」と、諭された後の激烈な反応には、見ていて「殺される~」という恐怖を味わった。あの迫真の演技は、すねた、むくれたのレベルではない。

6.何故激烈な反応を見せたのか。それはただの悋気だったのか。いや、そうとばかりは云えない。

7.三条夫人(余、お気に入り)から「ゆうさん、お屋形さまがいうてはりましたえ。そしり、けなすは男のならい。ねたみ、卑しむは女のならい。ほんまに、(男はんには)軽くみられたもんですなぁ」

8.三条夫人は「武田の女人として、もっとしっかりしなさい」と、由布姫をさとし、その同意を勘助に求める。勘助の反応を見る由布姫の目。勘助は、三条夫人に同意する。由布姫の絶望に近い顔つき。よく、わずかな動きでその雰囲気をだしつくされましたな、姫さま。

9.姫の激烈な反応に戻る。
 「触れるな」と、駆け寄る勘助を退けた由布姫。そこにドラマの真骨頂が現れていた。深くは書かないが、由布姫は心身ともに、勘助だけが頼りだった。セリフにもそれは出ていた。何故怒ったのか。なぜ四郎を武田の世継ぎにするという暴挙が始まったのか。なぜ勘助は「鬼になる」と漏らしたのか。

10.記していて混乱してきたが、要するにただの嫉妬ではない。
 由布姫は、その美貌以上に、それを凌駕する才能と気性をもっていた。しかし長年諏訪に幽閉されたような状態が続き、しかも、頼りにする勘助が、多くの情報を遮断してきたことに気がついた。勘助がおとなしくしていなさいというから、側室にあがり、四郎を一人でそだて、うつうつとしながらも、今にいたった。
 諏訪家の姫として、晴信が一定の待遇と、将来を保証したから、それを勘助が担保したから、耐えられたわけだ。
 母としてだけ生きよと、勘助、そなたは申すのか。というセリフに、苦渋が滲んでいた。

 晴信は勝手に側室をつくり、おとずれもしない。誇りを支える担保なくして、なぜ我慢する必要があるのか。
 勘助、あなたの言うとおりしてきたのに、晴信は他家の娘に子までつくった。その和子が将来、諏訪家のわたくし、四郎にとって、どのような災厄をもたらすのか、勘助、あなたはわたくしを、最後まで責任とってくれるのですか。

 と、男女の嫉妬以上に、尊厳を、身分保障を剥奪される将来への怒り、それを即答しない勘助への苛立ち。
 何事も相談してくれると思っていた唯一の男性、勘助が厖大な情報遮断をおこなってきた、裏切り。
 由布姫は、他人に従うタイプではなく、軍を指揮するタイプなのだろう。
 麾下と思う勘助が、その作戦会議に参加させなかったことへの、憎悪に近い怒り。
 ……。
 ではなぜ、勘助の助言にしたがって、諏訪でおとなしくしていたのか。
 つまりは、勘助への絶対的な信頼と愛があったのだろう。

*.さて、今夜はこれくらいにしておこう。
 勘助は、「姫さま大事」の一念から、由布姫に情報をわたさなかった。「心配をかけたくなかった」それが裏目にでたとき、勘助は鬼になって、由布姫の直属・親衛隊にならざるを得ないだろう。姫様付き武官だ。姫様を激怒させてしまった今夜以後は、場合によっては、晴信や三条夫人とも敵対せざるを得ぬことになった。
 
 そして、由布姫の咳き込みは、ただの嗚咽だけではなかった。
 佳人薄命の兆候が今夜初めてみえた。

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コメント

Muさん、こんにちは!
私はここしばらく「やっぱり由布姫はミスキャストだったのでは…」と思っていたのです。
柴本さんの演技はまだ弱いところもあると思いますし、彼女の個性と脚本のせいで大部怖い人になってしまっていましたので。
でも、今回を見てやっぱり合っている、と思いました。
というか、脚本家がちょっと調整をしたような気がします。
ちょっとユーモラスに話を変えたりして、重過ぎないように努力もしています。個性の強いキャスト陣なので、なかなか大変ですね。でも拍手です。

投稿: なったん3211 | 2007年9月 3日 (月) 11時06分

こんにちわ
 由布姫は、怖い人ではあるのですが、最近のMu説では、いわゆる「男まさり」というか、我が邦で事例をあげるなら、巴御前、卑弥呼、神功皇后に匹敵するキャラを備えているわけです。政治と戦の話を寝掘りはほり聞く女性というのは、一般的な「母」「側室」では収まりきれないわけですね。
 こと、決断の時ならば、あれくらいの迫力がなければ、政治も戦もできないわけでして。
 ただ、その方向性が、忘れ去られた側室という現状から、晴信も、もしかしたら勘助も、由布姫の男性脳に気がつかないし、あてにもしていない、参謀の位置も与えられない。そのあたりの鬱積は、資質を殺された者の辛さとして、よく演技されていたと思います。

 他の側室に子ができるということは、敵が突然現れたようなものですから、正室として泰然自若の三条夫人にも、由布の心は「女の嫉妬」としか読み切れないと思います。

 古来、皇后は天皇にもなれるが、それ以外の女性とは天地の差がありますから、武家の世界でも、正室と側室とでは、扱いが異なります。

 ……。そのあたりが、誇り高い由布姫の表情から、よく読み取れたので、よき日曜の夜でありました。

投稿: Mu→なったん3211 | 2007年9月 3日 (月) 11時35分

Muさん、はじめまして。
私の周りに、誰も由布姫を認める人がいないので、業を煮やして(笑)、レビュ丸さんという方のブログに長文を投稿してしまいました。 もっとも毎回、迷惑を省みず、長文を載せてもらっていますけど。 
先にこちらを見つければ良かったなぁ。
Muさんの由布姫についての心理分析、本当に凄いです。 その通りだと思いました。
私なんか、まだまだ足元にも及ばないと反省しています。 また、訪問させてください。

投稿: 菜月 | 2007年9月 4日 (火) 17時46分

菜月さん、こんにちは。

http://td-furin.blogzine.jp/furin/2007/09/35_ef45.html#comments

上記コメントを読みました。Muの分析と、そんなに違いはないです(違和感がなかったです)。Muの記事は、ごく普通に由布姫に成り代わって説明したものです。

ただしかし、由布姫は認められていないのですか? 自分の記事を書くのが精一杯でよそさまの記事を読む気力がなくて、知りませんでした。トラックバックをいただく方達の記事は、きっちり読みますが、由布姫バッシングは見かけませんよ。

想像するに。
もし男性が由布姫をたたいているなら、それは一般に男性は自分よりも気性がしっかりして頭のよい女性を、そしる、けなすならいだからでしょうね。
もし女性が由布姫をたたいているなら、それは一般に、自分よりも美しい女性を絶対に認めないのが女性だからでしょうね。

などと根源的な性差問題、男性脳、女性脳の違いを論点にすると、MuBlogが爆発炎上するので、いわなかったことにします。
ではまた

投稿: Mu→菜月 | 2007年9月 4日 (火) 18時24分

Muさん、読んで頂いて光栄です。由布姫バッシング、凄まじいものがありますよ(笑) 何が正しいということはなく、人の感性は様々なので、仕方のないことかも知れません。 
しかし、あそこまで悪口雑言言われると(そんなブログ&書き込まれているコメントもあります)…。
由布姫が出るって予告で知ったら、見ないほうが精神衛生上良いんじゃない? と、会社のおば様達には言ってあげました。 多分、物語の展開からして、来週で見るのは止めるでしょう。
ブログについては、私自身が読まなきゃ良いわけで。 「爆発炎上」するのはイヤですから、見てもコメントせず、おとなしく退散しています。

投稿: 菜月 | 2007年9月 5日 (水) 16時54分

菜月さん
 ネット世界は怖いようですね。たまたま運良くMuBlogは爆発炎上するほどの起爆力もなく、3年間ほど平穏に過ぎてきたので、一人の女優さんをよってたかってバッシングするというのが実感できませんでした。

 MuBlogでは、理屈で云えることは、まれに批判記事を載せますが、感情的な好悪感での、悪感情、つまり「さいてぇ~」という対象は、記事自体を作りません。無駄と思うから。そんな時間あれば、良いものを褒め称えることに時間を掛けた方が、あとですっきりしますから。

 新選組!!では、評判の脇役(新選組に入れなかった役)が、どうしても好きになれず、蓋しました。他の映画では良かったのですがね。(大和)
 義経では、義経の部下の一人がどうしても見る気がしなくて、その人が中心になったときは感想記事を書けませんでした。
 功名が辻では、千代も一豊も大好きだったのですが、年輩のオジサン二人が名優なのに、見ていると寒気がして、数回記事を休みました。

 今回風林火山は快調です。もどすような、えずくような役柄(爆笑)はないですね。
 ということです。

投稿: Mu→菜月 | 2007年9月 5日 (水) 20時43分

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