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2007年7月15日 (日)

NHK風林火山(28)甘利の最期、板垣の最期

承前:NHK風林火山(27)心中の敵

 今日は事情で葛野で仕事をしていた。明日も休日なのだが、授業関係で平常通りになる。そのせいとはいわないが、このところ詰めた仕事とか考えが続いて、なんとなく持病がじくじくしだした。
 そして。
 今夜、甘利の最期、板垣の最期をみて、あまりにのめりこみすぎて、終わった後にやはり持病が発症した。要するに、精神的に突き詰めてしまうと、こうなる。明日は大切な授業なのだが、なんとなく用心して、昼に局長・副長に「おたの申します」と頭を下げておいた。最終提出作品受け取り祭日なので、居た方が良いのだが、歩けなくなった時の用心に、そんな話をしておいた。どうなるのだろう、と。不安な目。

 そんな一日だったが、夜が来るのが寂しかった。両雄が死すとは、なんと儚い。

 忘れぬまにどうしても記しておく。
 晴信さんのことだ。甘利の裏切り(実はそうではない)を聞いたときの晴信の表情が素晴らしかった。つまり日本に育った歌舞伎の秘芸をあますところなく、人びとに伝えきったと思ったのだ。眉や目が、顔全部を動き回るほどに上下した。口、歯、すべての動きが、人間技ではない動きを見せた。圧巻だった。声もでなかった。大げさとか、あり得ないとか、そういう賢しらな声を出す前に圧倒された。芝居、演劇、肉体で内面を表現するということの、極致を味わった。

 「裏切り者」甘利の一族殲滅を命令したときの晴信の狂乱は、歌舞伎とは異なるが、以前観たドイツ映画「ヒットラー」を思い出した。ヒトラーも、そして晴信も鬼気迫るものだった。

 甘利(竜雷太)が先に死んだ。
 内応を装い村上に近づいたが一瞬の差で、平蔵の矢が暗殺をしくじらせた。翌朝上田原を単騎で逃亡するとき、背に矢を何本も受けた。そして旧友というか同期というか、板垣の腕の中で絶命した。人は死ねばただの屍なのだ、それが分かっていても、両雄とうたわれた戦友板垣のそばで死んだことに、気持がほころんだ。人は、人の死を観て、我が生と死とを味わうものだ。

 板垣は、出陣前に晴信に請い、諏訪明神の神名を書いてもらった。それは、後日由布姫のもとに届く。母親になった由布姫は変わらず巫女の清浄を見せていた。
 板垣にとっての諏訪や由布姫は格別のものだったのだろう。そして晴信に諏訪神の名を書かせることで、諏訪の領民や姫を大切にしろと、言いたかったのかも知れない。人は直言が有効なことも多いが、煮詰まりすぎると言葉が空しくなる。ちょっとした表情や、ささいな、なにげない行動が、言葉にならないものを物語る事も多い。そういう雰囲気を、板垣に味わった。

 板垣の最期は。
 実は言葉にならない。一昨年によく使った言葉だが、これは死の「様式美」を表現したのだと思った。人はたわいなく死ぬものである。突然死、事故死、不慮の被害者、心臓発作。そして自殺、そして殉教、一死もって他に益する。どんな死も、死は死なのだが、それを見る者には多様な思いを起こさせるのが「死」であろう。

 板垣の死をドラマはどうあつかったのか。
 それは俳優千葉真一の「死」に等しいものだった。千葉は、あの演技で「人生、かのように死すべきや」と味わったのだと確信した。

 戦が避けられないものならば、その上、立場があるならば、人は板垣の死を良しとするだろう。
 新選組の近藤さんが、自ら官軍に出向いて斬首されたことを、Muは長年「おろかな。その後も戦い続けた土方がずっとよい」と思ってきた。しかし畏友のJoさんがひとこと「幕引きだね。立場あるものは、きっちり幕を引いて終わらせる責任がある」と言ったとき、目から鱗が落ちた。

 今夜はそうい目で観ていた。板垣は息子として育てた晴信の増長、戦に対する一人相撲を止める立場だったのだろう。板垣は自らの死で、甲斐の安泰、晴信の次のステップへの足がかりとなったのだと、思った。

 ドラマとして、そういう「死」を表現するには、あれだけの様式美は絶対に必要だった。板垣を囲む何十人もの槍ぶすま、花芯になった板垣、太刀一閃すれば花びらがさっと引く。辞世。詠うように。槍が突き出る、かわす、次の槍が腰をつく、また太刀一閃、太刀落ちて小刀で雑兵を刺す、……。

 死を美化するな、戦いを甘く描くなという言葉がMuの幼少時から耳をついてきた。たしかに、死は美化されてはならないし、甘いものではない。屍は野にさらされ蛆がわき野犬が野鳥がついばむ。残された者達の悲嘆は深い。
 だがしかし。

 戦がある限り、死は絶対であり、確実なことなのだ。
 板垣はそう言う世界に住んでいた。命を捧げる事によってのみ、窮地を脱し、他を益すると信じたのだろう。となると、その死が汚辱であってはならない。そこで、死の様式美が現れた。平家物語での木曾義仲の死は、雑兵に討ち取られた、犬死に等しい。だが、平家物語は、その死を絶対的な美に化した。それが文学だと思った。ならば、我ら庶民の大河ドラマが、木曾殿に匹敵する死の様式美を、千葉真一という肉体を借りて表現したことを、深い感動とともに味わうのが、大人というものだ。

 というわけで、細部の佳さの多くは忘れた。
 千葉真一という成熟した男優が風林火山で初夏まで活躍した。よかった。

追伸
 甘利の最期に語ること少なかったが、充分にそれも味わった。勘助は、以前の甘利の言葉を思いだし、裏切りに狂乱する晴信を鎮めた。そう言う言葉を、勘助と交わした甘利の表情、そして大井夫人へのいとまごいに、板垣と同質のものを味わった。

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コメント

こんにちは。お体を悪くされたとのことですが、どうぞお気をつけてください。
現代的歴史観を一切排除したのが今回のドラマの特徴と言われています。
なので、戦場で人が死ぬのは当然です。
二人とも喜んで死んで行きました。
しかし、やはり晴信も勘助も、人として悲しんだんですね。
このあたりをしっかりと書いてくれたので満足しています。
あと、由布姫のことを悪く書いているブログがあまりにも多いので、ここに来るとちょっとホッとする私です(笑)。

投稿: なったん3211 | 2007年7月16日 (月) 12時17分

 なったんさん
 戦後すぐの生まれ、つまり「戦無派世代」は政治的にも、人倫的にも、戦争とか侵略に、今とは違った意味で敏感なんですなぁ。
 我らの父祖が戦った、大東亜戦争の意味、意義をいまだに肌身に感じて、あれこれ悩んでおるのです。

 だからこそ、戦いにおける死とか、なんのための戦争かということに、神経質になるのです。ただし、現代のある種、平和ぼけと言われる戦争忌避とは、異質です。、

 そういうわけで、Muも「現代的歴史観」と「当時的歴史観」の相克にときどき、悩むわけです。

 とはいうものの、ドラマはドラマ。ドラマという独立した世界にあって、どれほどのドラマツルギーを孕んでいるか、そういう観点から昨夜は堪能しました。

 春信さんも板垣さんも甘利さんも、そしてちょっぴり勘助さんも、いわゆる「芝居がかった演技」という評価は受けることでしょう。だが、Muはそこに独特のカタルシスを味わったわけです。この時、あの時、彼は彼女はこうであらねばならない、と想像したことを眼前で演じてくださるのだから、これを見るMUには快感以外のなにものでもないのです。

投稿: Mu→なったん3211 | 2007年7月16日 (月) 15時58分

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