十三の冥府(じゅうさんのめいふ)/内田康夫 著
十三の冥府/内田康夫
「 なにわより じゅうさんまいり じゅうさんり もらいにのぼる ちえもさまざま八戸の蕪島でお遍路の女性とすれ違った時、女子大生・神尾容子は奇妙な唄を耳にした。数日後、そのお遍路と思しき絞殺死体が『ピラミッド』へつづく山道で発見される。同じ頃、古文書の真贋論争の取材で青森県を訪れた浅見光彦は、行く先々で不可解な死に遭遇。それらの死の原因を<アラハバキ神の崇り>と考え、恐れおののく人たちがいた……。
本州最果ての地に息づく謎めいた伝説と信仰。その背後に潜む憎悪と殺意に敢然と立ち向かう名探偵の活躍を描いた、傑作長編旅情ミステリー!
」
「
浅見光彦を翻弄するのは“荒ぶる神”の祟りか、冥府に迷う死者の怨念か--
」
巻末の参考文献
日本史が危ない!/安本美典、原田実、原正壽(全貌社)
幻想の荒覇吐秘史/原田実(批評社)
「超真相」東日流外三郡誌/佐治芳彦(徳間書店)
北洋伝承黙示録/渡辺豊和(新泉社)
消された星信仰/榎本出雲、近江雅和(彩流社)
謎の竹内文書/佐治芳彦(徳間書店)
キリストは日本で死んでいる/山根キク(たま出版)
中世十三湊と安藤氏/国立歴史民族博物館(新人物往来社)
日本超古代文明のすべて(日本文芸社)
角川日本地名大辞典(角川書店)
みちのくのあけぼの(市浦村史資料編/東日流外三郡誌)/市浦村史編纂委員会
市浦村史/市浦村
さて、ここから多少のMuの騙りが始まるが、内容についてはできるだけ言及しない、とは先述したが、感想程度は最初に述べておく。
まず、視点が浅見光彦に定まっている。ただし、そういう気持で読んだわけではないので、多少はそうでないところがあるかも知れないが、プロローグを除いては浅見の視点で動くので、浅見の経験や驚きが直に伝わってくる。特に、青森県全域を、津軽と南部の区別はしながら、浅見がソアラで走り回るのが圧巻だった。いつものように、行く先々で美味しい物(シジミラーメンがよかった)にありつけるのだが、途中の風景描写や説明が適切なので、いつのまにか浅見光彦の目になって、事件を追っていく。そんな気分にさせてくれた。
確かに殺人はいくつもあるのだが、殆どの場合に、浅見が見たわけではないし、猟奇的な物でもないのだから、恐怖感は無いはずなのだが、祟りというよりも、ふとした表現に寒気がした。たとえば、終盤に、ある人の家をたずね、その人は浅見を家にあげて、さあ飲むかといって「ミルクのような液体」をさしだす。そこでゾワっとした。さらに「泊まっていけ」と言われた時は、Muも泡を吹いてあわててその家から逃げ出した。たしかに、そういう恐怖感を抱かせる筋立てなのだが、作り物でない恐怖というものに、充分ひたった。
もちろん、浅見が怖がらないものには、読者のMuも怖がらない。たとえば、地元の人が真剣に「アラハバキ様の祟りじゃ」と言っても、浅見が「嘘でしょう」という顔をするから、Muも同時に「そうだよね、嘘に決まっている」と思って安心してしまう。このように、浅見光彦になったつもりで、関西からは遙かな東北を、まるで自分が旅をしているような気分にさせてくれる。その仕掛けを正確に分析したわけではないが、読者が浅見に一体化するのは、浅見がソアラにのって行く先々で右往左往する、そんな筋立てだからなのだろう、と思った。
でここからが本題だが。
本題はえてして短くなるものだ。
この作品に、別の恐怖を味わった理由を、少ししるしておくと、それは『竹内文書(たけのうちもんじょ)』とか、『都賀流三郡誌(つがるさんぐんし)』の超古代史文献のことが作品の背骨になっているからである。そこから派生して、ピラミッド話や日本にあるキリストの墓話もでてくるわけだが、なんにしても内田康夫の基本姿勢として、現実批判が作品に常に含まれるから、古代史・偽書論争・批判が、その対象世界の面白さ以上に、不気味なものに見えてきた。内田康夫が作品にこめたフィクションの、疑似宗教論争に近いこういった世界の様子がリアルにMuの背中にのしかかってきて、何度も後ろを振り返ったという、悪寒があったのだ。
もちろん『都賀流三郡誌』という書名は、ネットをさがしてもこの本のことでしか出てこないのだが。現実の古代史論争が相当に深くフィクションの中に描かれているから、虚実の皮膜が背中に張り付いてきて、身震いしたというのが、Muの感想である。
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