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2007年5月20日 (日)

NHK風林火山(20)勘助の心、由布姫の心

承前:NHK風林火山(19)笛を吹く由布姫

 山本勘助が正式に、武田家の軍師になった。
 軍師の「師」という文字からして、武田晴信にとって勘助は軍事上の師匠になるのだろう。これで勘助の若い頃の夢が一つ達成されたことになる。ドラマでの、一月か二月ころの勘助は、軍師として仕官することや、智慧をこめて城を造ることが夢だった。
 Muも青年時代に軍師に憧れた。だから今、毎週夜、風林火山の感想を記すのは、これは切実なものなのだ。しかし青年時代、智慧浅く、局地戦に振り回される日々だったので、大望は果たせなかった(失笑)。

 さて。
 勘助ほどの軍師に「女」になりつつある少女「由布姫/柴本幸」の心が分かるのか、という切り口で今夜を過ごした。
 あらかじめ結論を記しておく。
 「わかるわけがない」。
 そして、別の解答「わからなくて、それでよいのです」。

 こうやって、核心に入る前に寄り道したのは訳がある。先取りの悪いクセだが、予告編の数十秒が耳をついてはなれなかった。気持を押しつけるというか、ぐっとくる情景が選ばれていた。
 まず、家出したような由布姫を捜す勘助の絶叫。これは、相当に、迫真。深奥からの叫び。
 「お屋形さまのそばを離れては生きていけない」という由布姫の叫び(晴信あて)。
 「勘助、わたくしを殺めてください」涙を流しながら、由布姫は勘助に言う。

 この三つと、今夜の由布姫の姿を重ね合わせ、脚本や演出の妙味、そして由布姫の役者としての凄烈さ、それらを合わせて、不可解としか、申しようがない。

 恋というよりも、古典的に記すなら、魂のぶつかり合いに思えた。怨念、愛憎、憧憬、情念が数秒間隔で吹き上げてくる由布姫の姿をみていると、これが菩薩の顔した夜叉なのだろうと、独りごちた。由布姫が興福寺、阿修羅に見えてくるのも仕方なかろう。

 今夜こそ、軍師山本勘助の晴れ晴れしき日と思っていた。その手の話を一杯しるそうと思っていた。たしかにそうであった。
 だが、どう考えても、三条夫人と由布姫が対峙したころから、恐れた通りになった。ことは嫉妬、悋気など、女性の一般論で済ませられない。壮絶きわまりない、人と人との、各々の深奥での覇権、プライドをかけた戦(いくさ)が、勘助のしらない所で進んでいた。双方は相手だけでなく、自らとも戦っていた。

 細かく記すことは止めておこう。
 正室と側室と晴信だけの悶着なら、だまって、終わるのを待つだけなのだが。
 細部詳細を分析する筆を止めるのは、理解を超えた面と、そして一般的に、Muも男性だから、書きようがないと言える。

 言えることは女優の対決だとも思った。これなら、芸論として書き残せる。
 三条夫人と由布姫との対決があり、それは女優・池脇千鶴と柴本幸との対決であろう。
 あらかじめ予防線を張ると、両者、Muは気に入っている。こういう感覚は、桜餅を二つにわって、どっちが美味いというようなもので、当然のことだ。(笑)

 おそらく注目度は、柴本なんだろう。怒気と笑顔と哀憐、巫女のオーラ、すべて23歳で兼ね備えている。Muはその上「声調」には将来を保証した。今夜は、ねじくれ、ひねくれた少女の姿まで丁寧に、声、顔、目で表現した。諏訪の甘酒を正室にすすめる姫の声と眼とに圧倒された。

 対するに池脇は、儚さ、明るさ、芯の強さ、粘り、矜恃、人の佳さ、これらを次々と演じ分けていった。気性のキツイ由布姫にたじたじとしながら、沈みかける笑顔を、よう見せてくれた。由布姫の意外な言葉に、「何故?」と首をかしげる様子が、ことのほか気に入っている。今夜も、笛の音を聞く、うち沈んだ三条夫人の横臥姿は絶品優雅、まさに生霊になる一歩手前の雅であった。

 理の上では、池脇が主であり、柴本は従である。
 ドラマの上では、柴本が主である。
 それを見るMuの感性では、どちらも「よろしぃ」となる。

 柴本の優位さは、近頃学んだ「花」、時分の花だとおもった。これには、誰も勝てない。しかたなかろう。とつとつとした由布姫が数回演じただけで、風林火山を席巻した。少なくとも、あと数回は全面に出てくるのだろう。それがあらかじめ、脚本や演出によってしかれた「運命(さだめ)」なのじゃ。観客は、その船に乗るしかない。
 しかし柴本が「花」なれば、池脇がもし生霊(すだま)まで行ってしまったなら、これは幽玄となり、格が一段上がる。演出は、そうはしないだろう。

 それにしても。
 勘助の立場は、困ったことだ。由布姫はあろうことか勘助に「殿に心は渡さぬ」といい、勘助に「同心」を求める。追いつめられた少女の愛の一種なのだろう。だが、勘助はそれを切なく思っても、だまって由布姫を受け入れられるわけがない。由布姫はすでに女になりつつある。その対象がお屋形様であることは、熟知している。しかしなお、由布姫の言葉に真があることも熟知している。

 引き裂かれた由布姫の心にこそ、白黒を求めるのは野暮の極み。
 由布姫は閨で晴信を愛し、心に蓋をしても、愛は積み重ねられる。
 それで終わりなら、ドラマも終わり(笑)。
 そうではない。
 由布姫は勘助に、身も世もなく、叫び、乱れ、「殺せ」「失せよ」と言い放つ心の開放感がある。クズ男への罵倒ではない。巌(いわお)の安定をもった勘助への恋慕なのだろう。おそらく、勘助は「父性」なのかもしれない。

 ……
 と、いくらあれこれ記しても、このドラマは、Muには簡単には解説できない。
 また、来週も、悩むだろう、とおもいつつ、筆を置く。

再見

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コメント

Muさん、こんにちは!今回なんかあちこちで盛り上がっている感じがします。
とくに晴信の「褥」発言(かなり問題になっているよう??)とラストの由布姫のこわーい表情で、正統派時代劇ファンからは、「もうその話はいいから合戦を続けろ」的なコメントもあるようなのですが、私は、今回のドラマは決して「正統派時代劇」ではない、と思っています。
勘助も由布姫も、時代劇のヒーローとヒロインにしては、あまりにも多面的すぎます。その二人の生き様を書くのがこのドラマの軸だと思っているので。

勘助のように冷徹な男が秘める感情の表現、という難しい場面を、内野さんは全身で演じきっていると思うし、それがもう少しはっきりするのが次回なのかな、と思っています。

投稿: なったん3211 | 2007年5月21日 (月) 15時58分

なったん3211さん
 どうも。記事を読ませていただきました。詳細な内容なので、日曜夜の全貌を再現できました。Muは、あそこまで細かく覚えていられません(笑)。実は、よくTBして下さる一言居士さんも詳細内容です。二つ読めば、風林火山博士です。

さて。
☆問題発言
 おっしゃるように春信の、勘助への複雑な感情が込められています。勘助に私事まで明かすのは絶対的な信頼の披瀝。もう一つは、由布姫問題で、絶対勝てない勘助への優位性誇示。
 女性の心とは申しますまい。要するに人間は極端に脳が進化し精神がありますから、普通の生命体とは異なるわけでしょうね。ぼかした言い方ですが、結論はでています。由布姫は勘助から逃れられません。春信は、若い。あらゆる条件がそろっていても、勘助の跋扈、隻眼、不遇、命の恩人、もろもろ勘案するに、由布姫はたとえ春信にすがりついても、それは仮託でしょう。
 深い皮肉、悲劇は、由布姫の父を死においやった張本人が実は山本勘助だったという、事実でしょうね。まるで、典型的なギリシャ悲劇、プロトタイプの再現です。

☆次に合戦と謀略ですが。
 歴史的に、一昨年の義経のような4度に渡るまれな合戦は、武田の場合、川中島と、信長の鉄砲に破られるまでは、残念ながら無いと、Muは考えております。義経は、司馬遼太郎さんに言わせれば、千年に一人の軍事天才だったようです。だから、それに比べると、勘助の胸のすくような見せ場は、少ないでしょう。(あれば、うれしいですが)どうしても、小競り合いの謀略になりがちです。
 ただ。そこに山本勘助の真骨頂があるのかもしれません。だから、Muは勘助の細かな謀略を、常に目を皿にしてみております。

 ドラマとしては、勘助謀略の細部、組み立て、経緯を初期のように細かく描く方法もあるでしょうが、今は、由布姫人気をど~んと打ち出す方式なのでしょう。時間的にいうと、関係者達も、柴本の演技、目つき、声調をみて、そう決めたのでしょう(いつ頃かな。制作は、昨年からはじまっているのだから?)

というわけで、コメントありがとうございました。
ドラマは多様な目でみて、落ち着くところに落ち着くのでしょうね。今のところ、手に汗握って毎週みております(爆笑)

投稿: Mu→なったん3211 | 2007年5月21日 (月) 18時46分

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» 風林火山〜第20話・軍師と致す! [一言居士!スペードのAの放埓手記]
風林火山ですが、今回盛りだくさんで面白かったです。久々に合戦もあり、山本勘助(内野聖陽)が正式に軍師に任命されたり、平蔵との運命的な再会、懐かしい人や北信濃の王・村上義清登場、由布姫と三条夫人など、45分足らずでよくここまで詰め込んだと思います。(大河ドラマ風林火山、第20話・軍師誕生の感想、以下に続きます)... [続きを読む]

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毎回、タイトルで「疾きこと風のごとく…」という内野さんの朗読(完璧です!)が始まるたびに、わくわくしてしまいます。 今回は甘利虎泰がキャストの「トリ」になっていて、板垣は久しぶりに登場なし。 ちょっと寂しい気がします。 前回、信濃に行った勘助はすでに策を講じたようです。 武田勢は長窪城を包囲、対する佐久・小県群長窪城主、大井貞隆との合戦に際し、晴信は望月方に本陣の武田勢半分を送るよう、家臣に指示します。 (晴信は、勇ましいシーンの時にのみ、どうしても口調がやや歌舞..... [続きを読む]

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承前:NHK風林火山(20)勘助の心、由布姫の心  今夜はあまり記すこともない。心身いささか、ここ数回の風林火山で消耗したようだ。今夜の勘助、由布姫の熱演にも、いささかあてられた。当てられたというのは、人の恋路にいわゆるアテラレタのではなくて、どうしても人の心というものはしんどいことだのう、という、そういう熱気ともうすか、しんどさに、疲れたと言うことだ。ニュアンスがむつかしい(笑)。  なにも考え... [続きを読む]

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