NHK風林火山(19)笛を吹く由布姫
今夜も、山本勘助、由布姫、三条夫人が光っていた。
言いそびれていたが、当初から、晴信(信玄)も、たいそう気に入っていた。回を追う毎に貫禄というか、厚みがましてきて、近頃はこの方の歌舞伎調と思われる独特のセリフ廻しを聞かないと、おちつかない。
今夜は、襲いかかった由布姫を前にして、晴信さん、伝家の大ミエを切ったのには、本当にすっきりした。由布姫に、男と女のことではなくて、国(甲斐)と国(諏訪)との睦み合いと言い放ち、そこに話が落ち着いた。その間、姫は張り詰めていたなにかが落ちて、ぐったりしていた。
由布姫の美貌はすでに、信虎の時にはっきり武田に知られていた。信虎は捕虜として由布姫を招く算段をしていた。だから、息子晴信が、家臣の反対を押し切って由布姫を側室にしたのは、たしかに由布姫の美貌に、晴信が心動かされた事情もあった。それを言い訳がましくなく、甲斐と諏訪との関係改善にまで話を引き延ばしたのは、もとはと言えば勘助の「由布姫を救う」一念だったと思う。
現実の女優、柴本幸がどうなのか、それは世間で騒がしく言っているので、Muが申す必要もなかろう。
Muがあえて記すなら、あの、作られつつある、やがて自然になるだろう、凛とした物言いが気に入っている。それは確かに女の声なのだが、三条夫人の声調とはだいぶ異なる。ニュートラルで、やがて女に変わる危うさを持ちながら、それでも少女の声ではない。
そう、明白だ。あれは、想像上の「巫女」の託宣である。うまく調えて、歳を取れば、デルファイの神託を高らかに下す声となろう。美貌の衰えは早くとも、声は変成しながら長く続く。よかったなあ~由布姫。
ただ。今夜の正室・三条夫人はことのほか、よかった(毎回、褒めているなぁ)。
脚本がおもしろいというか、由布姫にむかって、殿は見かけは悪いが、良い漢(おとこ)どすえ、という意味のセリフを吐く場面を苦笑しながら見ていて、そのうち涙がにじんだ。男も女も、立場を得れば、それを正しく行使するために、自我をすて、わがままを捨て、自らの命まですてて、他に尽くさねばならぬこともあるのだろう。
三条夫人が都を出たとき、父母のため、三条家のため、ひいては都におはす上御一人のため、甲斐の山奥に身をさらし骨埋める決心をしたのだろう。三条夫人は、甘やかな声と、勘助を叱りつける暗い声と、上手に分けていた。由布姫への注目の影に隠れがちだが、よい女優だと思った。
それにしても「笛」。しまった、と思った一夜だった。「呪いの笛」とタイトルにあったのだから、少し考えておけば良かった。それは笛吹童子まで遡らなくても、以前読んだ『風神秘抄/萩原規子』で、笛がでてきた話のことだった。萩原さんの三部作(空色勾玉、白鳥異伝、薄紅天女)はMuBlogに掲載したのに、この風神秘抄だけはまとめるまもなく日常に埋没してしまったので、よく思い出せない。いつか、見ておこう。
ということで、癒し系の三条夫人は都から輿入れの時、笛を持参していた。これを由布姫にゆずった。なぜ。
何故の、Muの解は、記さないでおこう。
由布姫は、祝言を挙げても、終夜笛を吹いて晴信を近づけなかった。
今夜、笛の吹き手が変わったことを、はっきり知ったのは三条夫人一人だった。由布姫は、晴信に心を開いたようだ。三条夫人のうち沈んだ表現は、分かりやすく、底が深く、よいものだと思った。
そして、吹き手が変わったことを解説するのが大河ドラマなんだろうと、思った。アート系なら、それをすれば壊れてしまう。しかし、それをするのも、日常ドラマのよさなのだ。
今夜の〆は山本勘助。
由布姫からは「恥ずかしくないのか!」となじられ(三条夫人から贈られた笛に毒や仕掛けがないかを確認したとき)、三条夫人のお付きからは「無礼者」と罵倒された。
男子たるもの、一身すてて目的遂行するには、斯様な誤解や偏見がうまれてもしかたなかろう。そういう「スジ」の通ったところを、勘助さん、上手に顔の影だけで表現してはる。よいのう~。
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コメント
Muさんのブログ、とても楽しみです。今回もお邪魔しています。
今回も3人がとても光っていましたね!NHKのキャスティングの眼力はやはり確かなものだと思いました。特に今回は最初かなりのブーイングが起こっただけに、きちんと演技で納得させたのはさすがです。
柴本さんの演技はまだ発展途上だと思いますが、その未完成な感じが逆によかったのかもしれません。始めの頃よりも由布姫も晴信もかなりよくなっていると思います。あまり誉め過ぎるのも単調かなと思いつつ、今年の大河ドラマ、かなり面白いと思います。
投稿: なったん3211 | 2007年5月14日 (月) 11時52分
このところ大河ドラマからは遠ざかっていたのですが、先回の紹介記事があまりにも魅力的でしたので、昨日はじめて見てみました。
一般的には、期待しすぎると良くなかったりするものですが、今回は期待に違わずでした。
昨今の大河ドラマは主役よりも脇役が盛り立てて何とか成立するものか、と思っていましたが、認識が甘かったです。脇役さんたちが目立つ隙もないほど、主役が際立っているように感じました。
投稿: namiko | 2007年5月14日 (月) 12時46分
なったん3211さん
さきほど、貴blogよみました。なかなかに、詳細です。納得いたしました。
さて。
由布姫、および女優柴本幸については、本論(笑)で言及しましたし、やはり異性が異性を見る目は、常に曇りがちになって、本道をはずれることも多いので、割愛。
春信さ〜ん、のことです。
最初、この方をよく知らず(今もそうです)、感想はほとんど述べなかったのです。独特のセリフ回しは幼年期に耽溺した東映時代劇、たとえば市川歌右衛門の旗本退屈男を思い出させるし、ときどき、カクンとするような落としには目が回るし。で。
しかし、幾分剽軽な、また一昨年の「義経」のような様式美を持たない風林火山での、ミエを切る様式として、近頃はとても満足しています。
勘助は、どれほどハンディを演じても、怖い顔をしても、血も涙もない男の振りをしても、どうやっても主役たらざるをえません。髭が、汚れが、臭さが、どれほどリアルに演じられても、エエ男や、それ以外は申しようもありません。
ならば、そこに対峙する春信さ〜んが、亀さんであったことこそ、今期大河ドラマの成功を保証したようなものですね。
これが、コテコテの二枚目、水もしたたる美形なら、ちょっと、どうにもなりませぬ。ガクトはまだですが、ガクトが春信だったら、Muは数回で見終えましょうぞ。
なお、板垣さんと勘助さんの、二人の戦国武将の短いやりとりは、背中につーんとくるような、野生の蠱惑でしょうな。
以上
投稿: Mu→なったん3211 | 2007年5月14日 (月) 13時22分
NAMIKOさん
これは、お珍しい。大河ドラマを見るお時間がおありでしたかぁ〜。
さて、主役は山本勘助ですよね(笑)。
MUは最近、立て続けに由布姫を語っていますが、少なくとも、ここ数回、ガクトがでるまでは、世間は由布姫騒ぎに終始することでしょう。
ありていにもうさば、由布姫はS女王でしょうね(爆笑)。すると、勘助はまるでM侯爵になってしまう。ようするに、そういう世界を上手に時代劇にもってきたから、現代の人にも分かりやすく伝わるのだと、かねがね思っちょります。
その真偽はべつにして。
山本勘助を、別のドラマ(秘太刀 馬の骨)でみていたのですが、同一人とは思えませんでした。もちろん、馬の骨でも、相当に達者な役者と感じたし、人によってはその方がハマリ役という人もおるでしょう。
されど。
Muは、今回の勘助がとてもよいのです。汚れの中に、スジのとおった、背骨のまっすぐなところが、くっきりと彼の演技にあらわれております。
彼の鎧甲姿は、隻眼が映えて、近来にない絶品の武者姿ですよ。
と、あまり同性をほめそやすと、とかく〜。
まあ、来週も「おお、由布姫や、三条さんや」とでもいいながら、風林火山をみておることでしょう。
しかし、そのうち、来年あたりからはヒーロー、ヒロインにはなんの感興もなく、ひたすら、年増のお局さん、艶なる臈女に拍手喝采かも。
投稿: Mu→NAMIKO | 2007年5月14日 (月) 13時35分
Muの旦那 明日はお帰りダス
5年間ベトナムに骨を埋める積りが、明日帰国となりもうした。色々事情があるのですが、それはそれ、又、チョクチョクとハノイには行幸します。
帰国の忙しい最中、大河は観ましたよ。私はどうも女性の難しい局面の話は苦手です。信玄はんと勘助は段々と調子が出てきましたね、今回の大河は私にとり優秀作品になるとにらんでおります。
笛の話は何処か物の怪がとりつきそうな話で面白かったダス。武蔵でも、お通が確か笛を吹いていませんでしたか?
ベトナムでは牛の世話をする牧童がちょこんと牛に横向きに乗り笛を吹く光景が色んなところで描かれています。笛を吹くことで牛とか動物をコントロールするのでしょうね。
投稿: jo | 2007年5月14日 (月) 23時02分
JOさん、帰国、うれしいです。
どうにも、邪馬台国、古代日本史になると、身近におってもらって、史料片手に、しかしかとコメントをいただかないと、つまらんもんです。
それとなく、断片的な記事として、ホケノ山古墳話、などなどありましてね。
それでも、隣国のアンコールワットを見られてよかったですね。小さな国々がぎゅっと圧縮されて、なんとなく国々間が難しい東南アジア、JoBlog記事とアンコールワットで、充分ご苦労の回収はあったと思います。
そうでした。
風林火山、勘助、由布姫人気。NHKもやりよります。耳にしたのですが、脚本なんかも、相当に優れた人が関与しているらしい。
Joさんは以前、新選組の時も、寺田屋で、薄倖の太夫?、を身請けした近藤局長のもとに、江戸から正妻が訪ねてくる~の場面で、困ったはりましたね(笑)。そんなん、ドラマですがな。気にせんと、よろしよろし。
投稿: Mu→Jo | 2007年5月15日 (火) 06時20分