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2007年5月 6日 (日)

NHK風林火山(18)由布姫の決意

承前:NHK風林火山(17)由布姫の慟哭

 タイトルに「由布姫」を付けるのは止めようと思っていたが、今夜見終わってやはり、そのままにした。他の男優も女優も、実に気に入っている。ネネも板垣も、当然だが山本勘助も。しかし、どう考えてもここしばらくは16歳の由布姫の心の動きにファンも演出もNHKも、そしてMuも振り回されてしまう。致し方なかろう。なにしろ、武田勝頼の母御となる少女なのだから。
 それほどの由布姫人気だから、ただ、少しだけ意地悪も記しておこう。

 一つは、他のニュースで見たのだが由布姫役の柴本幸は身長170センチあるらしい。現代若者は軒並み長身が多いが、しかしさすがに170センチクラスはまばらになる。大抵は、女性の場合165~168位で、いささかノッポに見える。で、カメラワークが実に、そのノッポさんを隠すために工夫していると言うことが分かる。他の俳優、女優と並んだとき、どういう風に小柄に見せているのか、……。カメラさんの努力がしのばれる(笑)。

 もう一つは、由布姫がスレンダーや否やはしらないが、あの打ち掛けで座っている姿が、時々小学生が大人の着物を着ているような雰囲気に見えることがある。なにかしら、身体にあっていない、ふんわりとした感じがして、幼さが滲みでている。これがもし演出の意図ならば、相当な凄腕だと言ってよかろう。

 さて、今夜ようやく気がついたのだが、今年の風林火山はMuには難しい。
 今夜を例にするなら、ともかく聡明で、勝ち気で、難攻不落の由布姫をどうやって同意させるのか、そういうことを表現するために、セリフも場面も難解といえる。
 ただし、これはMuが男だからなのかも知れない。心の綾がわからないというのが、Muの本音だろう。どうしても、表面に現れた言葉や、全体の流れの理非で物事をみるから、繊細な、奥の深い由布姫の気持ちは、勘助以上に分からない。

 ものすごく単純に野蛮に申すなら、
 「ゆ・さんや、あんた負けたんや。武装解除された捕虜なんや。プライド? そんなんは勝ったもんだけが持てる心や。実力なくして、プライドなんか無。それが現実や」と、なってしまう。

 いや、当然そこに新たな美学が生まれるのは知っている。だが、16歳の少女に何がわかる! と決めつけるのがオジキの心。と、自分を納得させるのも、オジキの心。

 見せ場を二つに絞って感想を記しておく。少し考え込んで書くので、100%そうなんだと、思ってはいない。大河ドラマでここまで解釈を迷うのは、ちと、珍しい。しかし、見ている間はそんなこと気にもせずに奔流に巻き込まれていたのも事実。

1.甘利虎泰
 甘利は、由布姫に悪態をつき、彼女を怒らせる。自害もせぬとは、なんたること、と由布姫に詰め寄る。
 この間、勘助が駆けつけるまで、Muもはらはらした。二人の掛け合いが真に迫っていた、そう言っても大げさではない。甘利の形相も、それに対峙する姫のキツイ顔も、すごかった。セリフの掛け合いというよりも、気力の戦いがよく現れていた。

 姫は甘利に向けた刃を収めた。そして勘助に、ぽつりという。「甘利殿は、討たれに参った」と。

 この解釈は、こう判断した。甘利が由布姫に自害を強要するのも、またもし自害したとしても、それは勘助がいさめたように、君命に逆らったことになる。甘利はそういう男ではない。だが外からは、如何にも「姫、ご自害なされよ」という風にしか見えない。

 しかし、甘利は由布姫が勝ち気な女と分かっていた。
 甘利はその由布姫の勝ち気さを逆手にとって、自らは鉄扇だけでうちかかろうとした。小刀は姫の手にある。討たれる。討たれたなら甘利は君命に逆らわなかったことになり、しかも由布姫は武田から放逐、ないし殺され、武田晴信の身は安泰になる。武田は守られる。
 そうなるとふんで、由布姫のもとにきた。

 しかし甘利が後でつぶやいたように、「聡明な姫」だから、由布姫はあえて刃を収めた。
 と甘利が姫に感心したように、由布姫も甘利の行動に心を打たれる。そこまでして、武田を守る家臣がいるのかと。

2.三条夫人
 Muが一番心休まる三条夫人。いまだに「晴信さん~」という京言葉のイントネーションが耳に残る。
 これは、結論から記す。
 由布姫は、三条夫人から言われる。
 「運命(さだめ)なれば、そなたの心がけ次第で、如何様にも楽しめるというのか。そのように、恥じらいまでをなくすとは、……」
 これは、三条夫人が、晴信の歌が曝されているのを見て言った言葉だった。その歌は、由布姫らが勘助から受け取ったとき、笑ってさらしたものだ。

 「君のいる、我が山里をつらく見て、心のうちに待ちし春風  晴信」

 つまり。三条夫人は、正室のプライドにかけて、由布姫を慰問したわけだが、そこに見たのは歌心を外れた亡国の姫の姿だった。
 三条夫人が後で涙を抑えたのは複雑だろう。一つは、晴信が由布姫に歌を贈った事実。これは悲嘆であり嫉妬でもある。もう一つは、その歌を由布姫がさらしものにしていたという事実への怒り。

 だが、ここから由布姫の聡明さが始まる。
 そういう正室と側室候補の対面の危なさを知りながら、あえて三条夫人が正室の誇りにかけて、側室を迎えにきたという、そのけなげさ。心を傷つけられるかもしれないことを知った上で、三条夫人が来たこと。そして、歌を見て、嫉妬ではなくて、晴信の威厳をコケにしたことへの、正室の怒り。これらを由布姫は一瞬にして、悟った。

 <甘利も正室も、身を殺してここに来た。そして傷ついた。わたしだけが無傷ではすまない>と、うなずき、由布姫は勘助に武田に入ることを伝えた。

 さらに事の起こりは、晴信が贈った歌で、初めて由布姫は笑った。これは晴信の機略だったのかもしれない。その歌は、直裁なだけで、ヘボ歌ではないと思う。
 
 歌心ある公家の娘の三条夫人なら、笑いはしなかろう。由布姫はまだ、歌の初心者だったのだと思う。歌心というのは、現れた文字面だけで分かる物ではない。由布姫が笑った。そこには、歌に晴信の優しさがあったのだろう。

 というわけで、今夜の風林火山は、いささか奥が深い。ただ、そういうことをあれこれ考えながら見たわけではない。手に汗握っていた。そこが、このドラマの優れたところだと思う。過褒かもしれないが、なかなかに、大河ドラマの水準を大きく超えた一夜だった。

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コメント

お久しぶりです。

先日の大河、由布姫が刀を納めの甘利氏に向かって言った一言。

「このこと、なかったことにいたしませう。」

と言った由布姫の目が忘れられません。

同じ女性から見ても、ぞっくっとした美しさでした。
今年の大河は、私の中では近年稀に名作の予感がいたします。

それでは。

投稿: 玄海海月 | 2007年5月 7日 (月) 23時04分

玄海海月さん
 人別判定に約5秒かかりましたが、恐らく確度90%で、例の人とわかりました、えっ、そうなんでしょう? あはは。

 ガラシャ夫人も壮絶な女だったけど、状況から考えると、由布姫も凄いものです。16歳の少女にとって、父親はそれなりに頼った人物のはず。それが春信に切腹させられて、その上、側室とは、ちょっとキツイ話ですね。

 一応、まわり全部から、よってたかって聡明の、勝ち気の、美少女の、絶世の美形のと言われたふしがありますから、当時の女性として優れた人だったのでしょう。

 生死の狭間に立たされた時、人間は二分されると考えてきました。怯えて逃げて殺されるか、腰すえて歯を食いしばって現実を見据えるか。
 一般に、怯えきってしまうと判断を誤り、失敗するものです。

 演出と柴本幸による由布姫の造形は、まるで、真っ赤な火箸を諸手で握りしめるクソ度胸ですね。

 古くは、クガタチという、熱湯に手を突っ込んで正邪を判定する恐ろしい裁判がありましたが、なんとなくそれを思い出しておりました。甘利は、武田家裁判官だったのかなぁ。

 私も、今年の大河は名品という御説に同意します。
 社会人5月病、ストレス性諸症状、ご自愛あれ。

投稿: Mu→玄海海月 | 2007年5月 7日 (月) 23時32分

ふらふらとブログを辿っていて、ここにたどり着き、はじめてコメントさせていただきます!
今回、私も見ていてどうしても分からなかったのが、ラストの甘利と三条とのやりとりのシーンのあと、「お二人とも私に討たれにきた」台詞だったのですが、Muさんのレビューを読んでようやく納得が言った次第です。私は女性なのですが、Muさんが男性だから、ということはまったくないと思います。今回の脚本は男性が書いていることもあり、違う視点を見たような気がして思わずコメントしています。ありがとうございました。

投稿: なったん3211 | 2007年5月 9日 (水) 10時15分

こんにちは、なったん3211さん、はじめまして

 この回へのMuの解釈は、少し深読みかもしれません。
 ドラマ自体は、そういうことぬきで、手に汗をかいてみていたのですが、終わってから、由布姫がなぜ、なっとくしたのか、わからなくもなったので、あとで想像したわけです。
 脚本や演出がどなたかを考えるほどマニアではないので、ちょっと考え込んで、一つの案を提示したわけです。

 昔の人の精神構造は分かりにくいわけですが、恥を知るとか、名誉を重んじるとか、メンツは命にひとしいとか、役柄や立場で、今よりも強かったと思います。
 それに、切腹なども、切腹すれば家が助かるとか、別の条件もあったのでしょうね。

 で、重臣甘利としては君命に背くことは家名の恥なんでしょう。だけど、由布姫を武田に入れることは、武田の滅亡と感じた。だから、由布姫に討たれることで、彼女を排除しようとした。

 正室、正妻というのは、側室が何人いようとも、圧倒的な権威があったんでしょうね。皇室だと、昔は、正妻・皇后なら皇位継承権があった時代もあるのでしょう(?)。だから、人間としての嫉妬と、役割としての正妻とは、区別できるように育てられたのだと考えます。
 しかし「側室候補の分際で、殿の威厳に泥をかけるなど、恥さらしなことを、ようやらはりますなぁ、ゆ姫さん」という怒りと解釈したのです。

 以上の、解釈のあたりはずれは、責任もてません(笑)

投稿: Mu→なったん3211 | 2007年5月 9日 (水) 10時44分

Muさん、はじめまして。ブログ検索でここへ辿り着きました。
本当は19回の方へもコメントを入れたかったのですが、この回の解釈が素晴らしかったので・・・
ネットを回っていてビックリしたのは、あの短冊を「飾っている」と解釈している人の多さです。
あんな飾り方は あ り ま せ ん !(当方国文・万葉専攻でした)
あれはラブレターを黒板に貼り付けて冷やかすような無粋な行為でしょう。
清華家出身の三条の方がそれに気づかないはずはなく・・・
そりゃ怒りますよね、「はしたない!」って。

あと、奥向きの序列はかなりきちんとあって、そうでないとお家騒動頻発です。
萩乃さんの態度がデカい!とおっしゃる方もいらっしゃいますが、彼女はいわば裏のお館様の側近。
正室はもし当主が亡くなれば、嫡男の後見として重きをなす存在です。
ですから19話で勘助が晴信の意を受けて、正室も側室も同じみたいなことを言うのは
彼があくまで軍略家であって、政治家ではないことを象徴したうまい台詞だと思いました。
(雪斉禅師ならああは言うまい・・・)

これからも感想楽しみにしておりますm(_ _)m

投稿: みゆ | 2007年5月14日 (月) 16時48分

みゆさん、始めまして。
 ご丁寧なコメントありがとう。貴サイトも拝読完了、なかなかべらんめー口調がおもしろいですね。

 さて、ネットの怖さも味わいました。いろいろな専門家がいるのですね。奥向きのことはよく分からないまま、本論を記してしまいました。そうですね、萩乃さんなんかにもう少し注目してドラマを見る目も必要ですね。来年はそうしようと思った矢先だったのですが(言い訳)。

 三条夫人の叱責を、由布姫がハッとして受け止めた場面はよく覚えております。あの由布姫の驚きは、夫人との教養の差を味わったものと解釈しましたが、どうやらそれで良かったようで、ホッとしています。

 どれほど美しくても、千年の公家文化の中で育った三条さんの前では、由布姫もたじたじとした、そういう演出がよかったです。三条夫人と由布姫の掛け合いが、どろどろじゃなくて、互いに、物事の本質を知る女性として描かれていたのが、よかったです。

 雪斉禅師、いやはや思い出します。この人が再びでてこないかと、内心まっているのです。勘助の謀略もあるなら、雪斉の謀略もないと、おもしろみが半減します。

 ただ。勘助は、ええ漢(おとこ)ですよ、みゆさん、あんまり彼を邪険にせんといてくださいな(笑)。
 

投稿: Mu→みゆ | 2007年5月14日 (月) 17時50分

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