NHK風林火山(17)由布姫の慟哭
由布姫の泣く様をいろいろ考え込んで見ていた。両親と家のない16歳の少女が置かれた立場とはどういうものであろうか。そこにあるのは飢餓の恐怖よりも、生死の分かれ道に立った決断の恐怖であろう。現実の由布姫役・柴本幸は23歳の、長身らしい。今の青年は往時の7掛けとみてよいから、丁度16歳の役を演じてよい年頃だ。
実父の敵(かたき)の側室になるというのは、相談相手もいない16歳の少女にとっては、どのような決断だったのか。晴信に頭を下げても、乱世だから、栄誉栄華は保障されない。晴信がいつ、姫の父・諏訪頼重と同じ運命になるかもしれない。武田晴信の気持ひとつで謀殺される可能性もある。たしか、晴信の母も、その父は信虎に討たれたはず。敵将の娘や妻を自らの側室にするのは、他の事例でもあったのか、常磐御前がそうだった。晴信の側近の多くは反対した。16歳の少女に晴信が寝首をかかれる危険性がある。由布姫はすでに、勝ち気、気の強さで知られていた。
ドラマとして。多くのエピソードがあったが、それらはそれらを見ているときは飽きもせず、食い入るように魅入っていたのだが。しかし、こうしてドラマが終わり記事を書いていると、奇妙に記憶が薄れていく。晴信の妹、晴信の正妻。この駆け引きと言うよりも、二人の気持の動きは鮮やかだった。けれど、それらが急速にフェードアウトして、由布姫の涙と怒気とがくっきりと甦る。ここしばらくは、由布姫がヒロインなのだろう。
勘助が二重、三重に自らを韜晦(とうかい)し、本心を別の方向に向けていき、その度に由布姫から面罵され、それでもあるかなしかの、唇をゆがめるだけの微笑みを自らにだけ見せたのが迫真だった。一旦は、姫から信頼を受け「山本殿」と呼ばれた勘助が、場面変わって障子を開けた途端、「下がれ。そなたの顔など見とうない」と冷気を浴びせられ、マリシテンの守り神をたたきつけられたのは、ドラマとはいえ勘助にとっては惨い立場だった。
「それを捨てよ」「はっ」「そなたの信じる神など、私には無用じゃ」
こういう葛藤を抱え込んだまま、軍師山本勘助は晴信につかえ、由布姫を守る。16歳の由布姫に46歳(推定)の勘助の真意、雅量、愛、忠誠が理解できるとは思えない。醜く、汚く、策略に生き、晴信の「影」となって生きる勘助の気持は、本当は現代人の多くにも理解できないことだろう。勘助が「そのように生きた」ことは、ある種の感動をもたらすが、「なぜ、そうしたのか」これは理解を超える。
おそらく今年の風林火山は、なぜ勘助がそのような生き方をしたのかを、ドラマとして定着出来たとき、大成功だったと、大晦日に私は言うのだろう。
「勘助の純愛?」駄目だね、それじゃ。視聴率は上がっても、つまらん。
「忠義?」うむ、感心しないな。
「……?」
ともかく、ここ数年間、NHK大河ドラマの役者達には、大抵感心してきた。今年も、何人も感心する役者がいて、余は実に満足である。来週も、見よう。
今夜の名台詞
由布姫 「下がれ。そなたの信じる神など、私には無用じゃ」
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