小説木幡記:20070329(木)曇日に、昨夜のパーティーを思う
先夜は、京都駅東のセンチュリーホテルで、日頃おせわになってきた図書館のM課長さんの定年記念パーティーがあった。余も参加し、乾杯の音頭をとった。学長の挨拶や大学局長や、そうそうたるメンバーの顔もあって、気後れした。
今日になって、わざわざ記録したのは、Mさんにむけてのとても心に残った祝辞がいくつもあったからだ。余はこの二年間、気ままに気楽にM課長さんと仕事をしてきた。そのMさんが、私と同年代とはおもってもいなかった。二年前には、「若い女性が大学図書館を切り盛りするのは大変だろうな」、と考えていたくらいだった。穏やかな人としてずっと印象に残っていた。なんと、同年代だったとは。
図書館は、いろんな悪条件の中で、いろんなことが少しずつ改良されてきた。たいていは、「先生、こうしたほうが良いとおもうのですが」と、Mさんが先に話された。余は、そうですねぇ、そうしましょう、と相づちを打ってきただけだった。ところが、数日後には、そうなっていた。年に数回行われる教授連を交えた会議も、大抵は波乱もなく、ほぼMさんに伺った通りの内容で通っていった。
おや? と、気がつくべきだった。余は、そういうもんなんだろうな、とのんきに考えていたふしもあった。なかなか当局も教授連も図書館のことをよく考えてくれているね、などと脳天気なことを口にしたことも多々あった。もちろん、そういう点もあったかもしれないが(笑)
いや、余はアホかもしれない。沢山の祝辞、お別れの言葉を聞いていて、なにか、穴があったら入りたくなった。最初のうちは、
「40年近く前、Mさんが図書館に来てしばらくは、四季折々に、花やお菓子を図書館に持ってくる男性職員の姿が絶えなかった」
そうだろう、そうだろう。背も余より高いし、色白だし、さぞお若い頃は男性を悩ませたのだろうな、今もその面影がはっきり残っている。ふむふむ。そう、思って聞いていた。
ところが、だんだん。
「Mさんのことでは、歴代の経理部長が蒼くなっていた」
ほお?
「絶対に、Mさんの話をそのまま通すわけにはいかないと思っていても、結局予算をかすめ取られてしまう」
はぁ?
ここで手短に結論を記す。
要するに、この二年間、余にとっては気だてのやさしい、よく気がつき、万端遺漏のないベテラン課長が、実は。
実は「課長は魔女だったのかもしれない」。
わが学園内で、最強の辣腕。言い出した予算、人事は、なにがなんでも、いとも簡単に(と、みえただけ)通してしまう、ものすごい人だった。
そういうこと。
余は昨夜、そういう優秀な人と仕事をできたうれしさを味わい、同時に冷や汗をどっとかいた。
そういえば、Mさんは、比較的小規模なわが図書館にあって、非常に早期のコンピュータ化を主導的に達成した課長さんだった。日本の中でも早いケースだった。随分以前に図書カード内容は、数年かけてすべてデータベース化を達成していた。それだけの人事・予算を、彼女はなにがなんでも、学園から搾り取ったのだ。そういう事実を、余は二年前に「そうだっけぇ」と、ぼけた顔して自分で確認したはずじゃなかったのかぁ~。
ああ、万事につき、余は脳天気にすぎた。
Mさん、あなたは葛野の魔女だったんですね。何も知らずに、二年間お世話になってしまった。
心から、ありがとう。
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