皇国の守護者(1)反逆の戦場/佐藤大輔
皇国の守護者(1)反逆の戦場/佐藤大輔(中央公論新社)
次に書状があって、皇紀六二八年冬 宛先は牧嶋光信
次に配属辞令があって、皇紀五六八年春
宛 <皇国>陸軍中尉 駒城家育預(はぐくみ) 準氏族 新城直衛
~
転属命令
<皇国>陸軍独立捜索剣虎兵第一一大隊第二中隊
中隊本部付幕僚(中隊兵站将校)に任ずる。
~
<皇国>陸軍大臣 東洲伯爵 安東吉光(印)
(副署) <皇国>兵部省陸軍局人務部長 陸軍少将 準男爵 窪岡淳和(印)
次にようやく序章の形で、
天狼(てんろう)会戦 皇紀五六八年 冬
第一章 剣虎兵(サーベルタイガーズ)
第二章 光帯の下で
と続き、巻末を見るとすでに九巻「皇旗はためくもとで」まで出ているようだ。読了のファンは百も知っていようが、私はまだ第一巻を読んだところなので、すべて推測になる。なんとなく最初の「書状」と、皇旗はためく世界とはリンクしているように思えた。(わからない)
いかにも日本をモデルにしているようだが、そうでもない。ただ、もう一つの並行世界の日本と考えると飲み込みやすい内容だ。いま私が住んでいる日本との類似で想像すると、銃が先込銃で、主人公が内乱の孤児からみて、明治時代かもしれない。電気はない、ガスもなさそうだ。蒸気機関のたぐいはあった。汽車はない。ないないと記しているが、二巻以降でどうなるかはわからない。
北の寒冷地(北嶺)に、突然「帝国軍」が進入してくることからみて、これは露西亜かとも思ったが、使われているカタカナにはドイツ語も混じっている。帝国は世界帝国の想定なので、ヨーロッパと露西亜を足したような雰囲気をかもし出している。軍装はなんとなく、プロイセンのものだ。皇国の軍装は、明治時代と違和感がない。
このような類推をするのは、単に愉しみであって、小説自体の構造、その内的な世界とはやはり異なるものだ。印象深い最初の書簡内容と一巻全体から考えてみると、主人公は新城直衛という、孤児出身で、貴族となんらかの縁が生じ、その眷属に加えられて、やがて後世、タイトル通り「皇国の守護者」となる運命と想定できる。
新城(しんじょう)の性格やものの考え方・行動にこの小説の面白さ、良さがあると、そう感じた人には嵌りこむタイプのシリーズだと思った。私は、そうであった。
行動とか戦いに、一見無鉄砲な、常軌を逸した、下品な、反感をかうようなパターンが常に見受けられるが、その一つ一つが、細心の、臆病なほどの精神状態から、常識を覆す現実行動を生み出す賢明さ持った、「恥を知っている」(p79) 男として描かれていた。
ともかく精緻な異世界があって、アクの強い新城が何度も窮地に立ちながらも状況を切り抜いていく、そういう爽快さがあった。さらに、その世界は夢幻なのだが、実に現実的な筆致で描かれていた。たとえば、剣虎兵、これは作品中「猫」であり、新城の友「千早」として登場する、実は巨大な虎である。空には翼竜が飛び交い、また不思議な力を持った天龍(知能を持った龍属)が強い印象を与える。ファンタジーではない。ファンタジックな要素を、どこまで自然に読ませるかについて、私は自然に現実の世界として受け取っていた。
いま、新城は極寒の北嶺地で、帝国軍の侵攻をうけ、皇国の殿軍として敗走につぐ敗走の中、果敢に一矢も二矢も報いている。皇国は豊かだが、世界の中ではあなどられ、蔑視されている。そういう鬱憤の中で、新城がどのような救国者になっていくのか、微妙さと、希望と、戦慄を残したまま、第一巻を終えた。
追伸
なお、原作佐藤大輔、漫画伊藤悠、集英社から同書名の漫画が2006年に、公開されはじめた。私は三巻まで読んだが、丁度原作の一巻が、漫画の1~3に該当するようだ。これもまたおもしろいのだが、MuBlogでは当面原作の方で感想を記していきたい。
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