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2006年8月20日 (日)

男たちの大和(DVD)/辺見じゅん原作、佐藤純彌監督

戦艦大和終焉海域・昭和20年4月7日(北緯30度43分 東経128度4分)地図

 映画「男たちの大和」が公開されてから八ヶ月後にDVDを入手し、初めて観た。
 佳い映画だった。

戦艦大和・菊花紋章

男たちの大和(DVD箱表紙)
 事情が重なったのだろうか、あるいは意図がことなったのか、「海ゆかば」のメロディーはなかった。ただ、鑑賞中、それがずっと私の中に流れていた。だから原作の辺見じゅんさんや、監督の佐藤純彌さんのお気持ちとは少し離れたところで、大伴家持の長歌を思い出していた。お二人とどのくらい離れていたのかはわからない。最後まで、気持を込めて見終わったので、違和感なく、おそらく接したところも多かったのだろう。

 家持が萬葉集に残したのは「陸奥国で金が出たことの詔書に、歌一首をもって賀する」(賀陸奥國出金詔書歌一首)という背景がある。時代は東大寺の大仏建立前後だった。歌の中に仏は現れない。少し長いが引用しておく。
  ……(略)
  いよよ思ひを 大伴の 遠つ神祖の その名をば 
  大来目主(おおくめぬし)と 負ひ持ちて 仕えしつかさ

  海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね) 
  山行かば 草生(くさむ)す屍 
  大君の 辺(へ)にこそ死なめ 顧(かえり)みは せじ

  と異立(ことだて)て ますらをの 清きその名を 古よ 
  今のうつつに 流さへる おやのこどもそ 大伴と 佐伯の氏は
  ……(略)
  異(こと)のつかさそ 梓弓(あづさゆみ) 手に取り持ちて
  剣大刀(つるぎたち) 腰に取りはき 
  朝守り 夕の守りに 大君の
  御門(みかど)のまもり 
  われをおきて また人はあらじ と いやたてて
  思ひしまさる 大君の 御言の幸(さき)の 聞けばたふとみ

 この歌を天平時代、当時の世界観のなかで理解することは、現代人にとっては非常に難しいことだと思う。そしてまた昭和初期、信時潔(のぶとき きよし)が作曲(1937)した当時も、現代の者にはわかりにくいものである。ちなみに、信時さんは、私の勤務大学・校歌の作曲もされている。私は気に入っている。

男たちの大和より、戦艦大和

男たちの大和(DVDケース)
 映画を見終わって真っ先に浮かんだ言葉は、「海行かば、水く屍」だった。屍(かばね)は人の気持ちや思いの抜け殻だった。抜け殻を布に包んで大勢の生者が最高の敬意を表し、水底に祀っていく。そして、大和が沈んだとき、見送る生者もなく、ただ水没していく。誰が見送るのか、と思ったとき落涙した。

秘録・大和伝説

秘録・大和伝説
 映画は、生き残った人や、その縁者が現代から60年前の昭和二十年四月七日、北緯30度43分・東経128度4分の海域を振りかえったものだった。生き残った漁船の老船長は、会うこともなかった戦友の戦後の死を知り、その養女を片道15時間もかけて洋上に運んだことで、昭和の終わりを確認した。養女は戦災孤児だったのか、養父は戦後十数人の養子を育てた。その一人として、生前養父の気持ちを理解出来なかったまま、なにかにせかされるように東シナ海にたどり着き、骨を海に沈めた。この間、老船長の回想の中で、初めて深く養父の気持ちを理解した。
 傍にいた魚船員見習いの十五歳の少年も、老人の昔の気持を理解した様子だった。

しおり(映画 男たちの大和 YAMATO)

しおり(映画 男たちの大和 YAMATO)
 どのように考えても、日本は菊花紋章を燦然と輝かせた世界最大最強の戦艦大和を、呉で造った。造るだけの技術と思想があったからだろう。その技術と思想とを、人を殺めるためのものと考えるか、国を護るためのものと考えるかで、この映画もとらえ方が異なってくる。

 ただ。
 と、いま書きながら思ったのだが、水く屍、草むす屍となった人のことは忘れない。
 そうしてもう一つ。こんな風に考えている。様々な法で人を裁くのが法治国家であり、このことによって時代時代の秩序安寧が保たれる。そして戦勝国による東京裁判での戦争犯罪者に関して、それが破廉恥犯罪なのか、政治・思想犯なのか、この違いは熟考するべきだと思う。
 コスモポリタニズム(世界市民)は、国を半ば否定しながらも、その国々あってこそ各国を自在に歩き回り、活動し、生活ができる。国々が無くても、まったく別の世界秩序が保たれると考えるのはユートピアンであろう。そしてこれまでユートピアはこの世になかった。

参考
  長迫公園:旧海軍墓地(MuBlog)
  呉鎮守府司令長官官舎(MuBlog)

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