ヒストリアン/エリザベス・コストヴァ(その1)
その1:複雑な小説構成
ヒストリアンを完読したが、感想というよりも、批評というよりも、読書メモとして記録しておく。
主テーマ
500年間にわたるヨーロッパの歴史の中で、ワラキア公ヴラド・ツェペシュ(ヴァンパイア)の足跡を、歴史学者(ヒストリアン)達が探索する。
主要な視点が4つある。
1.ロッシ教授:歴史学者(ヒストリアン) 1930年代の世界
2.ポール大学院生:ロッシの愛弟子 1950年代の世界
3.ヘレン:大学院生:ポールとともに失踪したロッシを探索する 1950年代の世界
4.「私」:ポールの娘:21世紀の視点 1970年代の世界
ロッシとポールとは師弟関係。
ポールとヘレンは、友人、共同研究者、愛情で結ばれた関係。
ポールと「私」は、親娘関係。
ポールは失踪したロッシをヘレンと共に追う。
ポールは失踪したヘレンを追う。
「私」は失踪した父親ポールを追う。
ロッシ教授←ポール院生+ヘレン←ポール教授←「私」
「私」は、こういう関係を2008年の今、オックスフォード大学で、文書、手紙、インタビュー、記憶によって図書にまとめている。
緻密な描写
図書館や文書館、修道院や城跡。ヨーロッパ(南)全体が舞台になっていて、その描写が60%程度あるように味わった。旅行記と思って佳い。
一千年続いたビザンチン帝国の崩壊と、メフメト二世によるオスマントルコの隆盛、大都市コンスタンチノーポリス=イスタンブール、そしてドラキュラが埋葬されたと歴史的にいわれているルーマニアのスナゴフ湖の島にある修道院。これらの描写が緻密で美しく、印象にのこる。
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