『蛇神祭祀』(はむかみさいし)の連載
昨夜半、突然床から立ち上がり、激情にかられて長編小説の連載に手を付けた。
今朝、振り返る余裕ができた。
『蛇神祭祀』(はむかみさいし)
『犬王舞う』と同じく主人公は二十歳半ばの、大学図書館司書「小泉佐保」とした。司書と言われる職業にも様々なタイプがあるが、「大学図書館司書」の場合は、他に比して知的冒険ができる環境、する機会が多いといえる。その事情は、背後に膨大な学術系書籍を持っていることから生じている。この世のありとあらゆることを記した図書や文書が、大学図書館の書庫の奥底に隠れ潜んでいる可能性が高い。そこを自由に走り回れる人は、研究者よりも、司書だと思っている。
しかし、佐保は司書であって、読書人ではない。
読書人としては、佐保の先輩同僚として「長田(おさだ)」クンを『犬王舞う』ではそえた。彼は森羅万象、ことごとくを読み切った人物として設定した。もちろんまだその片鱗すらうかがえないのだが、創作データベースにはそう記録してあった(と、もちろん私が記述したのだが)。
佐保は行動の人でもある。知的冒険は書庫の奥底やインターネット情報の深海や、佐保の脳内のことだけでなく、外にでてもらいたかった。だから佐保は、父親が年に数回しか乗らないGTRを自由に操れる女性として、どこへでも行ける条件設定にした。一般にGTRを好む女性は少ないが、これは作者が、以前の無骨なGTRを好ましく思っていた反映である。
そんな、いくつかの複合条件の結果、小泉佐保が生まれた。そこで、今回の『蛇神祭祀』では佐保に奈良県桜井市の三輪山近くの穴師(あなし)へ飛んでもらうことにした。
佐保はそこで仕事をすることになっていた。師匠に頼まれた仕事だから、佐保としては断るわけにもならず、友人や後輩と合宿することになっている。
ここで、佐保達が師匠や依頼主に応じて、汗をながし調査し討議し、報告書を書くというのも、現実の司書にはまれにある。全集の編纂をしたり、専門的な便覧や辞書を造ったり、名家の蔵から出た大量の文書の目録を造ったり、古い大学図書館の書庫を大々的に整理したりする時には、研究者よりも司書の職性の方がやりやすいことが多い。
ここで対象分野の専門研究者と異なるところは、情報を整理する点からみた司書は、分類や、目録や、索引を造り、対象世界を分野の専門性という視野狭窄に陥らず、客観的にまとめ上げる点に特性が発揮される。司書のサービス相手は日々カウンターに来る利用者だけではない。
しかし。
作者はそういう気むずかしい世界が苦手なので、あっさり佐保に、事件の渦中に入ってもらうことにした。
どういう事件なのか。それがわかりにくい。
実態が外からは見えない「笠御諸道教団(かさ・みむろみち・きょうだん)」の、現実の組織や、地下に遺跡を持つ教団大施設の中や、1800年間に近い深い歴史のなかで起こる事件なのだから、作者もときどき分からなくなる。分からなくなるところは、すぐれた読者一人一人が、作者も及ばない事件の絵図や、解釈鑑賞を後日提供して下さるだろう。小説という近代ジャンルにあって、現代は、作者という「神」は死んだ。
blogは、これまでの「紙メディア」とは異なる面が多いから、司書・小泉佐保も新たな経験をすることになる、と考えている。
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コメント
遂に始まりましたね!
待ってましたよ。
所で、蛇神は”はむかみ”と呼ぶ風習は作者の独自に考えられた読み方ですか?
佐保ちゃんの、二回目の冒険がスタートしましたね。楽しみに読ませて頂ます。
投稿: jo | 2006年4月12日 (水) 11時56分
→jo | 2006/04/12 11:56:58
お目にとまりましたか~、気恥ずかしい。うふふ。
「はむかみ」は作者の想念から生まれました。しかし諸論みておりますと、やはり、蛇さんは、咬みますね。咬む神さんですよ。
佐保の冒険は、二作からは、狭い図書館からぶっ飛んで、走り回らせたいのですがね。どうなりますことやら。たしかに、作者の手を離れて、このごろ佐保君は、冒険に目を輝かせております。
よろしく。
投稿: Mu→Jo | 2006年4月12日 (水) 16時20分