« 【映像展開/森博嗣】が不思議だった | トップページ | NHK功名が辻(11)比叡山焼き討ち »

2006年3月18日 (土)

20世紀少年(21)/浦沢直樹

承前[MuBlog:20世紀少年(20)]

いままでのあらすじ

 昭和40年代。空き地に秘密基地をつくり、21世紀を空想していたケンヂと仲間たち--悪の組織の地球滅亡計画を阻止する正義のヒーローを夢見て、他愛のないシナリオを作成して、それを”よげんの書”と呼んでいた。一九九七年、失踪した姉キリコの娘カンナを育てるケンヂは、彼の周辺で起こる奇妙な事件が”よげんの書”どおりであることに愕然とする。その背後に見え隠れする”ともだち”と呼ばれるカリスマ。そして20世紀最後の大みそか、”ともだち”は自作自演の人類救出劇を巧みに遂行し、”血の大みそか”の惨劇を救った世界的英雄となる、一方、正義のために戦ったケンヂは、悪の組織のリーダーという汚名を着せられて戦死する……。(p4-5)

20世紀少年:21宇宙人現る
 その後、いろいろあって、いま”ともだち”は世界大統領となって日本を支配している。このカリスマは一体何をしようとしているのか、謎だらけである。折しも東京の空には空飛ぶ円盤が現れ、宇宙からの侵略の恐怖を人々にかき立てている。”ともだち”は火星移民を世界中に伝え、その第一次先遣調査隊は火星に人類が居住できるだけの証となるデータや映像を送ってきている。

 この21巻では、北から東京へ目ざす男の物語と、東京で地下活動をしているカンナやヨシツネの物語と、そして”ともだち”の奇妙な振る舞いとが、別々の世界で描かれている。もちろん巻末の巻内第11話「仮面の告白」では、人類の生殺与奪を一手にした”ともだち”が、放送施設を使って奇妙なメッセージを送るところで、次巻への楽しみとしている。だが、そういう大局の変化を味わうよりも、非常に細かな、ディテールが画とセリフとで構成されていることに気がつく。
 これまでくり返しあらわれたのは大阪万博、EXPO'70だった。

 「万博っていったら大阪。わかるか?」と、ケンヂ。
 「さあ……」と、青年。
 「東京でやってる万博なんてニセモノだ。
  新幹線で大阪に着いたら、そこは未来世界だ!!
  アメリカ館の月の石、ソ連館、ガスパビリオン、住友館。
  未来の建物がいっぱいだ!!」と、ケンヂ。

 つまり昭和40年代(1965)を幼く生きた人間の多くにとって「万博っていったら大阪。わかるか?」というセリフが実に自然に飲み込める。当時の者にとっては、21世紀は大阪万博に象徴された未来世界だった。いま、時代は2018年。当時少年達によって書かれた予言書の通りに日本は進んだ。地球防衛軍(マーカライト・ファープ砲が原始鳥竜ラドンから地球を守るSF映画)、親友隊(ナチスの親衛隊。当時は、ヒットラーの『我が闘争』が翻訳されていた)が”ともだち”を守り、人々は火星移住(ブラジル移民熱は昭和30年代だったが、昭和40年代は米ソの宇宙開発時代だった)に狂奔している。
 ボーリングの花だった中山律子さえ、登場する。
 要するに昭和40年代の少年少女が熱狂した世界観がそのまま21世紀を覆っている。現実世界観からするなら退化にさえ思えるが、漫画世界にあっては、ひとつひとつが少年達の妄想から生まれたにしても、それをどのように、どうやって現実化してきたのかが、リアルに描かれている。もう一つの世界が、この中に生まれている。
 少年少女が野原に造った秘密基地がそのまま東京に再現され、リアルに人々が粛正され、リアルに関東軍がウィルス被災地として封鎖した東北・北海道に駐屯し、越えられない壁を守っている。
 すべてが子供時代の妄想、空想「よげんの書」によって未然に記されていて、その通りに世界が動いていく。その中心にいるのが、ケンヂと謎の”ともだち”である。

 21巻まで読んできて、この『20世紀少年』は、現在40代から60代の多くの壮年初老層の、ノスタルジーというにはすさまじすぎる妄想の現実化であると、心を突く。
 地下鉄にサリンをばらまいた集団は、”ともだち”を滑稽なほどに戯画化したものにさえ映る。逆の話ではない、”ともだち”が造った21世紀を稚拙に別の世界で実行したのが、件の宗教集団だと私は言っている。その点において、この漫画は現実世界を凌駕していると言ってもよいだろう。

|

« 【映像展開/森博嗣】が不思議だった | トップページ | NHK功名が辻(11)比叡山焼き討ち »

読書余香」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/22035/9133535

この記事へのトラックバック一覧です: 20世紀少年(21)/浦沢直樹:

» 浦沢直樹の「20世紀少年」は「21世紀少年」で終わったのか [MuBlog]
21世紀少年、下/浦沢直樹  数日前に浦沢直樹「21世紀少年、下」を読んだ。これで従来から22巻続いた「20世紀少年」は「完」となるようだ。「21世紀少年」の上下を合わせて、合計で24冊のビッグコミックスは、長いような短いような、これでよかったような、いやいやもう少し先、超能力美少女カンナの行く末まで頑張ってもらいたいような、なんともいいようのない気持になりました。  ともかく終わった、浦沢直樹に... [続きを読む]

受信: 2007年10月15日 (月) 18時13分

« 【映像展開/森博嗣】が不思議だった | トップページ | NHK功名が辻(11)比叡山焼き討ち »